ミルチャの報告
わたしがこのイノータと共にザクセン着いたその日の内に、領主の館にある執務室に役人達を集めて自己紹介を受けた。そして役人たちの紹介が終ると、イノータはまず、この領の経営状態と領内に存在する村の住民数を記した書類等諸々を用意させた。
役人たちが持ってきた資料を時間を掛けて見だした。
(いくら異世界人の知識でも、この領地を豊かにさせるのはかなりの時間が掛かる筈だ。どんな手段を使うか見せてもらおう)
その為に、こんな僻地まで着いてきたのだ。
イノータは資料を読み漁りだして一時間ぐらい経っただろうか。
読んでいた資料を閉じてイノータは役人に告げた。
「明日、近くの鉱山を採掘に行く人員を用意して欲しい」
それを聞いてわたしというか、この場に居た皆全員、はぁ? という顔をした。
この領の鉱山は全て廃坑になって久しいと聞いているのに、何故採掘をさせるのだ?
「だ、男爵様、我が領の鉱山は廃坑になっておりまして、もう取れる資源は・・・・・・・」
イノータを案内した役人が口を挟む。
「廃坑になったからと言っても。まったく取れないという事はないのでしょう?」
「はっ、粗悪な岩石塊や捨石などでしたら、採れると思いますが」
「僕はそれを見てみたいのです」
「? そのような物を見て何をするのですか?」
「こちらの世界では使えなくても、僕の世界では使えるかも知れませんから」
「・・・・・・男爵様は異世界人と聞いております。異世界の知識でも、廃坑になった鉱山から出る物で使えるとは思えないのですが」
「そこはしてみないと分かりません」
「分かりました。それで人を集めるのですから、報酬は後払いですよろしいですね」
「いや、そこは前払いにします」
「何と⁉」
まだ、何が採れるか分からないのに、前払いをさせるとは、この子、正気かしら?
「金はあります。ここに」
イノータは顎で合図をすると、一緒に付いてきた役人の一人が宰相から貰った皮袋をイノータが使っている机の前に置いた。
その際、皮袋の中身が零れた。
「こ、これは大金貨ではないですかっ⁈」
大金貨を見た事がなかったようで、役人は驚いた顔をしている。
「採掘に必要な人足は何枚いりますか?」
「い、いえ、この大金貨一枚あれば十分です。直ぐに準備に掛かります」
「お願いします」
「はっ、では直ちにっ」
役人は恐る恐る大金貨を一枚取り、それを何かの布で包んで一礼して部屋から出て行った。
他の役人達も慌てて後に続く。
「「「・・・・・・・・・・・・」」」
風のように去っていく彼らは何も言う暇を与えてくれず、わたし達は呆然と見送った。
「・・・・・・・と、とりあえずこんなものかな」
イノータは何とも言えない顔して呟く。
「皆さんは、疲れたでしょうから。今日は荷下ろしをしたらそのまま休んでもらっていいですよ」
「イノータ様は如何なさいます?」
「僕はもう少し資料を読んだら休みます」
「はっ、ではお先に失礼いたします」
他の役人たちは下がって行く中、わたしは一人執務室に残った。
少し言いたい事があるからだ。
「あれ、ミルチャさん? どうかしました?」
「男爵様、そのさん付けはやめて下さいと申しました」
「あっ、そうだったけ」
「それと、先程の下手に取られるような言動はお止めください。男爵様の権威がみくびられますよ」
「う~ん。すいません。どうも、年上の人と話すときは敬語だったから」
「そのような癖は直ぐに直してください。いいですね?」
「え、え~」
「い・い・で・す・ね?」
「はい」
この子も分かった様だ。
それにしても、素直な子ね。普通だったら反発するか適当な事を言ってはぐらかすものなのに。
(まぁ、わたしにはあまり関係ないか)
そう思い、わたしは言いたい事を言ったので、わたしは執務室を辞した。
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翌日。
昨日イノータが言った通りに、廃坑になった鉱山を採掘する為の人足が領主の館の前に集められた。
人数は全部で五十人くらいね。
一人頭銀貨二枚で雇われたと言った所かしら。
「男爵様、一言お願いします」
「えっ⁈ あっ、はい」
イノータは好き好きに並んでいる人足の前に出て来た。
「え~、皆さんには、これより廃坑になった鉱山に入ってもらい、色々な物を採掘してもらいます」
もっと偉そうに言えないのかしら、この子。
「採掘って、鉱山はもう廃坑になったんだろう」
「廃坑になったのに、何を採掘するんだ?」
集まった人足達がざわつきだす。
「既に報酬は払っていますので、皆さんは鉱山に入って採掘だけしてください。そうしたら、良い物をあげますので」
「「「いいもの?」」」
イノータ以外の人達は、それを聞いて声を合わせるかの様に、同じタイミングで呟く。
「それがどんな物かは、採掘した物次第です。ですので、頑張ってください」
イノータにそう言われて、人足達は互いの顔を見る。
「もう、報酬は貰ったからな。やるしかないか」
「それに鉱物を採って来いと言って無いから、何を採って来ても文句は言われないだろう」
「ちげえね。じゃあ行くか」
人足達はここから歩いて、数十分の所にある鉱山に向かった。
正午を過ぎて、陽射し陰りを見せる頃に、鉱山に採掘にいった人足達が荷車を引きながら、領主の館にやって来た。
(さて、これをどするのやら)
イノータはどうするのかと思っていたら、地面に何か陣のようなモノ描いている。
見た事がない陣だ。八芒星の陣など初めて見るわ。
「男爵様、言いつけ通りに採掘した物を持ってきましたぜ」
「ああ、ありがとうございます。まずは、その荷車に乗っている物をこの陣の上に置いて下さい」
「? へい。直ちに」
人足達は不思議そうな顔をしながら、言われた通りに採掘してきた岩石塊を十把一絡げに置いた。
「じゃあ、陣から離れてください」
人足達は言われた通りに、陣から離れた。
イノータは陣の外側に立ち、そして深く息を吸いだした。
「よし、やるか」
そう言って、イノータは両手を地面に叩き付けた。すると、陣が輝きだした。
「あれは、魔法陣? 何をするつもりかしら?」
陣の眩しさに目をやられながら、何が起こっているんか注視するわたし。
そうして見ていたら、陣の中に置かれた岩石塊が光りだして形を無くしていく。
まるで、分解されていくかのようだった。
そして、そこから金色に輝く物体が姿を現した。
(なっ、あ、あれは、まさか、金⁈)
まさかと思いながらも、そうとしか思えない輝きを放つ物体が、そこにあった。
やがて、光が止むと陣の中には、岩石塊の姿は無くなり代わりに、金色に輝く物体が現れた。
「「「・・・・・・・・・・・・・」」」
その場に居る者皆、言葉を失っている中、わたしは陣の中にある小さい黄金色に輝く欠片を手に取る。
そして噛んでみた。昔から、材質を調べる時にやられる方法だ。
噛んでみたら堅かった。その堅さからこれは金属だと分かった。
「これは、まぎれもなく金だ!」
わたしがそう叫ぶと、その場に居る人達は皆声にならない悲鳴をあげた。
正直、わたしも叫びそうだった。
(触媒もないのに、物質錬成の魔法を使うなんて、有り得ない!)
どんな魔法使いでも、触媒もなしにこんな高度な魔法を使うなんて。
後で、上官に報告しておかねば。
「・・・・・・これ、どうしよう?」
それは、貴方が考える事でしょうが!
創ったのだから、責任をもって使いどころを考えてなさい‼
次で外伝は終わりです




