第60話 ここは相談する事にしました
王女様いや、セリーヌ様にケーキを献上して、少し話したら、セリーヌ様が人と会う予定があるという事で、僕は空中庭園を後にした。
自分部屋の道すがら、僕は王様に言われた事を思い出す。
(どうしたらいいかな、全然良い考えが思い浮かばない・・・・・・)
結局、自分の部屋に着いても、良い考えが浮かばなかった。
魔法を教えるのは何時頃だと言われていなかったので、今日はもう休んで明日また考える事にした。
久しぶりに自分の部屋に戻れると思った。
(魔法の制御って事で、侯爵の屋敷に居たから、かれこれ、何か月ぶりかな?)
僕は鍵を鍵穴に差し込む。
屋敷にご厄介になっている間は、基本誰も入れない様に施錠を掛けられていたと訊いている。
鍵穴に差し込んだ鍵を回したが、ガチャッと音がする事もなく回る。
「あれ?」
僕は不審に思った。
施錠されていると聞いていたのに、何故か鍵が掛かっていない。
「・・・・・・・もしかして、椎名さんが部屋に入った?」
前に鍵を掛けたこの部屋に難なく侵入した人を思い、僕は考えた。
どう対処したら良いだろうかと。
(・・・・・・悪い人じゃないんだ。悪い人じゃあ)
だからと言っても、どうしたら良いか考える。
一つ目、誰か呼ぶ。
誰かと一緒に部屋に入れば、対処は出来るだろう。
でも、本当に椎名さんが居たら、余計に問題なりそうなので却下。
二つ目、誰かの部屋に行って、休む事だ。
幸いこの部屋には休みたい時に来るだけの部屋なので、特に取られても惜しい物は無い。
だが、僕を休ませる為に部屋を貸してくれる人が居なかった。
マイちゃん達の部屋に行ったら、休めないのが目に浮かぶ。なので却下。
三つ目、このまま何も無かったかのように、侯爵の屋敷に行く。
あそこなら、警備は万全だしエリザさんも居るから、変な目に遭う事はない。
だが、王宮から侯爵の屋敷のへの行き方が分からないので却下。
四つ目、もう、腹をくくって部屋に入り、流れに身を任せる。
一番危ないかもしれないが、意外とこれが一番安全かも知れない。
というか、選択肢がこれしかなかった。
僕は溜め息を吐きながら、ドアノブを回す。
部屋に入ると、椅子に誰か座っていた。
「あら、ようやく来たの、来るのが遅いわよ。子豚」
椅子に座っていたのはエリザさんだった。
「あの、どうして僕の部屋にエリザさんがいるのですか?」
「合鍵で入ったわ」
エリザさんは手に持った鍵を見せる。
何時の間に、合鍵なんて作られていたのだろう。
まぁ、それはそれとして。
「僕に何か御用でしょうか?」
「そうよ。じゃなかったら、こんな所に来るわけないでしょう」
ふむ、魔法師団師団長が来るほどだ。何か途轍もない重要な事で来たのだろう。
僕は襟を正して、聞く体勢をとる。
「それで、御用は?」
「子豚、我が家に来なさい」
来なさい? どうゆう意味だ?
「子豚の頭じゃあ分からないだろうから、分かりやすく教えてあげる。子豚、今日から子豚の部屋はここじゃなくて、我が家に一室になったわ」
「・・・・・・・はい?」
わがやの、いっしつ?
