第112話 ここだけの話をする
「・・・・・・ああ、そうだ。俺は処刑されて、それで死人になって蘇ったんだ」
自分の姿を見た事で徐々に記憶を取り戻す天城君。
「それで此処を廃墟にして居座ったと」
「傍迷惑な奴」
「生前の頃からそうだろう」
マイちゃんが呟くとユエがそう答えると、そうだったとばかりに手を叩くマイちゃん。
否定は出来ないかな~。
「さて、話はこれで終わりで良いな」
そう言ってユエはアンゼリカを持とうとしたが、見えない壁の様な物に阻まれアンゼリカを持つ事が出来なかった。
『これこれ。我が、主以外に我を持たせると思ったのか?』
「ふむ。そうか。では、リウイ」
ユエは僕を見ながら髑髏だけの天城君を指差す。
「この剣を抜くか? それとも自分で止めを刺すか?」
「えっ」
「猪田、お前は俺を殺すのか? お前が俺を」
髑髏になった天城君は僕を見る。
「……一つだけ聞きたい事があるんだけど良いかな?」
「こいつにか?」
「うん。お願いできるかな」
「わたしは構わないが」
ユエは他の人達を見ると同意とばかりに頷いた。
「好きにして良いそうだ」
「ありがとう」
感謝を述べて僕は天城君に近付き、アンゼリカを持つ。
「アンゼリカ。誰にも聞かれたくない話をするから防音結界を張って」
『承知した』
アンゼリカは僕の願いを聞いて僕の周りに透明な結界を張った。
突然、結界を張られたので皆は驚いて結界を攻撃しだした。
ごめん。直ぐに済むから。
そう思いながら、僕は天城君を見る。
「天城君。聞いても良い?」
「何だ?」
「君は今でも椎名さんの事が好きなの」
「ああ、そうだ。当然だろう。俺が初めて好きになった人なんだからな」
「そうなんだ……良いな」
思わずでた呟き。
胸を手を当てながら僕はユエ達に対して思っている事を言う。
「今の僕はユエ達の思いに応えて良いのかだろうか?」
マイちゃん達が前世の僕に好意を持っているのは分かっていた。色々とあってそれに応える事は出来なかった。
転生して出会う事は出来たけど正直に言って応えて良いのか分からなかった。
マイちゃん達が僕が好きなのは、それは前世の記憶を持っているからだ。
前世の僕が好きだったマイちゃん達に記憶を受け継いでる僕が応えても良いのか。
それが分からず僕は皆に対して一歩踏み込める関係を築く事が出来なかった。
親しくはしているつもりだが、何処か壁を作っていた。
「君が羨ましいよ。そんな姿になっても椎名さんの事が好きなままで」
「・・・・・・お前は椎名さん達が嫌いなのか}
「嫌いとかじゃなくて、転生した僕がそれに応えて良いのか分からないのが正しいかな」
「そんなの。どうでも良い事だろう」
「えっ⁉」
「悔しいが椎名さん達が好意を持っているのはお前だ。前世の記憶を持っていようが種族が変わろうが、それは変わりない。だから、生まれ変わったというだけでその気持ちに応えないのは不公平だと思うぞ」
何か、凄い良い事を言っているぞ。
「正直に言ってお前が羨ましいよ。猪田」
「僕は君のその真っ直ぐな所が羨ましいと思ったよ。天城君」
そこだけは本当に羨ましいと思っていた。色々な可能性を考えてしまい、それで思考の袋小路に入る僕からしたら、思い立ったら行動する君が凄くて羨ましいと思ったよ。
「お互い無い物ねだりだな」
「そうだね」
僕達は思わず笑ってしまった。
出来れば生まれ変わる前にこうして腹を割って話し合いたかったな。