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第64話 指導開始

 料理長の試食をした日かた数日後。

 王宮の中庭の一角を借りて、僕は近衛兵団に料理を出す。

 出す前に、近衛兵団の人達の顔をチラッと見たけど。

 うん、何と言うか殆どの人が死んだ魚みたいな目をしていた。

 残りの人達も虚ろな目で小声でブツブツ言っている。

 チラホラ聞こえてくるのは「・・・・・・おれたちは選ばれた存在なのに」とか「鬼だ、異世界の女性は鬼しかいないんだ・・・・・・」と聞こえて来た。

 すいません。貴方達のプライドをへし折ったのは、僕の友達です。

「イノータ様、陛下より話は伺っております。何やら、教えてくれるそうですが」

 そう僕に話掛けて来る人は、近衛兵団団長のサイモフ・フォン・テネイラさんだ。

 歳は四十代で、顔には皺が沢山あるが、それでも歴戦の将の貫録を感じさせる雰囲気があった。

 でも、顔には疲れ果てた色があった。

 これは多分、あれだ。部下を元気づけようと頑張ったんだろう。

 しかし、今の所効果がないと見た。

 うん。ここは気を紛らわせてから、話をした方がいいな。

 ヴェルデドゥ―ルさんに合図を送る。すると、ヴェルデドゥ―ルさんは軽く頭を下げて、厨房の方に向かう。料理自体は既に焼き上がっているので、後はこちらに持って来て切り分けるだけだ。

 厨房に向かったヴェルデドゥ―ルさんが大きな鉄板に仔牛のような物の丸焼き乗せてやってきた。

 鉄板の運んでいるのは、王宮の使用人の人達のようだ。

 その肉の丸焼きを、近衛兵団の人達が見える所まで持って来る。

 持って行く際、焼けた肉の香ばしい匂いと、香辛料が近衛兵団の人達の鼻を襲ったようで、皆さん、先程まで死んだ魚の目をしていたのに、美味しい匂いを嗅ぐと途端に目に力が宿り、鼻をヒクヒクさせていた。

 僕は肉を適当な大きさに切り分ける。その切り分けた肉は直ぐに皿に盛る。

 その肉に、事前に作って置き今迄軽く温めていたグレービーソースを掛けて出来上がりだ。

 このグレービーソースは、肉を焼いた肉汁やら一緒に焼いた野菜を水で長時間煮込んで、灰汁と油を掬い続けて、トロミがついたら塩と胡椒で味を調えた物だ。

 料理長に試食してもらった時もこのソースを掛けて試食してもらった。

 だから、味に関しては問題ないと思う。

 皿を渡された近衛兵団の人達も、何だこれはという顔をしながら、料理を見ている。

 フォークも一緒に渡されたので、食べ物だと判断した様で、一人がフォークで刺して恐る恐る口に入れる。

 目をつぶり咀嚼する。

「・・・・・・・・っ⁉」

 咀嚼をおえて飲み込んだ瞬間、目がカッと見開いた。

 そして、食い千切るように食べだした。そうして食べたので、直ぐに肉が無くなった。

「お代わりをっ」

 食べ終った人は皿を持って、僕の所まで来てお代わりを要求してきた。

 僕は直ぐに切って皿に盛った。

 お代わりを貰うと、ガツガツと欠食児童のように食べだす。

 その姿を見て、誰かが生唾の飲み込む音をさせて、料理を食べだした。

「「「「っっっっっっっっっっっっっっ⁉」」」」

 あまりに美味しいので、その味に驚いていた。

 皿に盛った肉は直ぐに食べ終わり、皆さん「お代わりを」「こっちもだ」と凄い顔をしながら、お代わりを要求してきた。

 よく見ると、サイモフさんもガツガツ食べて、お代わりしているぞ

 まぁ、話は料理を食べ終わってからでもいいか。


  僕は近衛兵団の人達が全員、食べ終わるのを待った。

 全員がお腹一杯になったので、僕は話し掛ける。

「え、え~と、皆さん。食事は美味しかったでしょうか?」

 そう聞くと、近衛兵団の人達は頷いてくれた。

 掴みはこれでいいとして。そろそろ、本題に入るか。

「皆さんにお話があります。どうぞ、楽な姿勢で聞いて下さい」

 そう言うと、皆さん休めの体勢をした。その体勢で話を聞く様だ。

 僕としては体育座りか話を聞くために、椅子を用意してくれとか言われると思っていた。

 なので、拍子抜けした。

(まぁ、このまま話せば問題ないからいいか)

