第5話 神殿で職業を得るとかテンプレ過ぎ
僕達が昨日集まった部屋に着いた時には、既にクラスメート皆部屋に集まっていた。
部屋に入った瞬間、男子の肌を突き刺す視線がいたる所から感じる。
その視線にビクビクしながら、昨日座った席に座る。
「おはよう、ノブ」
隣の椅子に座るユエが羽扇を煽ぎながら優雅に挨拶してきた。
「ユエ、おはよう。その羽扇どうしたの?」
「昨日、メイドに頼んで貰った。どう、似合う?」
ユエは大人びた見た目なので、持っていても不思議と似合っていた。
「とてもよくお似合いだよ。ユエにピッタリだよ」
「ふっふふふ、当然」
ユエは羽扇を煽ぎながら、チラリとマイちゃんを見る。
マイちゃんは何故か、顔を歪ませていた。
僕達が椅子に座ると、ライデルはおもむろに話し出した。
「さて、皆様全員集まったようですので、本日は皆さまに行っていただきたい事がありまして、わたしがまかり越した次第です」
「行っていただきたい事ですか?」
皆を代表して、天城君が答えた。
「左様です。皆様にはこれから神殿に行って頂いて、職業を授かっていただきたいのです」
「「「「「職業?」」」」
職業と言う言葉を聞いて、皆は首を傾げた。
「ええ、この世界ではある程度の年齢になりますと、職業をもらうのです」
「その職業を貰うと、その人は一生その職業で働くと言う事ですか?」
「いえ、それは違います。職業を得ると、適性が他に比べて優れている程度です。例えば、農民の子供が騎士の職業であると分かっても、その子は別に騎士にならなくてはならないという訳ではありません。言わば、その者の適性を調べる為に行う儀式だと思って下さい」
「つまり、適性でどんな職業を言われても、実際の仕事とは関係ないという事か?」
西園寺君が口を挟む。それを聞いて、ライデルは頷いた。
「ええ、実際、わたしも今は大司教の職に就いておりますが、言われた職業は『槍兵』でした」
「成程、その授かった職業による能力の賞与が着くと思って良いのか?」
「その通りです。もっとも、わたしも他の槍兵に比べたら、槍の扱いは上手い程度の能力ですが、非常に強力な職業を得られる事もあります」
「ほぅ、例えばどんなのがある?」
「例をあげるとしたら『剣聖』『魔法皇』『槍神』『拳帝』『斧王』など今挙げた職業は強力でして、この職業を持った者達は英雄になり、王朝を建てた事もあります」
「それは凄いなっ!」
天城君を含めて僕達は驚いているが、西園寺君は顎に手を当てて考えている。
「更に稀に二つの職業を授かる者もおります。この者達は『双性職業』と言われます」
「デュアル?」
「はい、普通、一人に一つの職業を授かるのに対して、このデュアルと言われる者達は職業を二つ持っております」
「職業が二つもあるのか、そのデュアルと言われる人達の割合はどれくらいなんですか?」
「千人に一人居れば良い方でしょう。本当に稀にしか出ないのです」
「そうですか。でも、僕達は職業を貰ったからと言われても、戦争に参加するかは・・・・・・」
皆の顔を見るに、どうやら、まだ答えが出て居ない人が多いようだ。
それを見て、ライデルは手を横に振る。
「ええ、勿論、皆様が戦争に参加するかどうかを考えているのは分かっております。ですが、自分の適性を知ってそこで改めて考えるのも悪くはないと思います」
確かに、その意見は一理ある。
まだ、決めかねている人達に自分の適性を知って、それで決めるというのも悪くない。
もし、戦闘に向かない職業を得たとしても、それを理由に戦争に参加しなくても言い訳が立つ。
仮に戦闘に向く職業を得て、戦争に参加しても自分で決めた事なんだから、文句はないはずだ。
(それにしても、どうにも誘導されている感じするなぁ、もしかして、この国は異世界からの人を召喚するの慣れているのかな?)
強制に戦わせても、戦力に成らない事を知っているから、だから、こうして自主的に戦争に参加させるようにしている気がする。
(考え過ぎかな? どうにも情報が不足しすぎて、向こうが何を考えているのか分からないから、どうしたら良いか分からないな)
僕が悩んでいると、ライデルは椅子から立ち上がる。
「では、皆様を神殿までご案内いたします。どうぞ、わたしの後に付いて来て下さい」
そう言ってライデルは立ち上がり、部屋から出て行った。
ライデルの後に付いて行くように、天城君が付いて行き、その後をクラスの皆は付いて行く。
どんな事をするか分からないので、僕は最後尾で付いて行く事にする。
クラスの皆が出て行く中、僕とマイちゃんよユエと椎名さんと何故か西園寺君が残っていた。
「西園寺君、キミは行かなくて良いの?」
「ああ、どんな事をするか分からないからな、俺は後ろの方にいたい」
「君なら凄い職業を得るかも知れないのに?」
「ふっ、その職業を得るというのが本当ならな」
成程。西園寺君は職業を授けると言って、何らかの手段を用いて、僕達を強制的に戦争に参加させるつもりではと疑っているようだ。
(確か、西園寺君は空手と柔道と剣道を習っていて、特に剣道は大会に出て優勝したことがあるって聞いた事があるな)
恐らく、僕達を強制的に従わせる手段を取ってきたら、クラスメート見捨てて一人で逃げるつもりだろう。だから、こうして部屋から出ないのだろう。
(冷たいけど、自分が助かる為には、誰かを犠牲にするのもやむおえないだろうな。頼れる人が居ないこの世界だったら)
でも、僕はそんな手段を取りたくないな。
もし、考えているような状況になったら、僕は敢えて従って、皆を助ける手段を探すつもりだ。
そう思っていると、西園寺君は掛けている眼鏡を掛け直して僕を見る。
「猪田、俺は男子の中ではお前を買っている。どうだ。もし、お前が考えているような状況になったら、俺と共に逃げないか? 勿論、お前の周りにいる女子達も連れて」
西園寺君が僕を買っていると言う事に驚きながらも、口を開く。
「・・・・・・・何を言っているんだい? 西園寺君。僕は何にも考えてないよ。今だって、この部屋から出ないのは、僕がクラスの皆に嫌われているから、一番後ろの方にいようと思って、この部屋にいるだけだよ」
「そうか、そうゆう事にしてやろう」
西園寺君はニヤリと笑みを浮かべる。
「だが、俺は少なくともお前の事は買っているぞ。天城のように危機管理が薄い奴に比べたら、お前はかなり上等だ」
「それは褒めてるの?」
「当然だ。ここだけの話、大学を卒業したら、お前をうちの会社にスカウトする予定だった」
確か、西園寺君の実家は大企業で、日本の経済の何割かを牛耳っているとか聞いた事があるけど、まさか、その会社からスカウトにされるとは思いもしなかった。
「それくらい、お前には才能があると言う事だ。何せ、あの張大人がお前を偉く気に入っている時点で才能があると言っているようなものだ」
「張大人って、ユエのお父さん?」
何度か会った事はある。そう言えば、僕の事を偉く気に入っていたな。
昔、ユエの家に遊びに行ったら、凄く歓待してくれた。
僕はユエにそうなのかと訊こうとしたら、ユエは顔を背けて羽扇で顔を隠す。
「まぁ、今の話は胸に秘めておいてくれ」
西園寺君はそう言って部屋から出て行った。