第3話 言われてみると確かに
ヘル姉さんは既にハノヴァンザ王国の事を聞いていたのか、僕達が船に乗ると直ぐに出航準備に取り掛かった。
と言っても動力器官を起動させて浮上させるだけだ。
その間というか、王国に着くまで暇な僕達。
イザドラ姉上とヘル姉さんは船の指揮をし、フェル姉達とマイちゃん達は一眠りすると言って用意された部屋に向かい。ロゼ姉様は船に乗る西園寺君達の案内を買って出た。
「勝手に歩かれて、触ってはいけない所に触られる様な事にあって困るのでな」
どうしてと訊ねるとそう返して来た。
それを聞いて西園寺君達はロゼ姉様の案内で船内を歩き回った。
僕は喉が渇いたので食堂に向かった。
食堂で飲み物を貰い椅子に座った。
窓が無い部屋なので外の様子は分からないが、静かに飲めるので問題なかった。
暖かいお茶を頼んだので、少し冷ましながら啜る。
前世が日本人だったせいか、お茶をは啜ってしまう。
ロゼ姉様が居たら「音を立てて飲むとは無礼じゃぞ」と言って説教するが、居ないので問題なく啜る事が出来る。
「……あの、リウイさん?」
声を掛けられたので振り返ると、其処に居たのは天城君の姪の龍月さんが居た。
伯父の知人の記憶を持っているが、今は魔人族に転生しているのでそちらの名前で呼ぶのが良いのだろうと思い声を掛けた感じだな。
「龍月さん。何か?」
「……その伯父の件で聞きたい事がありまして」
「聞きたい事?」
何だろう? もしかして、成仏させた事を怒っているとか? と言われてもな。
あんな状態で長生きも何もないだろう。死んでいるのだから。
「……伯父は前世の貴方を殺したと聞きました。転生しても伯父に恨みはありますか?」
真剣な目で訊ねる龍月さん。
元より冗談も嘘をつくつもりもないので、本心で応える。
「無いよ。全然」
手を振りながら答えると、龍月さんは目を点にした。
「無いのですか?」
「だって、生まれ変わってまで恨みを持つとか、執念深すぎるよ。流石に其処まで恨みを持つ事は出来ないね。性格的に」
「は、はぁ……」
「まぁ、流石に殺された時は怒りは浮かんだけど、その理由が分かっているからどうにもね」
天城君があんな事をする様になった一因は僕にある。
椎名さんに曖昧な態度を取っていたから、ああなったのかもしれないと思うと、自分にも原因があると分かると、不思議と恨む気持ちは無くなった。
まぁ、今生を楽しんでいる事もあるのだろうけどね。
……椎名さんにハッキリと付き合えないと言っても、何かその後も付き纏い続けそうな気がしないでもないが、それはそれと考えよう。
うん。と言うか、そんな事を考えたからか、椎名さんに付き合えない事を告げて元の世界に戻ったら裁判沙汰になりそうな事件を起こしそうな気がしてきた。
「あの、顔色が悪いのですが? 大丈夫ですか?」
「うん。大丈夫」
妄想で椎名さんと刃傷沙汰になったかも知れない未来を想像して顔をゾッとしていると、龍月さんが顔色が悪くなったのを見て気遣ってくれた。
「……ああ、こほん。話はそれで終わり?」
「後、もう一つ。伯父の遺灰を持っていますか?」
「ああ、此処に」
僕は懐から小さな袋を出した。その中に天城君の遺灰が入っている。
「今渡したほうが良いかな?」
「いえ、実はその事で相談が」
「相談?」
「はい。伯父の遺灰を手に入れて元の世界に持って帰っても、どうやって遺灰を手に入れたのか両親と祖父母にどう説明するか困っているんです」
ああ、確かに。
まさか、異世界で殺人を犯して処刑されて墓に入れられて、処刑された恨みで死人になって国を滅ぼして其処の王都だった所に長い間居座っていた。其処に行って浄化して遺灰を手に入れましたって言えないよな。