????の報告
とある間者のお話。
「・・・・・・・・以上が、各戦線から送られた情報です」
『報告ごくろう』
わたしは自分の上官に王都にもたらされた報告を伝達している。
今、手に持っている水晶に話掛けている。
この水晶は魔石を特殊加工して、遠距離に居る者と会話できる用にした物だ。
わたしはこの水晶を通して、自分の部族に多くの情報をもたらした。
『鬼人族に当たった軍団が竜騎兵団である以上、負けるのは分かるが、まさか魔法師団が一兵も失う事なく獣人族に勝つとは・・・・・・・』
わたしもその報告を聞いた時は驚いた。
魔法師団の戦線には、新兵器を投入すると聞いてはいたが、それでも少なくない損害を受けると思っていたのに、まさか一兵も失うことなく勝利するとは思わなかった。
『その新兵器とやらは、異世界から来た者達がもたらした技術だそうだな』
「はい、異世界人の一人がもたらした知識で作ったそうです」
『・・・・・・・・・・・・・・・』
上官が黙り込んだ。
恐らくわたしが報告した情報を頭の中で纏めているのだろう。
わたしは、上官が思考の海から戻って来るのを待った。
もう少し待つと思っていたが、上官は直ぐに戻ってきた。
『軍には撤退する様に進言する』
「はい、そうした方が良いよ思います」
元々、今回の出兵は対外的な意味も含めて派兵したのだ。
わたし達の部族は種族がら、獣人族とも交流がある。
その縁で、獣人族が人間族の国を攻めると聞いたので、慌てて軍を出した。
あくまで獣人族との友好の為に派兵したので、人間達と争う気も領土を得るつもりもない。
鬼人族はどうか分からないが、他の部族もそんな感じだろう。
『お前から見て、異世界人達はどう思う?」
「そうですね。下手に争うよりも、友好を結んで利益を得るのが良いかと思います
『お前もそう思うか』
「も? と言う事は・・・・・・・」
『わたしは人間族と講和または同盟を結ぶべきだと思っている』
「講和ですか。向こうが素直に応じるでしょうか?」
『そうならざるを得まい。何せ最終的な敵は我らではなく魔人族なのだからな。それに人間達と我らが争えば、横合いから利をえる者も出るだろう』
「漁夫の利ですか、言われてみたらその通りですね」
そうなったら、我が部族の被害は甚大になるだろう。
『故に、今は講和を結ぶべきだ。そなたは引き続き情報集に励め』
「分かりました」
『では、次の報告の日まで。それまで捕まる様なへまはするな。ミルチャ』
上官がそう言うと、水晶の輝きが止んだ。
わたしミルチャは水晶を懐に隠し、図書室を出る。
(鬼人族と獣人族が敗れた情報は直ぐに、王都に潜入している亜人族と天人族の間者にも伝わるわね。二つの部族は、どうするか見ものね)
そう考えながら、わたしは仕事に励む。
全ては竜人族の未来の為に。