いみが、わからい。
「・・・・・・・えっと、この部屋を出て、侯爵の屋敷に住めと?」
「その通りよ」
「なぜですか?」
「魔法師団と獣人族との戦争で、とんでもない事が起こったか分かる?」
えっ⁈ いきなりそおんな事を言われてもな。
でも、こうして言うと事は何か意味があるのだと思い、僕は少し考えた。
「・・・・・・・・・・・・捕虜を大量に確保できたのにしなかった事ですか?」
「違うわよ。寧ろ、捕虜を確保しても、大量に食料を消費するから、解放した方がお得よ」
「じゃあ、何ですか?」
僕は考えても分からなかったので、お手上げのポーズをした。
「分からないの? もう、仕方がなわね。子豚の頭でも分かりやすく教えてあげるわ」
エリザさんは胸を張りながら話し出す。
「今回、我が魔法師団に新兵器が投入されたでしょう。それの所為よ」
新兵器と言うと、あの魔弾銃か。
あの後、正式に魔弾銃と命名されたのは、少し残念だった。
(出来れば、この世界の人の感性で凄い名前をつけて欲しかった)
例えば『マジック・シリンダー』とか『ガン・オブ・マジカル』とかみたいな名前を付けて欲しかった。
「あの新兵器のお陰で、魔法師団は勝利したと思うのですが?」
「そうね。その通りよ。でも、怪我人はではしたけど、一人も死なないなんてあり得ない事よ」
そうかもしれないな。織田信長が鉄砲を大量に投入した長篠の戦いでも、数千の兵が死傷した歴史にかかれている。
同じように、魔弾銃を大量に投入した戦場で、こちらは負傷者を出しても死者が出ていないのに、敵側は大量の死傷者を出した。
この時点で普通の戦場では有り得ないな。
「なら、分るでしょう。敵が次に何をするか?」
「・・・・・・その新兵器の奪取もしくは設計図を奪うですか?」
「付け加えて、設計者を拉致ね」
う~ん、この魔弾銃の設計開発は侯爵がしたので、一番危ないのは侯爵と思われるが、侯爵って意外に強いんだそうだ。
聞いた所によると、前魔法師団師団長だったそうで、今でも魔法の腕は王国でも随一だそうだ。
これに護衛を付ければ、大抵の問題は解決できる。
でも、僕を屋敷に住まわせる理由が分からない。
「あの魔弾銃のアイディアを出したのは子豚でしょうが、だから、子豚も狙われるかもしれないわよ」
「う~む。明確に否定できないな」
「それで比較的安全で、防衛も万全の我が屋敷に、子豚を住まわせるの。これで納得?」
「でも、ここの王城でも警備は万全だと思うのですが」
僕がそう言うと、エリザさんは立ち上がり近寄ってきた。
そして、僕の傍に来ると、指で屈めというジェスチャーをした。
少し屈むと、エリザさんは耳の顔を寄せる。
「この王城にも、何処かの種族の間者が居るかもしれないのよ。子豚をそんな所に置いておいたら、その内攫われるわよ」
僕はそれを聞いた瞬間、目が見開くほど驚いた。
(そうだ。敵の間者も居るかもしれない事を失念していたっ)
戦国時代の忍者は、ここには居ないだろうと思われる所に潜入していたりする。
人間しかいない世界でも、スパイとか居るんだ。だから、元の世界には居ない種族がいるこの世界にだったら、それこそ雑草のように、刈っても幾らでも居そうだ。
「これで分かったでしょう?」
「はい、分かりました。でも、行く前に友達に話してからで良いですか。居たと思っていたのに居なくなると、心配するかもしれないので」
「良いわよと言いたい所だけど、異世界人達は、今王城に居ないわよ」
「えっ?」
「少し前に祝勝を祝って、城下がお祭り騒ぎだから、異世界の人達は殆どそっちに繰り出したわよ」
「そ、そうですか」
祭りか、行きそうな人が何人もいるだろうな。
あっ、でも椎名さんはどうなんだろう。一応、部屋に行って所在を確認するか。
僕はエリザさんに本当にいないか確認したいと言うと、エリザさんは特に何も言う事無く、僕に着いてきた。
各部屋に行くと誰も居なかった。
なので、僕は部屋に戻り、置手紙だけ残して侯爵の屋敷に向かう事にした。
僕達は馬車に揺られながら、侯爵の屋敷に向かう。
石畳の上を進むので、それほど揺れはしないが、でも現代の乗り物に慣れている僕からしたら、少しキツイものがある。
ゆっくりななのに、振動がもろに来るので、軽く酔いそうだ。
(三半規管を鍛えてないせいか、気持ち悪い・・・・・・)
僕がそうなのだから、エリザさんもそうだろうと思って見たら、頬杖を作りながら平然としていた。
(凄いな。やっぱり慣れなのかな?)
