第30話 死んだと思ったけど
エリザさんの爪が心臓に突き刺さった瞬間、痛いと思ったが死ぬほどではなかった。
痛いと言えば痛いが、何と言うか指先に棘が刺さった気分だ。
これから、どうなるのかなと思っていると、エリザさんの爪先が折れた。
そして、折れた爪先が僕の心臓に入り込んだ。
心臓は大丈夫なのか気になり、僕は胸を触ってみた。
傷跡も無くなり、心臓も問題なく鼓動していた。
「いきてる……?」
死んでないけど思わず、その言葉が口から出た。
「まさか、殺されると思ったの?」
「ええっと、まぁ……」
心臓に爪を突き立てられたら普通に死ぬと思うのだけど。
「何をしたのですか?」
「知りたい?」
エリザさんはそう言って笑みを浮かべた。
その笑みは教えても良いが、何か対価に渡せというような笑みだった。
「…………教えてくれるのなら」
「そうね~」
エリザさんは僕との会話が楽しいのか笑っていた。
「僕が出来る事ならしますから」
その言葉を聞いて、エリザさんは笑みを浮かべた。
「その言葉に偽りはないわね」
「あ、はい」
「なら良いわ。じゃあ、契約しましょう」
「契約?」
オウム返しで訊ねると、エリザさんは頷いた。
「そう。わたくしと貴方との契約」
「その契約は何の為に?」
何の為に契約を結ぶ理由が分からず訊ねた。
すると、エリザさんは僕の心臓部分に手を置いた。
「貴方の心臓に埋め込んだ爪を媒介にして、貴方が見ている物、感じている事、思っている事を全てわたくしも知ることが出来るわ」
「そんなのを知ってどうするのですか?」
「今の貴方はどう思いながら、この世界を見ているのか知りたいのよ。それで決めるわ。貴方が本当にわたくしが愛した男なのかどうかを」
それで解るものなのかな?
まぁ、エリザさんがそれで納得したら良いだろう。
「期待はずれでだったら?」
「その時はその時よ。貴方はわたくしの愛した男の記憶だけ持った男というだけの存在になるだけよ」
「それで、僕を殺すという事はしませんよね?」
愛した男の残像という事で殺したりしないよなと思い訊ねると、エリザさんは鼻で笑った。
「殺す理由がないでしょう。まぁ、もし期待はずれだったら、わたくしの視界に入らない様にして欲しいわね」
「…………もし、そうなったら目に留まらないようにします」
正直な話、エリザさんがどういう判断で僕の存在を決めるか分からない。
なので、全てはエリザさん次第という事か。
「ちなみに、その判断は何時頃決めるのですか?」
どんな判断を下しても構わないが、何時頃決めるのかは教えて欲しい。
「う~ん。そうね。未定で♥」
悪戯っぽい笑みを浮かべながら言うエリザさん。
…………昔に比べると、性格が悪くなった気がするな。
これが年月が経ったという事なのだろうか?