第56話 王都への凱旋準備
数日後。
僕達は、王都への帰還するため、準備を始めた。
途中で竜騎兵団とも合流する予定なので、少し遠回りの道のりだ。
なので、準備はしっかりと行っている。
僕達の方はと言えば、特にやる事がなく暇していた。
最初、手伝いをしようとしたが。部隊長達に止められた。
これを仕事にしている者達も居るので、その者達の仕事を奪わないでくれと言われては、返す言葉もなかった。
なので、する事が無くて暇だった。
(城を出るのは、後数日かかるって言っていたし、することがなくて暇だな~)
あまりに暇だったので、僕は詰め込み作業が見える所で、普段はあまり話さないモリガンと話をする事にした。
何せこの烏いや神様は、気が付いたら何処かに行っていたり、傍に居るときに話しかけても反応をしない時がある。
そのくせ面倒な事を命令したりするので、正直手を焼いている。
「ねえ、モリガン」
『なんじゃ?』
話し掛けたら反応した。今日は機嫌が良いようだ。
「他の戦線はどうなっているか分かる?」
『うむ。獣人族と鬼人族以外は、睨み合ってはいるが小競り合い程度で、本格的な戦闘は開始してはいない』
「そっか、じゃあ鬼人族の方はどうなのかな?」
負けたなら、そうゆう報告が来ている筈だ。来ていない所を見ると、恐らく勝ったのだろう。
天城君達は無事だといいけど。
『戦自体は圧勝であったが、汝らの仲間が数人やられたようだ』
「やられた? それって・・・・・・」
『言葉通りだ。敵の攻撃を受けて死んだのだ』
「・・・・・・・・そっか」
戦争に出たのだから死ぬのは当然だ。それは敵も味方も関係ない。
でも、クラスメート達が死んだと聞くと、何か、胸に穴が開いた様な喪失感はなくならないな。
「でも、よくそんな事が分かるよな」
『我ら神は神界から、この世界を見守り続けているからな、それぐらい分かる』
へぇ、そうなんだ。
つまり神様に対して、罰当たりな事をしたら天罰が下されると思った方が良いようだな。
そうだ。前々から聞きたい事があったから、今の内に聞いておこう。
「じゃあさ、恩寵とか加護とか授ける事をしたりするの?」
『それは出来る。神と契約して、その神の寵愛篤い者には与えたりする』
へぇ、つまりお気に入りには「お前は特別だから、加護を与える」みたいな感じか。
「その加護とか恩寵って、神様によって違うの?」
『そうだ。今まで神が下賜した加護や恩寵で有名なのは『月下の恩寵』や『太陽の加護』と『不老の恩寵』最後に『戦神の加護』だ』
何か分かりやすい加護だな。
太陽とか戦神とか与えた神様もろ分かるな。
恩寵の方は分からないけど、何となくだが効果が分かる。
「ちなみに、その効果は?」
『『月下の恩寵』は月が出て居る間は死ぬ事はないという効果がある。『不老の恩寵』はその名の通り老けないだけだ。『太陽の加護』は太陽が出て居る間は力が増すという効果がある。『戦神の加護』は戦闘時に、力が増す効果がある』
その言葉まんまの効果だな。『月下の恩寵』以外。
「そう言えば、恩寵と加護の違いってなに?」
『女神が与えるのが恩寵、男神が与えるのが加護だ』
成程。つまり僕が貰えるのは恩寵と言う事か。
そんな話をしていたら、ユエが歩いているのが見えた。
多分、暇すぎて城を散策しているのだろう。
僕も声を掛ける事にした。
「ユエ~」
「うん? おお、ノブか」
「ユエも暇だから散策しているの?」
「まぁ、そうだな。ノブもそうか」
「そんなとこだね」
正確に言えば、モリガンと話していたのだけど、魔法契約の際に、この姿になっている事を誰に知られてはならないと言われているので、そう言うしかない。
「暇だから、少し話をしないか?」
「いいね。何を話す」
「そうだな。・・・・・・・・・今後についてだ」
「今後?」
「うむ。わたしに予想だが、今回の戦争に参加して戦うのが嫌になった者が何人か出ると思う」
「・・・・・・そうだね。出るかもしれないね」
人を殺すのもそれを見るのも、くるものがあるからな。いくら覚悟していてもきついものはきつい筈だ。多分、王都に戻ったら、多分その話は出ると思う。
「ユエはどうした方が良いと思う?」
「それは個人の勝手だ。好きにさせるのが一番だ」
うん、ユエはそう言うと思っていた。でも、戦う気が無くなった人を気遣う余裕は僕達にはない。
