第58話 前略、お父さん、お母さん、僕、異世界で貴族になるかもしれません
王城に帰還した僕達は、直ぐに謁見の間に通された。
シャダム副団長(団長の傷がまだ癒えていないので、代理で謁見するそうだ)とエリザさんと共に謁見の間に入った。僕達も全員で行くのは、人数が多すぎると思ったので、僕と西園寺君の二人で行く事にした。
謁見の間に入ると、大臣達や貴婦人、鎧を着た騎士達が拍手で出迎えてくれた。
僕達はその拍手の中、絨毯を歩いた。
正直、気恥ずかしい気持ちになったが、西園寺君は毅然としていた。
(う~ん、流石は御曹司。こうゆう場でも堂々としているな)
僕は三人の後に続きながら歩き出す。
王座の少し前で、エリザさん達が跪いたので、僕達も跪く。
「両軍団長、ご苦労であった」
王様からねぎらいの声をかけられ、エリザさん達はうやうやしく頭を下げた。
「「ありがたきお言葉を頂き、恐縮です」」
「特にエリザ、そちの指揮で一兵を損ずる事無く勝利した事には、報告を聞いた儂は年甲斐もなく興奮してしまったぞ」
「はっ、ありがとうございます」
「魔法師団の新兵器を用いた戦法で敵を撃退したそうだが、その兵器をいつ開発したのだ?」
「それは」
エリザさんは肩越しに振り返り、僕を見た。
「そこにいる異世界人のこぶ、じゃなかったイノータ殿が出したアイディアを出してくれました」
「ほぅ、そうか」
王様は顎髭を撫でて、僕に目を向けた。
「イノータ殿、そちが新兵器をのアイディアを出したと言うが、本当なのか?」
「は、はい。その通りです」
僕がそう言うと、周りの人達がどよめいた。
敵の軍団を撃退する新兵器のアイディアを出すとは、思われてはいなかったのだろう。
「ですが。僕はアイディアこそ出しましたが、兵器を開発したのはアスクレイ侯爵です。称賛のお言葉は侯爵におかけください」
周りの人達がざわめきだす。
「ふむ、そうなのか。侯爵?」
「はい。イノータ殿の申す通りです」
「そうか。よくぞ作り上げた。そちの知識には我が王国の宝よ」
「はっ、ありがたきお言葉です」
侯爵は跪く。
「それと竜騎兵団に付き従った異世界人の者達の内、何人か亡くなったと報告を受けている。本来なら、亡くなった者達の遺族に恩賞を与えるのだが、異世界ゆえ出来ぬので慰霊碑を建てる事で許してくれ」
「いえ、それだけでも十分です」
西園寺君が跪きながら答えた。
その慰霊碑に、遺髪を少し埋めてくれるように頼んだらどうかな?
「それとイノータよ。戦線はそちの進言した通りになったぞ」
進言した通りになったと言う事は、他の戦線は戦ってはいないようだな。
「それにそち達が王都に帰還するのに合わせて、三部族の軍は撤退しだした。どうやら、三部族は戦うつもりはなかったようだ。そちの慧眼、見事だ」
「あ、ありがとうございます」
跪きながら、頭を下げる。
王様に見事と言われるとか、凄い経験だな。
元の世界に帰ったら、ちょっと自慢できるな。
「遠征で疲れたであろう。今日は下がって休むが良い。後日、勝利を祝う宴を行なおう」
「「はっ、承知いたしました」」
エリザさん達が、そう言って頭を下げた後、立ち上がった。
僕達も、その後に続いた。
謁見の間を出たら、僕は深く息を吐いた。
「はぁ~、緊張で心臓がバクバクいってるっ」
「今の内に慣れて置け。今後、このような場に出る事があるだろうからな」
「えっ⁈ 出ないと駄目かな?」
「駄目だろうな」
「そ、そんな~」
僕が西園寺君と話しながら廊下を歩いていたら、後ろから宮臣の一人がこちらにやって来るのが見えた。何だろう?
