第109話 僕の周りには怖い人しか居ない
「イノタイノタイノタイノタイノタイノタイノタイノタイノタイノタイノタイノタイノタイノタイノタイノタ」
黒い骸骨こと天城君は武器を構えて向かって来る。
死してなお、僕をこれほど恨むか。
『何をしている。早く抜けっ』
アンゼリカにそう言われて僕は慌てて柄に手を掛けた。
しかし、遅かった。
もう天城君は剣を振りかぶり、僕を殺せる位置に居た。
スローモーションの様に剣を振り下ろされるのが見える。
このままでは殺されるのは分かっているのに、身体が動かない。
また、死ぬのか? それも同じ相手?にと思ったら。
「『黒炎』」
その声が聞こえたと同時に天城君いや骸骨騎士アマギの身体が黒い炎に包まれた。
「ガアアアアアアアアッ」
黒い炎に包まれて転がる骸骨騎士アマギ。
僕から離れて行く骸骨騎士アマギに容赦なく光の鎖が骸骨騎士アマギの身体に巻き付いた。
「『聖なる緊縛鎖』死人の貴様には効くだろう。動けないだろう」
リリムが双剣を構えながら骸骨騎士アマギに近付いた。
そして、自分の近くにある手を足で踏み砕いた。
「ガ、ガガ……」
死人でも痛みがあるのか、手を砕かれて悶えている骸骨騎士アマギ。
「きさま、貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様ああああああぁぁぁぁぁ。我が主をまたわたしから奪おうとしたなっ。逆恨みで殺しただけでは飽き足らず、死人になってまた殺しに来たのか? わたしが居る前でそんな事をさせると思ったのか? アマギ⁉」
リリムがそう叫ぶの聞いた西園寺君達は驚いていた。一番驚いていたのは天城君の姪の龍月だった。
「また殺す?」
「どういう意味?」
ああ、其処の所を考えるか。うん。仕方がないね。
後でユエかマイちゃん辺りに詳しく説明する様に頼もう。
「死人になって蘇り、そして自分を処刑した国を滅ぼしてその王都に居座るか。生前の己が手に入れる事が出来なかった栄光を死んだ後で手に入れる。自分がした事を棚に上げて、それで自分が正しいと吼える。正に、貴様の様な女々しい男には相応しいな」
「ガ、チガウ。オレハ、オレハミンナヲマモルタメ二」
「違うな。お前は他の者よりも自分の好いた女を守る事が大事だったんだ。そのついでに、他の者も守る事にした。それだけの事だろう。だが、あの方は違う。自分の命も守りつつ他の者達も可能な限り守った。其処が貴様とあの方との違いだ。最も」
リリムは口角を釣り上げた。
これから言う事が心底面白いと分かっているからだ。
「お前が好いた女はお前の事など、蚊の翅程度の興味も持っていないがな。どうだ? 死んでもなお、自分の事がどうでも良いとも思われるのは? どんな気分だ? なぁ、どんな気分だ?」
あっ、昔の口調に戻りかけてる。
僕に仕えた最初の頃はそれはもう荒々しくて、マフィアでも、もっと敬語を使うぞと思うぐらいに口が悪かった。
まぁ、口調に関しては矯正するという話が出る前に敬語を使う用になったので問題にならなかったが、偶に切れると昔の口調に戻るんだよね。
「ちょっと、リリム。訂正してっ」
おっ。珍しく椎名さんが反論しだした。実は少しだけ脈があったのかな?と思ったが。
「蚊の翅程度じゃなくてミジンコ程度の興味も無かったわよ」
……何だろう。前世の僕を殺した相手なのに、何だか可哀そうになって来た。
「ふふふ、相手がこいつだと分かれば、問題ないわ。塵一つ残す事いえ魂の一欠けらも残さないで消滅させるわ」
「今回だけは手伝おう。椎名」
「死人だしね。殺しても、何の問題もないでしょう」
椎名さんが武器を構えると、ユエとマイちゃん達も笑顔で武器を構えた。
リリムだけでも十分なのに此処でマイちゃん達も加わるとか。死んだな。もう死んでいるけど。
「ふふ。わたしも混ぜてもらえるかしら?」
「別にフェル姉まで混ざらなくても……ひぇ」
フェル姉が混ざりたいと言うので、其処までしなくても良いと思い首を向けると、其処には龍すら逃げ出しそうな形相をしているフェル姉が居た。
その表情を見て身体を震わせた。
「わたしの弟を、わたしの目の前で殺そうとするとか。良い度胸ね。その魂に自分がした事の愚かさを刻んであげるわ」
「あははは、同感」
フェル姉に同調する様にミリア姉ちゃんも答える。
こちらの場合、楽しそうに笑っているのは何でなのか分からない。
『我が主の周りには恐ろしい者達が多いのう』
何を冷静に言っているのかな?
「リウイ様。お怪我はありませんか?」
「あ、ああ。うん。大丈夫」
リッシュモンドが声を掛けて来たので、改めて自分の身体を見て何処も怪我をしていない事を確認する。
「それはようございました。それと、あの者達から少し距離を取りましょう。巻き込まれる可能性がありますので」
「確かに」
って、意外に冷静だな。リッシュモンド。
てっきりリリムみたいになると思ったけど。
そんな思いで見ていたからか、リッシュモンドは答えた。
「周りの者達が怒っていると、自分は逆に冷静になると言います。それと同じです」
「成程」
人ではそういう事を聞いた事があるけど、死人でも適用されるのか?
……まぁ、良いか。
そんな事をしていると骸骨騎士アマギと椎名さん達との戦いが始まった。




