第105話 そう言えば一軍の将だったけ
「バォバロンを使うの。ヘル姉さん。どんな作戦なの?」
「それは」
ヘル姉さんが言おうとしたら、イザドラ姉上が口を挟んで来た。
「やってみたらいいのでは。失敗したら、その時はその時で対処すれば良いだけですから」
「そうじゃな。どうせ、大した事は出来んのじゃ。ヘルミーネよ。やってみるがよい」
「分かった。リウイ。あのペットを借りるぞ」
そう言ってヘルミーネ姉さんはブリッジから出て行った。
う~ん。イザドラ姉上だけではなくロゼティータ姉様も賛成するので、何をするのか聞けなかった。
其処だけは気になるな。
ヘル姉さんの指示でバォバロンを外に出した。
端末の方では無く本体の方だ。
そして、船を『廃都』へと向かわせた。
「ふむ。此処まで静かでそれでいて、姿を隠す事が出来る船が存在するとは」
ラウンジに居るアウラ王女は今の技術力に感心していた。
若い見た目でおばあちゃんみたいな事を言うと、凄い違和感を感じる。
「同感じゃな。我が国ではこの様な船など開発する事は出来ぬ。素晴らしいと言えるのぅ」
ロゼ姉様は普通に感心している様だが、アウラ王女とはニュアンスが違うんだよな。
まぁ、気付いていないから良いか。
「ところで、リィン。話があるのじゃ」
そう言われて、僕はロゼ姉様に引っ張られてラウンジの隅に連れて行かれた。
「リィン。あの女性は何者じゃ?」
「ええっと……マイちゃん達の知人です」
「そうか。……という事は前世のお主の知り合いか?」
鋭い。こんな見た目なので忘れるが、この人、意外に切れ者なんだよな。
「……今、馬鹿にしている気がするのじゃが?」
「気の所為です。そうだな。隠す事ないので、教えるね」
ロゼ姉様には前世の僕とアウラ王女の関係と今のアウラ王女の事を話した。
「成程のう。しかし、その関係はイザドラに言わぬほうが良いのう」
「何で?」
「イザドラの事じゃからな。『リウイに前世の姉など不要。リウイの姉はわたし達だけで充分。よって、前世の姉など抹殺しましょう』とか言いかねんぞ」
「ああ、成程。言われてみると、そういう事を言いそうですね」
そうやって聞くと、ヤバい人に思えるな。いや、もう十分にヤバイか?
「まぁ、こうして会えたのだ。また親しくなるのも良いじゃろう」
「そうだね」
知らない人という訳ではないので、これからも親しくなるのも良いだろう。
そうしていると、船が止まった。
どうやら、目的地に着いたのだろう。
さて、ヘル姉さんが考えた事はどうなっているのだろう。気になるのでブリッジへ向かう。
そして、ブリッジに着くと其処のスクリーンから映っている画像を見た。
「…………これは、また」
思わず顔をひきつらせた。
スクリーンに映している画像ではバォバロンと似たような獣型のアイゼンブリートたちが神聖王国軍を襲っていた。
いや、これは襲っているというよりも、自分達よりも強い者に追い立てられた先に偶々居た神聖王国軍を襲っているちう感じだ。
その勢いに飲まれてか、神聖王国軍はそれなりの死傷者を出しつつも陣地から逃げ出していった。
確かに悪い手ではないと思うけど、これは流石にやり過ぎだろう。
「ヘル姉さん」
「何だ?」
「やり過ぎじゃない?」
「そうか? わたしはバォバロンに追い立てられたアイゼンブリート族の勢いに飲まれて逃げるだろうと思っていたが予想通りだと思ったが」
「いや、死傷者出し過ぎでしょう」
「戦場に出た以上、死は覚悟の上だろう。仕方がない」
色々と優しいけど、割とシビアなんだよな。この人。一軍の将だから、割り切る所は割り切っているのだろう。




