第29話 寝室へご案内~
「…………はっ」
気が付くき周りを見た。先程まで食事をしていた場所では無く、何処かのベッドであった。
天蓋付きで何人も一緒に寝る事が出来るベッドだ。
そのベッドに一人で寝かされていた。
これは一体、どういう事だ?
此処は冷静に少し前の事を思い出そう。
確か、エリザさん達と食事をしていたら、そのまま食事をしていると眠くなって、眠気に負けて瞼を閉じた。
そして、今に至る。
「どういう事?」
「ああ、起きたの」
僕が首を傾げていると、其処にエリザさんが姿を見せた。
その声を聞いて、僕は前世のある記憶を思い出した。
それは、第二王女のセリーヌにおそ、もとい一夜を共にした日の事を。
あの時はエリザさんもその場に居たが、もしかして。
「あ、あああ、あの時のさいげんをするつもりですか……?」
まさかと思い訊ねたみたが、エリザさんは肩を竦めた。
「お気付きなさい。何で、わたくしがする必要があるのよ」
「え、えっと…………一度ある事は二度あると言うから」
エリザさんは目を横に動かした。
それを見て、少し襲おうという気持ちがあったんだと悟る。
「まぁ、それよりも、わたくしは貴方に話したい事があるのよ」
「話したい事?」
ユエ達には聞かれたくない話という事か。
エリザさんは頷きながら、僕の側に腰を下ろした。
「貴方は子豚の記憶を持っているけど、子豚ではない。でも、他の人達は、貴方に夢中。どうしてかしらね?」
エリザさんは其処が不思議に思っている様だ。
「それを言うのなら、僕も同意見ですよ」
記憶を持っていた所で、僕は人間の『猪田信康』ではなく魔人族『リウイ』だ。
前世の記憶を持っているだけの僕に皆は慕ってくれる。
千年経っても気持ちが変わらないというのは嬉しいのだが、どうして変わらないのか僕は分からなかった。
『我が主はどうも女心が鈍いようじゃのう』
そう声を掛けて来たのはベッドの側にある椅子に立て掛けられている愛剣アンゼリカであった。
「そうかな?」
『うむ。女という生き物は、自尊心が強い生き物じゃ。これはという男を見つければ、死ぬまで想うというのが女なのじゃよ』
「はぁ」
『その気持ちは例え姿形変わろうと、千年経とうが万年経とうが変わらんよ。そうする事で、女は自信を持ち、己を飾る事が出来るのじゃからな。分かったか。主よ』
喋る剣に教えられるとかシュールだなと思いつつ、僕は話を聞いていた。
『それで、お主はどうなのじゃ? エリザヴィアとやら』
「そうね。話を聞いて少し考えたけど。こうする事にしたわ」
エリザさんはそう言って、人差し指の爪が伸びて僕の心臓に突き刺さった。