「イノータ殿、王が貴方を御呼びです。ご案内いたしますので、わたしの後に付いて来て下さい」
「僕を? 何の用だろう?」
「分からんが、呼ばれているのだ。いったらどうだ」
「そうだね。じゃあ、行ってくるよ」
「うむ。四人には俺から言って置く」
「じゃあ、お願いするね」
僕は宮臣の案内に従い、西園寺君と別れた。
宮臣の案内で、僕はとある部屋まで来た。
年代物の樹で出来た扉の前に居る。
その扉に、宮臣の人がノックをした。
「陛下、イノータ様をお連れいたしました」
「うむ。入れ」
「はっ」
扉を開けて。宮臣の人が先に入ったので、僕もその後に続いた。
部屋には言ると、まず目に入ったのは豪華な調度品だ。
何人も座れそうなくらい大きいソファーやら、広いテーブルが並べられいる。
壁には名匠が描いた絵画が飾られ、他の壁面にも見事な装飾品が飾られている。
今、王様が座っている椅子も机も本棚も床の絨毯もシンプルだが豪奢だ。
よく見ると、王様の他にも宰相と王女様がいるぞ。
「ご苦労であった。下がってよいぞ」
「はっ」
宮臣の人がそう言って、王様に一礼して部屋から出て行った。
だが、誰も口を開こうとはしなかった。
(き、気まずい・・・・・・・・)
何か用事があって呼んだのだろう。でも、それを僕から聞いていいのだろうか?
早く部屋に戻って休みたいのだけど、どうしたらいいかな。
「コホン。イノータ殿、どうぞ、おかけください」
宰相が気を利かせて、僕に座るように勧めてくれた。
僕はその言葉に従いソファーに腰掛ける。
腰を掛けたソファーは、クッションが効いているのか分からないが、僕の身体を沈みこませる。
そして、反動で僕を跳ね上げる。
(この世界にはバネは無いはずだから、このソファーに使われている素材に何か秘密があるのかな?)
考えていると、僕の対面に王様が座り、宰相は王様の後ろに立ち王女様は王様の隣に座った。
「あ、あの、僕に何か御用でしょうか?」
ちょっとどもったが、要件を聞けたと思う。
「うむ。まずは、そちの知識で獣人族との戦に勝つ事が出来た事に加え、三部族の動きが牽制だと見抜いた慧眼、改めて見事と言わせてもらおう」
「あ、ありがとうございます」
称賛してくれるのだから、ここは素直に受けよう。
「それと」
うん? 今、王様の目が光ったような気がする。
「そなたがこの前破壊した壁についてだが」
えっ、もしかして、弁償しろとか言うのだろうか。
どうしよう。この世界の貨幣については習ったけど、お金なんか持ってないぞ。
う~ん、どうしたものかな。
「お主の魔法で破壊したと報告を受けているが、どのような魔法を使ったのだ?」
「はっ?」
「あの場所を調査した侯爵の報告では、光の魔力と闇の魔力が同時に観測されたと報告をうけている。いったい、どのような魔法を使ったのだ?」
あの『混沌波動砲』の事を言っているのかな? てっきり、侯爵にどうやって破壊したのか報告はしたのだけど、言っていなかったのかな?
「・・・・・・壁を破壊したのは、僕が作った魔法です。名前は仮称で『融合魔法』と名付けました」
「『融合魔法』だと?」
「言葉で言うよりも、今、お見せしますね」
僕は両手に、炎の玉と水の玉を生み出した。
前もって言ったのだが、王女様は少し身構えている。
(まぁ、魔法を使ったのだから仕方がないか・・・・・・・・)
僕は王女様を無視して、手に生みだした炎と水の玉を合わせた。
前に実験した時は少し反発させたが、今は反発しないで合わせる事が出来る。
(これも、エリザさんの特訓の成果だな)
内心、エリザさんに感謝しながら、僕は二つの魔法を混ぜ合わせて出来た無色の玉を見せる。
「「「こ、これはっ⁈」」」
皆さん、驚いていらっしゃるようだ。
僕としては、ただ漫画でこんな魔法があったから、出来るかどうか試しただけなので、そんなに驚く事でもなかった。
「ま、魔法を混ぜ合わせるとは、なんと・・・・・・・」
宰相さん、凄い顔をしていますよ。
最初見た時は、切れ者とした空気を纏っていた人が、今は口をあんぐりと開けて、阿呆みたいに驚いている。
「・・・・・・・このような魔法が存在するとは」
王女様は仮面で顔を隠しているので分からないが、宰相どうように驚いているようだ。
「ふむ。予想以上の逸材だ」
王様にそこまで言われるとは、少し嬉しいな。
「あの、いいかげん魔法を消していいですか?」
「おおっ、済まなかったな。もうよいぞ」
僕は魔法を消した。
「・・・・・・・・イノータ殿、一つ相談があるのだが」
「はい、何でしょうか?」
「今の魔法を近衛兵団にも教えてくれるだろうか。頼む」
何ですと?
