第70話 久しぶりの再会
「陛下、恐れながら申し上げます」
「うむ。申すが良い。レオン騎士団長」
そう名前を呼ばれた騎士団長は椅子から立ち上がる。
「魔人領に攻め込むのは、我らは反対はありません。ですが、他種族たち共に攻めるのはお止めになった方が良いと思います」
「ふむ。何故じゃ?」
「前回の侵攻は他種族との足並みが乱されたため敗退しました。もう一度そうなるのではと思うののが第一です。
第二に武具、兵糧といった兵站は誰が準備するのか。
最後に誰がその連合軍を指揮するかです。以上の三つの事から反対する所存です」
「確かに、今言った三つの事は懸念事項であるな」
「であれば、何故他種族と共に侵攻するのですか?」
「お主の懸念事項なのは分かる。故に、今からその懸念を払拭しよう」
「払拭?」
陛下がそう言うと、皆ざわつきだした。
(そう言う所をみると、陛下も何か考えがあって言うのだろうな)
どんな事を言うのだろうと、僕は耳を傾ける。
「まず第一の懸念だが、我らの足並みが崩れたのは、総大将がきちんと全体の指揮をとっておらなかったから、各種族軍の連携が乱れたのだ」
「確かにそうでしたな。前回の総大将であられた天人族の将は、統率力の面でいえば些か・・・・・・」
レオン騎士団長が苦々しい顔をしていた。
(・・・・・・面倒な人だったんだな)
その顔を見て、何となくだがそう察した。
「じゃから、今回の侵攻軍の総大将は話し合いではなく、くじで決めようとお思う」
「くじですか。ふむ、それなら大丈夫でしょう」
確かにそれだったら、総大将になるチャンスは平等だから反発はないだろう。
というか、前回は話し合いで決めていたのか。何か凄い面倒な話し合いになったのが目に浮かぶ。
「そして第二の方じゃが、武具、兵糧といった兵站は我が国が全面的に統括する」
「という事は、我らの国が兵站を握ると言う事ですか?」
「そうじゃ」
「ですが、我が種族と他種族とでは、武具も兵糧が違います」
そうなのだ。実は人間族と獣人族、竜人族、天人族、亜人族、鬼人族とは武具も兵糧が違う。
例えば、獣人族では弓の作り自体が違う。弓は複合弓だ。
魔物の骨やら皮やら腱を張り合わせた物だ。
獣人族はその弓を使うが、他の種族は色々な理由があって使わない。
その上、この弓の製造方法は獣人族の職人しか知らない。
弓一つで、このように面倒だ。
国王陛下は、そこをどうするつもりかな?
「そこは、ターバクソン男爵」
「はっ、はい⁉」
何で、僕が呼ばれるんだ?
「お主は各種族とそれなりのコネクションを持っておるな?」
「は、はい。ですが、国を通しての付き合いですから、それほど親しいという訳では」
敵対したら縁を切れるように、広く浅い付き合いだ。
まぁ、中には親族を僕の嫁に~とか言っている人は居る。
「そのコネクションを使い、他種族の武具、兵糧などの価値を調べてもらおう」
成程。つまり武具、兵糧の値段の価値を調べて買い上げるという事か。
「分かりました。大至急、調べておきます」
「うむ。頼むぞ」
後はこっちの軍を統括する大将だな。
誰がするのだろう?
「最後に陛下これだけ御聞かせください」
「何じゃ?」
「総大将はくじで決める事にしたそうですが、我ら人間族軍を統率する大将は誰になさるのですか?」
「それは」
陛下は自分の横に居る第一王女を見た。
「我が娘、アウラ・エクセラ・ロンディバルアを大将とする」
陛下がそう言うと、各軍団長達は頷きながら納得した風の声をあげる。
「王女殿下ならば、問題ないな」
「ああ、近衛兵団の団長を務めている方だ。兵からも慕われている」
「うむ。王女殿下ならば、各軍団の兵も従うだろう」
各軍団長達も不満はないようだな。
「では、他に意見がある者はいるか?」
陛下がそう尋ねると、誰も何も言わなかった。
「では、これより四種族を我が王都に招き、そして総大将を決めた後に、魔人領に侵攻する。各々、準備を整えておくのじゃ」
「「「はっ、承知しました」」」
「では、これで会議を終了とする。解散」
宰相閣下がそう言うと、会議に参加していた人達が出て行く。
僕も今日は特に用はないので、久しぶりに友人達に会いに行く事にする。
会議室を出ると、視線を感じた。
何故か理由が分からず、首を動かし周りを見る。
だが、その視線を送る人が見つからない。何だか怖く感じてしまった。
(どうしようかな? 敵意はないようだから無視した方がいいかな)
そう考えていたら、向こうから誰かが走ってこちらに向かって来る。
「お~い」
その者は走りながら、僕に向かって手を振っている。
丁度、逆光なので顔が見えない。誰だろうと目を細めて見ようとしたら、その人は僕に向かって飛んで来た。
「ノっっっっく~~~~~ん‼」
僕をそんな風に呼ぶ人は一人しかいない。
「マイ、ちゃん、・・・・・・ぐぶっ⁉」
僕の喉にマイちゃんが両腕が巻き付かれた。
飛んで来たので、、一瞬呼吸が出来なくなった。
「久しぶり~、会いたかったよ~」
マイちゃんは僕の喉を絞めながら、頬ずりしてきた。
力いっぱい絞めるくるので、息苦しかった。
「ま、マイちゃん、く、くび、くびが・・・・・・」
「元気だった? 領地運営は大変だったでしょう。少し痩せた? それとも太った?」
マイちゃんは首を絞める腕に力を込めてきた。
僕はマイちゃんの腕をタップするのだが、マイちゃんは腕を叩かれているの気にせず、ギュッと首を絞めて行く。
(ああ、やばい、いしきが・・・・・・)
意識が遠のきそうになった瞬間、パコンっと音がした。
すると、僕の首を絞めていた腕が放れた。
咳こみ、新鮮な空気を吸う。
そして、どうして腕が放れたのだろうと思って見たら、そこにはユエが居た。
「マイ、久しぶりに会うのは分かるが、首を絞めてどうする。久しぶりに会って早々殺す気か?」
「うう~、だって~」
ぐずるマイちゃんを言い聞かすように宥めてるユエ。
「ユエ、久しぶり」
「久しぶりだな。ノブ」
ユエは笑顔で僕に挨拶する。
「元気そうで何よりだ。どうだ。領地運営の方は?」
「最初の頃に比べたら、かなり豊かに出来たかな」
「かなりか。・・・・・・・十分過ぎるの間違いじゃないのか?」
「そうかな?」
領内ではまだ開拓村がかなり有る。この開拓村を少しづつ豊かにさせて、村にいずれは町になる予定だ。
「まぁ、ノブならそう言うと思っていたぞ」
「そうかな。ああ、そう言えば、他の皆は元気にしている?」
「うむ。まぁ、皆元気にしているぞ」
「そっか、それでお前はどうして王都に来たんだ?」
「・・・・・・その内、発表されるだろうけど、今の内に話しておくね」
「ほぅ、それは随分と重要な事のようだな」
「うん。という訳で、どこかゆっくりと話せる所無いかな?」
「丁度良い所がある。そこで話そう」
「じゃあ、そこに行こうか」
「うむ、行くぞ。マイ」
「オッケー」
僕は二人の案内で、そのゆっくり話せる所に向かった。




