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メアタンの本音

メアタン視点です。

 わたしはメアタン。

 御当主様であるエゼキエル・フォン・アスクレイ様が造りだした人工ホムン生命体クルスが一人だ。

 七体いる中で、わたしは二番目に生みだされた。

 人で言えば七人姉妹の次女と言える立場かもしれないが、わたし達には関係のない事だ。

 姉のヴィオレットはエゼキエル様の秘書役をしている。

 生真面目で公平な性格なので、エゼキエル様も重用している。

 三女のアズウクレは侯爵領を治めているバートリ様の補佐をしている。

 天真爛漫な性格で、領地の人達にも慕われている。

 四女ヴェルデドゥール。

 五女ジュ―リロ。

 この二人は王都にある屋敷の万事を取り仕切っている。

 性格はヴェルデドゥ―ルはクールな性格で、ジュ―リロは思慮深い性格だ。

 六女のナランツオ―ネ。

 三女アズウクレの補佐をしている。

 性格はわたしよりも寡黙で滅多に笑わない。

 七女のビヒモン。

 わたしと一緒にお嬢様の補佐兼護衛をしている。

 あまり喋らないので、物静かな性格だと思われているが、実は姉妹の中で一番短気な性格だ。

 喋らないのは、話をして体を止めたくないからだ。

 ちなみ、わたしとビヒモン以外は全員、御当主様が名前を付けてくれた。

 お嬢様は口が悪い事を除けば素晴らしい御方なのだが、どうもネーミングセンスがないようだ。

 今、わたしがしている仕事は屋敷で囲っていや、匿っている人物の監視兼護衛だ。

 その人物の名はイノータ・ノブヤス。

 御当主様が気に入った人物で、お嬢様の婿候補の最有力候補だ。

 見た目は、子オークを人に近付けたような顔をしているが、性格は、一言で言って天然だ。

 お嬢様がきつい事を言っても、何とも思っていない上に普通に会話している。

 この時点で、凄い大物だ。

 何せ、お嬢様の口撃で多くの男達が撃沈している。

 だから、大物だと言える。

 更に、御当主様も知らない多くの知識を持ち、強力な魔法を使える。

 何時だったか、大旦那様がポツリと零した。

『もし、わたしがイノータ殿と戦う事になったら、上手く持ち込んで五分。下手したら負けるであろうな』

 御当主様はこの国一番の魔法使いだ。

 その御方を越える実力を持った方を、御当主様もみすみす見逃す事はしない。

 色々な理由を付けて、屋敷に匿っている。

 そして、イノータ様の世話をお嬢様に一任している。

 これはつまり、上手く誑し込んで婿にしろと言っているようなものだ。

 お嬢様も乗り気で、イノータ様を自分の婿にしようと頑張っている。

 今日も、その仕事をしている。わたしは厨房に入る扉を少し開けて、イノータ様を監視している。

 イノータ様は厨房に入るなり、市場から届けてもらうように頼まれた食材を見て、何かを作ろうとしている。

 何でも、国王陛下の命令で、近衛兵団に魔法を教える為の準備だそうだ。

 それで何故厨房にいるのか分からないが、何か考えがあるのだろう。

 市場から届けられた極上の食材で、何を作るか考えている。

 肉も野菜も、お嬢様が贔屓の店から厳選した食材を届けてもらっている。

 その食材で何を作るのか、わたしはジッと見る。

 決して、試食したいとかすこしおこぼれ預かろうという、下心はない。

 わたしはお嬢様から命じられた監視役兼護衛なのだから(キリッ)

 と、そう思っていたら、イノータ様が調理を始めた。

 頭と内臓を切り落とし、皮を剥いだ姿をしたマーブル・ヴェールの腹の中に野菜を詰めている。

 このマーブル・ヴェールという魔物は、魔物の中では大人しい部類に入る。

 どんなに成長しても、仔牛程度の大きさにしかならない魔物だ。

 心臓に魔石がありそれが高価で買い取りされる事と、皮と肉が高級品であるのが売りの魔物だ。

 大人しい分、逃げるのが速いので捕まえるのが困難だが、捕まえたら高額の金が手に入るので、魔物を狩る仕事をしている者達には、有名だ。

 その肉をひっくり返して、背中にナイフを刺して、その刺した所に野菜を詰め込んだ。

 詰め込んだ野菜は、香味野菜と使われている事しかしらない。

 何せ、お嬢様が一人で料理をするので、わたし達は料理の手伝いさえさせてくれない。

 なので、正直食材の名前すらしらない。

 野菜を詰め込み終わると、今度は塩と胡椒を満遍なく刷り込んで、その肉をオーブンに居れた。

 イノータ様は椅子に座り込んで出来るのを待っている。

 その様子から見るに、かなり時間を掛けて焼く様だ。

 わたしも、イノータ様を監視しながら、肉が焼けるのを待つ。


 ********

 

 二時間後。

(も、もう、いいのでは、ないでしょうか?)

