外伝 ターバクソン奮闘記
王都を出立して進む事八日。
ようやく、今日ようやくターバクソンに入れた。
「思っていたよりも、道が険しくて着くのに時間が掛かったな~」
「グリリリュ」
グリフォンも同じ気持ちなのか、、同意する様に吼える。
この魔獣は結構、知能が高いようで、僕の言葉を理解しているようだ。
その内、会話ができるようになるかもしれないな。
「まぁ、当分先だろうな」
「ギュル?」
グリフォンは振り向いて、首を傾げる。
何でもないよと意味を込めて、僕はグリフォンの頭を撫でる。
グリフォンとじゃれていたら、村が目に入った。
ここで休憩がてら、情報収集してそれから、領地の行政を行っている町に向かおう。
「ここで休憩しましょうか」
「はっ、畏まりました」
馬車を操っている御者の人がそう答えると、村から少し離れた所で止まった。
馬車が止まったので、ここで休憩だと分かったのだろう。馬車に乗っていた人達は、馬車を降りて身体を屈伸していた。
僕は村に行って少し話がしたいなと思うのだが、一人で行ったら問題が起こっても対処できないかも知れないので、誰か付いて来てもらおうと思った。誰に声を掛けようかなと思っていると。
「男爵様」
「・・・・・・・あっ、そうだ。僕、男爵になったんだ」
呼ばれなてないせいか、どうも自分が呼ばれている気がしなかった。
もう、こっちの世界では貴族になったのだから、早く慣れないとな。
「えっと、ミルチャさん、何か?」
「ミルチャで結構です。わたしは爵位など持ってはいませんから」
「でも、年上の方ですから」
「どうぞ。お気になさらないでください」
う~ん、仕方がない。そう言うしかないか。
「ミルチャ、何か用でしょうか?」
「・・・・・・村に行き、少しで良いので水を分けて貰えないかと聞いて来ても良いでしょうか?」
「ええ、良いですよ。ついでに、僕も付いて行ってもいいですか?」
「男爵様もですか?」
「少しでもこの領の事を知りたいので」
「分かりました。では、行きましょう」
僕はグリフォンから降りて、村に向かう。
村に入ると、住人と思える人達が、僕達を不思議そうな顔で見て来る。
「どうやら、国の役人が来るのが珍しいようで」
「ですね。でなければ、こんな風になりませんから」
ミルチャさんと話していたら、凄い年長の方が杖を突きながらやってくる。
多分、村長だなと思い、僕はミルチャさんに目配せする。
「王国のお役人様とお見受けします。我が村には何用ですかな?」
「うむ。こちたにおられるターバクソン男爵様が、村長殿とお話がしたいというので参った次第だ」
「男爵⁉ し、失礼いたしましたっ」
村長が杖を落として、その場で膝を曲げて頭を下げた。
周りにいる村の人達も、村長を見習い同じポーズをとる。
「え、ええええ~」
男爵と言った途端、これとは。
この世界では爵位一つで人生が変わるんだなと思った。
とりあえず僕は、村長を立たせて話を聞くために、村長に家に向かった。
「・・・・・・・という事になります」
「成程」
僕は村長の家でここら辺一帯の事情を聞いてみた。
このターバクソン領は昔はそれなりに栄えていたそうだが、鉱山の金、銀、銅の産出量が年々減少していき、遂にはまったく取れなくなったそうだ。
それで段々とさびれていき、今では魔物の毛を売って何とか食いつないでいるそうだ。
幸い、王国の直轄領なので没落する事はないが、それでも日々食べて行くに精一杯だそうだ。
(これは使えるかもしれない)
正直、これからの予定はこの領の都市部に向かい、そこで仕事をしている役人の人達にこの領の現在の状況を聞いてから行動を開始しようと思っていた。
しかしだ。この村長が色々と教えてくれたので、状況を聞く必要はなくなった。
なら、後は行動あるのみだ。
「このまま鉱山に直接行くのも手か・・・・・・いや、それだと人が居ないかもしれないから、人手が集まらないと大変だ。でも、都市に行くのもなぁ」
独り言を言っていたら、村長が話し掛けてきた。
「男爵様、聞いても宜しいでしょうか?」
「ええ、僕が応えられる範囲なら」
「男爵様がこの領に来るという事は、領地の改革に来たと思ってよろしいのでしょうか?」