戦争に出る気が無くなったのなら、後方で好きにさせるしかない。
「そうだね。じゃあ、戦争に参加するのを止めたくなった人はそうしようか」
「だな。で、王都に帰還したらだが、どうしたら良いと思う」
「そうだね。ここは各部族に講和をするように進言したらどうかな?」
「講和? 同盟じゃないのか?」
「同盟ってさ、綺麗な言葉で良い事を言っている様に見えるけど、その実、属国に近いような物だからね」
良い例をあげるとしたら、徳川家康が良い例だ。
彼は織田信長と同盟を結んだが、関係ない織田の戦に駆り出されるわ、武田に攻められ滅亡の危機に陥って、援軍を要請しても碌な援軍を送られなかったし、更には敵と内通したとか言いがかりをつけてられ、自分の奥さんと子供を殺す羽目になった。
「それに同盟を結んだら、その部族の軍を率いるから戦力は増強されるから良いかもしれないけど、後が大変だよ」
「後とは?」
「戦後補償とかだね」
「そんなのは、負けた者達から賠償させれば良いだろう」
「キリよく折半出来ると思う?」
「むっ、そうだな。取り分で揉めるかもしれんな」
「その通り。下手したら、それで同盟が決裂するかもしれないよ」
「ふむ。その通りだな」
「だから、ここは講和で様子見して、後は通商条約とか不可侵条約とか結んでいけば良いと思う」
「では、まずは何処と講和を結んだ方が良い?」
「天人族だね」
「ほう、何故最初は天人族にした?」
「今回の出兵で一番動員数が少ないから」
今回の出兵だって、侵攻する気はなく外交的な何かで兵を出したと、僕は思っている。
そこを突けば、講和は簡単に結べるだろう。
「成程。動員された兵が少ない所から講和するか。だが、今回の出兵は少なくしただけで、本当はもっと出せるかもしれないぞ」
「僕の予想だけど、僕達が王都に帰還する頃には他の部族たちは講和を申し出ていると思うな」
「なにっ?」
ユエはそこまで思わなかったようだ。
「どうゆう意味だ?」
「壁に耳あり、障子に目ありだよ」
「それは確か諺だったな。意味は・・・・・・・そうゆう意味か」
流石はユエだ。僕が言っている意味が分かってくれた。
「王都には、他部族の間者がいると言う事だな」
「その通り。そして、僕達が勝った報告は既に王都に向かっているから、直ぐに王都に潜んでいる間者の耳にも知れわたるよ」
「そう、旨くいくか?」
「いかなかったら、こっちから講和をするように、王様に持ち掛けるよ」
「そうだな。それともう一つある」
「うん、何かな?」
「元の世界に帰る事が出来なくなった場合の話だ」
「ああ、それね」
王様が言うには、今探している最中だと言っていたけど、帰れるか分からないからな。
一応、こちらの世界で生きていく手段も考えておかないとね。
「ノブはこの戦争が終わったらどうするのだ?」
「僕? 僕はね。何処かに畑と小さな家をもらって、そこで自給自足の生活をするよ」
「ふっ、何ともノブらしいな」
「だよね。ユエは?」
「わたしは異世界の知識を使って金を貯めて、会社いやこっちの世界風に商会を作る」
「商会か。ユエにピッタリじゃないか」
何せ、小さい頃からオジサンの仕事の手伝いをしていたのだから、お手の物だろう。
どんな商会になるか分からなけど。
「僕は応援するよ」
「そうか、手伝ってくれるのだな」
うん? 何かニュアンスが違ったような。気のせいか
「うん、僕に出来る事があったらね」
「よし、言質はとったぞ。忘れるなよ。ノブ」
あれ? 何か嵌められた気がするのは気のせいだろうか?
その後も、僕はユエと話をした。
猪田がユエと話している頃。
魔法師団部隊長A「先日の襲撃犯の探索のご許可を‼」
魔法師団部隊長B「ぜひ、わたしにご命令をっ」
魔法師団部隊長C「我らの手で、必ずや捕まえてごらんにいれます!」
エリザ「・・・・・・・却下」
魔法師団部隊長A、B、C「「「何故ですか⁈」」」
エリザ「今は王都に凱旋する方が先よ。失敗した暗殺者の事なんか忘れなさい|(訳 好きな人の事を思ってに強引な事をしただけだし、同じ女としては怒れないわ。その好きな人をわたくしが独占しているから余計に)」
魔法師団部隊長A、B、C「「「ですがっ⁈」」」
エリザ「この話はもう終わりよ」
そう言って強引に話を打ち切ったエリザ。
これによって、椎名は逮捕されない事になっていた。




