第67話 まさか、こんなに集まるなんて
集めた資料を読み、向こうに着いたら何をするか計画を立てる。
細かく立てたら、向こうに着いて実行する際、支障が出て出来なくなる事を考えておおまかにする。
(まずは、支度金で人を雇って廃坑に潜ってもらって、そこから〝ぼた〟とか選鉱の際に弾かれた脈石とかを集めてもらって、それを物質錬成の魔法で金にすれば良い。それを元手に手を広げていけば、援助金なしでも暮らせるようになるだろうな)
どれくらい支度金が貰えるか分からないので、とりあえず最低の金額を想定しておく。
男爵なので、多分金貨十枚くらいだと予想しておこう。
それでこの世界の平均収入が約金貨二枚だと、前にミルチャさんから聞いたので、そこから換算しつつ。採掘作業は金が掛かる事を想定して、一人金貨一枚ぐらい渡せば文句はないだろう。
一日採掘して、それだけ得れば文句を言われる事はないと思う。
「後は、この金で得た資金を元に何をするかだな」
確か『ミルキー・シープ』とか言う魔物がいるから、その魔物を養殖するかな。
その毛は毛織物としては結構高く取引されると資料に書かれていたから、その毛を安定供給できるように生産ラインを作るか。
それとも、亜竜が多く生息しているから、竜騎兵団の騎竜様に調教できる施設を作りつつ、品種改良して強い亜竜でも作るか?
「・・・・・・色々、考えれるな。欲を言えば、岩塩があればいいのだけど」
岩塩は意外と山脈にあったりする。
元々、岩塩は海底が地殻変動で隆起した際、海水が陸上に取り残され水分が蒸発して、塩分が濃縮するか結晶化したものだ。
なので、内陸の国だと意外にあったりする。
特に砂漠が多い所とか。
ちなみに、日本に岩塩がないのは塩湖がないからだ。塩湖が無ければ岩塩も出来ない。
地図を見た限り、この国は砂漠地帯はないようなので、塩湖はないと思う。
「まぁ、この土地に採掘は昔から行われていて見つかっていない所をみると無いのだろうな」
無い物ねだりをしても仕方がないなと思い、僕は晩御飯が出来るまで、領地について考えた。
****************
男爵を授かってから数日間。
その間に色々な事をした。
マイちゃん達を説得したり、領地について調べたり、マイちゃん達を説得したり、説得したり。
・・・・・・こうして考えると、説得に費やした時間が多いな。
特に大変だったのが椎名さんだった。
他の三人は説得して、聞き分けてくれたが、椎名さんは頑として聞き入れてくれなかった。
しまいには、僕に付いて行くと言う始末だった。
なので、西園寺君に何とか聞き入れる様にと頼んだ。
流石は幼馴染なのか、椎名さんは渋々だが聞き入れてくれた。
どんな手を使ったのか気になり、僕は西園寺君に訊いてみた。
『押して駄目なら、引いてみろ』
と言った。うん、全然分からない。
まぁ、聞き入れてくれたから、良しとしよう。
遂に僕は領地に旅立つ事になった。
僕は今、王宮の中庭の一部を借りて、領地に着いて来る人達の人数を確認していた。
「ここに居る者達が、イノータ殿と一緒にターバクソンに向かう者達です」
僕は侯爵の話を聞いて、何人いるか数えた。
ひー、ふー、みー、よー、・・・・・・・・全部で二十人居た。
えっ? 二十人?
予想よりも多いぞ。よく、こんなに着いてくるな。僻地なのに。
あっ、よく見たら。ミルチャさんも居るぞ。
僕に気付いたのか、小さく手を振っている。僕も軽く会釈した。
「ず、随分と集まりましたね。僕はこの半分集まればいいかなと思っていました」
「それは、・・・・・・・娘が頑張りまして」
「・・・・・・そうですか」
エリザさんの事だから、どんな事をしたのだろうか。第二王女様と親しいと聞いているから、その伝手で集めてくれたのかな。
それとも、実家の威光を使って集めたのかな?
「あの、不躾ですけど支度金などは貰えるのでしょうか? 流石にこの人数だと、それなりに貰わないと向こうに着いて直ぐに給料を渡せないとかは流石に」
「その点は、国王陛下が支度金を十分に用意してくれます。更に金が無くなりましたら、私どもに一報入れて下さい。直ぐに支援金を送りいたします」
「そうですか。ありがとうございます」
ふむ。だったら、何か事業を起こす金が無かったら、遠慮なく貸して貰えるだろうな。
そう考えていたら、宰相が宮臣を連れてやってきた。
「御機嫌よう。イノータ殿」
宰相が貴族の挨拶をしてきたので、僕も貴族の挨拶で返す。
少したどたどしいかも知れないけど、慣れてない所為と思って欲しい。
「早速ですが。陛下よりのお言葉を申し上げます」
宰相がそう言ったので、僕は直ぐにその場に跪いた。
「拝聴いたします」
「うむ。では、『この度、ダーバクソン男爵に任じられた者イノータよ。汝に領地運営の支度金として大金貨二百枚を進呈する。領地運営に役立てるがよい』との事です」
大金貨二百枚⁉
予想よりも、多いな。
宰相の後ろに控えていた宮臣の人が、布袋を僕に差し出してきた。
「どうぞ、お受け取りください」
僕はその布袋を受け取る。
「陛下も貴方の手腕を期待しております。どうぞ、ご自由に領地を改革してください」
「はっ。微力ながら、その期待に応えたいと思います」
僕は跪きながら、頭を下げる。
「イノータ殿、そろそろ」
「はい」
僕は立ち上がり、宰相に一礼し侯爵にも一礼してから振り返る。
「これより、ターバクソンに向かいます。総員、乗車っ」
着いて来る人の殆どは、馬に乗れないそうなので馬車に乗って貰う。
幌馬車二台に乗り込む姿を見つつ、僕も自分の移動手段に跨る。
「ギュリリリッ」
鞍を乗せたグリフォンが僕の前に来た。
このグリフォン、前に僕を咥えて空を飛んだグリフォンだ。
それ以来、何故か僕に懐いている。
僕が領地に行く事を何処からか聞いた様で、背に鞍を乗せてスタンバイしていた。
「えっと、道中よろしくね」
「ギュリリリ♪」
グリフォンは頬ずりしながら甘えてくる。
さて、このままじゃれていたら領地に着くのに遅れるので、僕は鞍に跨る。
「では、これで」
「何かありましたら。文を届けてください」
「はい。じゃあ、行こうか」
「ギュリリリリ」
グリフォンは駆けだした。
乗って思ったのは、このグリフォンって意外に早いなと思った。
領地に着いたら、まずはあれとこれをしようと、振動に揺られながら思った。
次からは、閑話を挟んで外伝を投稿します。