 僕は話をする。

「僕はイノータ・ノブヤスと言います。気軽にイノータと呼んでください。さて、皆さんに集まってもらったのは他でもありません。僕は国王陛下より直々のご命令により、皆さんにある魔法を伝授する様に申し付けられました」

 王様の口から言われたから、直々の命令と言うのもあながち外れてはない。

 そう聞いた近衛兵団の人達はざわつきだす。

 まぁ、僕みたいな子供から魔法を教わるというのは、プライドが傷つくだろうなぁ。

「本当に王の命令なのか?」

 近衛兵団の人の一人がそう訊いてきた。

 うん。誰だってそう聞きたくなるよね。

「本当です。気になるのでしたら」

「はい。確かに国王陛下からのご命令でございます」

 何時の間にかモリアさんが僕の傍に居た。

 さっきまで居なかったのに、これが副侍従長の実力なのか?

 モリアさんがそう言うと、皆さんそれ以上訊こうとはしなかった。

「それで、我々にどんな魔法を伝授するというのだ? これでも我々は魔法の適性があり最低でも二つの魔法を使う事が出来るのだぞ」

 はい。魔法の適性がないと近衛兵団にも入れないと聞いています。

 で、ジュ―リロさんが調べでは(頼んでいないのに、何故か調べてくれた)近衛兵団の殆どの人達がが使える魔法は炎と水の魔法だそうだ。

 中には風と土魔法もいるそうだ。その人達に用にも教える魔法はあるので、問題ない。

 残念なのは、光と闇の魔法を使える人が居ないのが残念だ。

 まぁ、そんな気持ちをよそにやって、まずは見せた方が良いと思い、僕は魔法を実演する。

「はあぁ、『我が手に宿れ、炎よ。氷よ』」

 右手に炎の玉、左手に氷の玉を生み出した。前に唱えた詠唱と少し違うのは、こっちの方が詠唱が短くできるからしているだけだ。

 それを見て近衛兵団の人達は何とも思っていない。寧ろ、それぐらいなら俺でも出来るという顔をしている。

「『炎よ。氷よ。交わりて、一つとなれ』」

 両手の魔法を合体させるのを見て、近衛兵団の人達は、有り得ない物を見る目をしている。

 中に小声で「あり、えない・・・・・・」とか言っている人も居た。

 そして、一つになった無色の玉を見せた。

(そう言えば、この魔法の名前つけてなかったな。う~ん、何て名前にしよう・・・・・・・)

 魔法を試した時は、正直あくまで仮称だったので、あのままの名前にするつもりはなかった。

 色々な意味で痛いし。

 流石に○ドロー○は色々と問題がある。なので、何か別な名前を付けるしかない。

 少し考えて、そして出た。

 僕はその魔法を空に向かって放つ。

「『我は放つ、無色の波動砲インコレロバーストストリーム』」

 無色の玉が直線状のレーザーになって空に放たれた。

 放たれた魔法は雲を突き抜けて、青空を見せてくれた。

「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」

 うん、どう反応したらいいのか迷っている。

 正直に言おう、僕も何て言おうか考えている。

 まさか、こんなに凄い威力だなんて思わなかったし、一度も使っていなかったから、ここまで凄いとか思いもしなかった。

 どうしよと頭を悩ませていたら。

「「「「・・・・・・・・あなたは、神の眷族ですか?」」」」

「はい?」

 眷族? いいえ、違います。

 だよね。モリガン?

 ばれないように、念話で話し掛ける。

『正直、お主は我が力の一端を与えて、半神(デミゴッド)にしても良いと思っておるぞ』

 ここで飛んでもないカミングアウトキター。

 ていうか、半神って神様とどう違うの?