「そうですね。そうとってくれて結構です」
「であれば、今よりも豊かな生活を送れるという事ですな」
「はい」
そこまで言うと、村長は椅子から立ち上がり、その場で土下座してきた。
「えっ? ちょっ」
「どうか、どうか。我が領地の復興をお願いたします。この通りにございます」
へェ、土下座ってこの世界でもあるんだと一瞬思ったけど、直ぐに僕は席を立って、村長の所に駆け寄る。
「頭を上げてください。村長」
「どうか、どうか」
村長は額を床に押し付ける様にして、顔をあげてくれない。
ここは村長が思っている事を言わないといけないようだ。
(すこしテンプレ感を否めないけど、仕方がないか)
僕は村長の肩に手を置いた。
「分かりました。村長。僕の持っている知識と力を持って、ここを豊かにしてあげます」
「お、おおおお、ありがとうございますっ」
村長は土下座したままで、涙を流した。
初めてあった僕に、ここまで頼るなんて暮らしにかなり余裕がないようだ。
これは早くこの領の都市に向かって、改革した方がいいなと思った。
僕達は直ぐに、村長の家を辞して村から水などを分けて貰ってから、出発した。
グリフォンに騎乗して、揺らされながら地図を見る。
「このまま進めば、この領の都市ザクセンに着くのは、三日後か」
地図を見ながら呟く。
村でも結構貧窮していたようだから、この都市もそれなりに貧しいのだろうなと思いながら、前を見る僕。
僕達は村を出て三日後。ようやく、この領の都市ザクセンに着いた。
事前に連絡がいっていたのか、僕達が都市の入り口の門が見える所まで来ると、門の前で役人の人達がズラリと並んでいた。
「はぁ~、何というか凄いな」
『何がじゃ?』
僕の独り言を昨日まで何処かに行っていたモリガンが肩に乗りながら訊いてきた。
今は義体として烏の姿だが、本当は女神様だ。
理由は分からないが、どうやら気に入られているようだ。多分。
「わざわざ、僕みたいな異世界人の為に出迎えに来るなんて凄いなと思ってさ」
『お主、よく鈍いとか言われないか?』
「・・・・・・偶に言われるかな」
主にマイちゃんとかマイちゃんとかマイちゃんとか。
ユエは「ノブらしい」と苦笑する。
「・・・・・・・まぁ、いいさ。それよりも。早く行こう」
『逃げたな』
聞こえない。僕は何も聞こえない。
僕は先頭を歩きながら、その並んでいる列の所に向かう。
「ターバクソン男爵、ご到着。お喜び申し上げます!」
「「「「お喜び申し上げます!」」」」
並んでいた役人の一人が先に言うと、その後に続くように声をあげる。
えっと、この場合なんて言えばいいのかな?
流石にこうゆう場面に会った事がないから分からないな。
『この場合は「大儀である」と言えばよいと思うぞ』
モリガンが話しかけてきたので、僕は小声で話し掛ける。
「それって、偉そうじゃない?」
『お主、この領地の主になのじゃぞ。そんな事を言ってどうする』
「でもさ」
『よいから、そう言え』
モリガンがそう言うので、僕は仕方がなく言う事にした。
「皆、大儀である」
「はっ、男爵様をお迎え出来て誠に祝着至極にございます」
何か、時代劇にこんなシーンあったなと思いつつ、僕は話を続ける。
「では、僕が暮らす所に案内してくれますか」
「はっ。では、わたしめがご案内いたします」
そう言って、最初に声をあげた役人の人が僕の元まで来て、グリフォンの手綱を取ろうとした。
だが、グリフォンの口を見て不思議そうな顔をする。
「あの、このグリフォンの手綱は?」
「このグリフォン、手綱を着けられるの嫌がるので、着けてないのです」
何故かこのグリフォン、手綱をつけようとしたら嫌がる。無理矢理に着けようとしたら暴れるので、仕方がなく鞍だけ着けて騎乗している。
不思議な事にこのグリフォンは指示していないのに、僕が行きたい方向に勝手に進んでくれる。
普通のグリフォンでもここまで知能が高いのは居ないそうだから、変異体なのかな。
まぁ、ともかく高い知能を持っている事だけは分かっている。それだけ分かれば十分でしょう。
「・・・・・・では、ご案内いたします」
役人の人が先導してくれて、僕達は都市に入った。
次は閑話です。