 そう思えるくらい、厨房には美味しい匂いが充満している。

 焼けた肉の匂いが、鼻腔をくすぐる。

 それにより、口の中は涎の海が出来そうだ。

 まだかな。まだかな。

「・・・・・・・クンクン。この先から良い匂いがする」

「今日はお嬢様は、屋敷に居ないから誰が厨房で料理をしてるの?」

「料理長?」

「今、侯爵領に行って、御曹司様の食事を作っているでしょう。それに、こっちに来るなら連絡は寄越すでしょう。そんな連絡は貰って無いわ」

「そうね。じゃあ、誰が厨房にいるのかしら?」

 この声は、ヴェルデドゥールとジュ―リロね。

 二人はこの屋敷の全てを取り仕切っているので、居るのは別に良い。

(・・・・・・・二人、加わっても問題ないわね)

 あれだけの大きさだ。一人で食べるのは無理だろう。

 だから、妹達が来るのは別に良い。

「あれ? そこに居るのは次姉じあね様ではないですか?」

「次姉様、何で、厨房を覗いているの?」

 わたしは、妹達には次女だから次姉じあねと言われている。

 ちなみにこう呼ぶように言ったのは、お嬢様だ。

 わたしは何で、ここに居るか事情を説明した。

 すると、妹達も興味が湧いたのか、わたしと同じように厨房の外から、料理が出来るのを待った。

 

 一時間後。

 ようやく、オーブンから肉を取り出された。

 わたし達は、直ぐに厨房に入った。

 何故かと言うと、もう我慢できなかったからだ。

 外から匂うかぐわしい香り。

 その匂いに釣られて、ジュ―リロの口元から涎を垂らしている。

 わたしはみっともないから垂らしはしない。ジュル。

 イノータ様がその肉を切り分けようとしているので、わたし達は視線を送る。

 少し分けて下さいと。

 その思いが通じたのか、イノータ様は振り返るなり、わたし達を見て「少し、食べますか?」と聞いてきた。わたし達は一も二もなく頷いた。

 その切り分けられた肉を食べると、言葉を失った。

(ああ、あまりに柔らかくて、舌で押し潰すだけで口の中から消えていく。それに潰す度に肉汁が口内に溢れてくるっ、今、食べているのは肉なのっ⁈)

 わたしはもっと食べたいと思い、ナイフとフォークで切り分けようとしたら。

 ギンッ!

 わたしの持っているナイフとヴェルデドゥールのフォークがぶつかった。

「ヴェルデ、何の真似?」

 ヴェルデドゥ―ルは名前が長いので、愛称でヴェルデと言われている。

「次姉様、独り占めは良くないと思います。ここはこの場にいる者達で均等に食べるべきです」

 と言いながらも、ヴェルデのナイフは肉に伸びていく。

 そのナイフが、肉に届こうかという瞬間。

 ガギンッ!

 また金属同士がぶつかる甲高い音が響く。

 今度はジュ―リロのナイフが、ヴェルデのナイフとぶつかった。

「ヴェルデ姉様もそう言いながらも、独り占めしようとしているじゃありませんか?」

「ジュリ、貴方も邪魔をするの?」

「邪魔だなんて、わたしも皆さんと分け合おうとしただけピョン」

 ジューリロは語尾に「ピョン」とか「キュン」とかつける変な口癖がある。

 わたし達は互いを睨み合った。

「「「ガルルルルルルッ‼」」」

 わたし達は久しぶりに姉妹同士で喧嘩した。

 仕事から帰ったエリザ様からこっぴどく叱られたが、後悔はない。

 それだけ、あの料理は美味しかった。

(今度、レシピを聞いて料理長に作ってもらおうかしら)

 わたしはそう思った。



 

  








 

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