「僕が、開発した魔法を、近衛兵団の人達に教えるのですか?」
「そうだ」
いやいや、無理でしょう。
「僕はこの世界に来たばかりで、功績と言える物がありません。そんな僕に近衛兵団の人達に魔法を教えるなんて」
うん。どう考えても無理だ。
王様には悪いけど、辞退させてもらおう。
「しかし、そなたの魔法はあまりにも素晴らしい技術だ。その魔法を広く広めても良いであろう」
「そのようであるなら、文句はありません。僕の作った魔法を他の人に教えるのは構いません」
技術とは、独占していも隠していてもいずれは知れ渡る物だ。
なので、早い段階で誰かに教えて、そこから発展させればいい。
とは言え、別に僕が教えなくても、他の誰かに教わればいいのでは?
「僕は人に物を教えた事はありません。そんな僕が、教えれるとは思いません」
「う~む。・・・・・・・アウラよ」
「何でしょうか。陛下」
ふ~ん、王女でも陛下と言うんだ。
っと、そんなどうでも良い事を思いながら、僕は王女様と王様の話に耳を傾ける。
「そちが見た魔法、直ぐにできるか?」
「無理ですね。少し時間を頂けないと、わたしでも。恐らく魔法師団現団長と前団長も同じ事を言うと思います」
「そうか・・・・・・・・」
「あの、どうして僕が開発した魔法を会得したいのですか?」
近衛兵団はエリート中のエリート部隊だと聞いている。
別に会得しなくても良いと思うけど。
「「「・・・・・・・・・・・・・」」」
あれ? 何か、三人とも黙ったぞ。
「・・・・・・今から言う事を誰にも言わないと、約束できるか?」
「えっ、・・・・・・・・は、はい。約束します」
「本当だな?」
王様が目に力を込めて睨む。
「は、はい。お約束しますっ」
「よろしい。では、話そう」
僕は生唾を飲み込んだ。
「そちは、三人の異世界人達が暴走した際、近衛兵団の半分が戦闘不能になった事を知っておるか?」
「ええ、知っています」
すいません。その暴走した三人は、僕の友人です。
「兵団に所属した者達は、皆回復したのだが・・・・・・・・殆どの者が今なお、精神が死んでおる」
「はあっ⁈ 精神が死んでいる?」
それって、つまり躁鬱になっているという事か?
「皆、目が死んだ魚ような目でおるのだ。しかも、ブツブツと小さい声で「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」と言っておる」
うん、何かすみません。
「でも、僕が魔法を教えたら、逆効果のような気がしますけど」
「新しい魔法を会得したら、自信がついて元の職務に戻れると思うのだ」
成程。そうゆう考え方もあるか。
少し強引だが、そうやって自信をつけさせるのも一つの手か。
「もし、全員を職務復帰が成功出来れば、そなたに男爵の位を授ける」
「はあっ?」
だ・ん・し・ゃ・くですと⁉
それはつまり、僕が貴族になるという事ですか!
功績とか全然、立ててないですよ。
「あの、冗談じゃないですよね?」
「儂は本気だが」
僕は後ろに控えている宰相さんに目を向けると、首を横に振る。
それは、もう決まった事だからどうにも出来ないと言っているようだ。
ならば、王女様なら何とか説得できるだろうと思い、顔を向けると顔を反らしていた。
(え、ええ~、ここには誰も味方はいないのか・・・・・・・・)
「という訳で任せたぞ」
王様の言葉で締めくくられた。