そう思っていたら、僕の視線に気づいたのか、外を見ていたエリザさんが顔をこちらに向けてきた。
「どうかしたの? 子豚」
「いえ、エリザさんはこの揺れの中でも平然としているのに、驚いていまして」
「そう。子豚は、・・・・・・大丈夫じゃなさそうね」
「分かります?」
鏡で見なくても分かる。顔が青いだろうな。
「ほら、これを飲みなさい、この薬を飲めば少しは酔いが無くなるわ。あと、水はいる? お腹が空いているから酔うかもしれないわね。クッキーしかなけど食べる? 屋敷に帰ったら少し休みなさい。晩御飯は胃に優しい物を作るから」
「は、はぁ、ありがとうございます」
いっきに捲し立てるような言葉の弾丸に、僕はあっけにとられながらも、水と薬とクッキーを貰い飲み込んだ。
お蔭で、少し酔いが無くなった。
「あの、エリザさん」
「なに? まだ気持ち悪いの?」
「いえ、ちょっと相談が」
「相談?」
「ええ、実は・・・・・・・・」
僕は王様に言われた事を簡単に話した。
「ふ~ん、そうなの。陛下も思いきった事をしたわね」
「僕もそう思います」
「それで、わたくしのアドバイスを聞きたいと?」
「はい。僕は人に物を教えるのは、その上手いと言える方ではないので、ここは魔法師団師団長のアドバイスを訊いてみたいのですが」
「そうね。・・・・・・・・・・」
エリザさんは顎に手をやり長考の体勢をとった。
僕は思考の邪魔をしないように、窓から外を見た。
勝利を祝い今城下ではパレードが行われている。
参加しているのは、今回の敵と終始睨み合いで一度も戦う機会がなかった他の軍団だ。
活躍しなかった代わりに、こうしてパレードに出て居るのは、ある意味皮肉だろう。
でも、それによって道が規制されており、屋敷に行くのも一苦労だ。
(まぁ、勝利したお蔭で、こんなに楽しそうに騒げるのだから良い事したと思った方が良いのかな)
僕がそう思っていたら。
「・・・・・・うん。こうした方が良いわね」
エリザさんの中で考えが纏まった様だ。
どんな事を聞かされるか、ちょっとドキドキしながら僕は耳を傾ける。
「子豚、貴方が陛下に言われたようにするには」
「するには?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
エリザさんの口から出た言葉に驚きながらも、納得できた。
よし、明日から準備しよう。
エリザと猪田が馬車で揺られていた時。
舞華「ふっふ~ん、これだけあれば、ノッ君も喜ぶよね」
ユエ「マイ、わたし達の分もあるのを忘れるなよ」
雪奈「そうね。私たちの晩御飯なんだから」
瀬奈「だよね~、イノッチと一緒に食べれるからって、あたし達の分も食べないでね」
祭りで買った美味しかったものを見繕って、猪田の部屋に向かっている。
祭りに来ている様子はなかったので、部屋に居ると思い、舞華達は晩御飯を買って一緒に食べようとしたのだ。
四人が部屋に着き、ノックもせず部屋に入る。
舞華「やっほ~、ノッ君、ご飯持ってきたよ~、ってあれ?」
ユエ「マイ、せめてノックをしてから入れとあれほど・・・・・・・どうした?」
舞華「ノッ君がいないの」
ユエ、雪奈、瀬奈「「「えっ⁈」」」
三人が部屋に入ると、猪田の姿形もなかった。
テーブルに一枚の紙があった。
四人はその紙を手に取り、中身を見た。
そこには猪田が日本語で書かれていた手紙だった。
『暫く、エリザさんの屋敷にご厄介になります。猪田』
その手紙を見た四人は全身を震えだした。脳裏には高笑いをしながら、四人を見下すエリザの姿を幻想した。
舞華、ユエ、雪奈、瀬奈「「「「あの女、絶対に許さない‼」」」」
四人が自分の得物を持ちだそうとしたら、警備の兵に見つかり一悶着起きた。