『まぁ、それについては今度話してやろう。ほれ、今は、こやつらの事に専念せんか』

 ああ、そうだった。

「コホン。僕は神様の眷属ではありません。ただの異世界人です」

「「「「異世界人は皆あんな強力な魔法を使えるのか?」」」」

 う~ん、どうだろう。僕はそうゆう漫画とかテレビを見ていたから、出来たけど他の人が出来るかどうかは分からないな。

「皆さんには、今僕が使った魔法を伝授しますので、それを使えるようになってください」

「「「「それは、本当か⁈」」」」

「はい。国王陛下からのご命令です。もし、今みたいな使えるようになれば、その方には先程食べた料理をもう一度振舞います」

 それを聞いて、皆さん生唾を飲み込んだ。

「更にこれも差し上げます」

 僕は手を挙げて合図を送ると、使用人の人が厨房に行って台車に乗せて運んで来てくれた。

 台車に乗っているのは、クッキーとロールケーキだ。

 砂糖とバターと小麦粉しか使っていない単純なクッキーだ。

 ロールケーキも中にクリームを塗って丸めただけの物だ。

 お菓子の方は、事前にレシピを王宮の厨房にいる料理人の人達に見せて作ってもらった。

「どうぞ。手に取って食べてください」

 皆さん初めて見るので、恐る恐るケーキやらクッキーを手に取る。

 一部の人達は「これは食い物なのか?」と首を傾げたが、周りにいる女性の使用人の人達とヴァルデドゥ―ルさん達に睨まれ、身を低くする。

 そして、口に入れると今まで味わった事の無い甘味に驚いていた。

「もし、魔法を完全に扱う事が出来ましたら、これも差し上げます。どうぞ、ご家族と恋人の方と一緒に食べて下さい」

 近衛兵団に所属している人は全員家族又は付き合っている人が居た(この情報もジュ―リロさんが教えてくれた)普段、食べる事も出来ない甘い物を持って行けば、家族にも受けが良いし、一人で食べても問題ない。その際、バレても自己責任でお願いします。

 これだけ好条件を見せれば、魔法を教えて欲しくなると思う。多分。

 


猪田が近衛兵団に話をしている最中。

近衛兵団が居る中庭が見える所の物陰で。

エリザ「子豚、ちゃんと出来るかしら(ハラハラ)」

セリーヌ「エリちゃん、少し落ち着きましょう」

エリザ「ふん、わたくしは落ち着いているわよ。でも、子豚が心配で」

セリーヌ「世間では、それを落ち着いていないと言うのですよ」

エリザ「うっさいわね。この病弱王女、さっさと部屋に戻って寝て居なさいよっ」

セリーヌ「まぁ、エリちゃんが心配でこうして一緒にいるというのに、そんな事を言うとは悲しいですわ。シクシク」

エリザ「あ、ご、ごめんなさい」

セリーヌ「はい。許します。だってエリちゃんは優しい御方ですもの」

エリザ「って、ウソ泣きっ、もうあんたって子はっ」

セリーヌ「それよりも、エリちゃん。今、出されたお菓子は何でしょうか?」

エリザ「クッキーとロールケーキね。うちでも偶に食べるわ」

セリーヌ「くっきーは偶にエリちゃんが持って来てくれますが、ろぅるけーきとは?」

エリザ「こうケーキが円になっていて中にクリームが塗られているのよ」

セリーヌ「・・・・・・・美味しそうですね。ジュル」

エリザ「多分、厨房に行けばあると思うけど」

セリーヌ「では、さっそく向かいましょうっ」

セリーヌはエリザを連れて厨房に向かい、ロールケーキを堪能した。


セリーヌ「う~~~ん、このロールケーキは美味しいですね。でもこの形を見ますと、木の年輪のように見えますね」

エリザ「そう言えば、子豚が言っていたけどこのロールケーキの生地を薄くして何層も巻いて焼いたのを向こうの世界の木の年輪を見立てて、バウムクーヘンと言うのがあるそうよ」

セリーヌ「そのような物があるのですか⁉ ジュル」

エリザ「・・・・・・・今日、子豚が帰って来たらどう作るか聞いておくわ」

セリーヌ「是非、お願いします‼」

近衛師団の指導を終えた猪田にバウムクーヘンの作り方を聞いたエリザは、後日セリーヌに振舞った。

それを食べたセリーヌは大層喜んだそうだ。




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