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第3話 転移した先は⁉

 床に浮かび上がった魔法陣が輝きだして、目をつぶった僕は周りが騒ぐ声が聞こえたので、恐る恐る目を開ける。自分の周囲を見る。

 まず、目に入ったのは、自分達を囲んでいる白いロープを着た人達が居た。

 皆、同じ紋様が入ったローブを着ているので、何処かの宗教にでも入っているのだろう。

 更に周りを見ると、自分達は何処かの部屋に居る事が分かった。

 自分たちのクラスが丸々入る位の大きい部屋で素材は何を使っているか分からないが、石造りの建物だ。

 建物の色全てグレーで、巨大な柱が支えられている。

 自分達はその建物の最奥にある所で、魔法陣が描かれている上に居た。その場所は周囲に比べると一段低いので、どうやらこの建物はスタジアム状になっているようだ。

 信康の周りには呆然としているクラスメイト達が居た。どうやら、教室に居た人達は皆巻き込まれたようだ。そう思っていると、僕は後ろを振り返る。先程まで、口喧嘩をしていてたが、今は呆然としている椎名さん達が居た。ちらりと見た限りでは、どこも怪我をした様子はないので安堵の息を吐く。

 皆どこも異常が無い事が分かると、改めて僕達を囲んでいる人達を見る。

(キリスト教? いや、違う。じゃあ、ユダヤ教かな? もしかしてイスラム教? でも、よく見ると着ている服は僕達の服と作りが違う気がする)

 そう思っていると、僕達を囲んでいる人達の中で一番豪奢で煌びやかな衣装で、所々に宝石をあしらった球帽子を被っている五十代くらいの人が進み出てきた。

 歩く度に持っている錫杖がシャンシャンと鳴る。僕達から十歩くらい離れた所で止まり、垂れた目で僕達を見ながら、落ち着いた声で話し掛ける。

「ようこそ。エルディアスへ。異世界の皆様方、歓迎いたします。わたしは聖フィリアス教会の大司教をしております。名をライデル・フォン・ティリアリスと申します。今後ともよろしくお願いしたします」

 ライデルと名乗った人は、そう俺達に告げた。


 ***


 僕達は場所を変えて、かなり長いテーブルが幾つもある大広間へと移った。

 この部屋は先程の部屋に比べると、質素な作りで彫琢品や絵などはなく、出入り口は一つで窓もないので圧迫感を感じる部屋だ。それなのに部屋だけは広いので、恐らくここは作戦会議をする為の部屋か何かなのだろう。クラスの皆は思い思いの席に座る。僕は最後のの方へと座ろうとしたら、ユエとマイちゃんが僕の襟首を掴んで、二人の間に座らされた。最初は断ったのだが、二人が強引に座らせた。

 その席に座ると、男子生徒達からの殺意を孕んだ視線だけではなく、途轍もない悪寒をを感じた。その悪寒を感じたを方を見ると、椎名さんが光を宿さない目で僕を見る。瞬きもしないので余計に怖い。

 僕はそんな視線にさらされながら、ライデルの話に耳を傾ける。

 ここに来るまでに、何人かの生徒達が騒ぎ出したが、ライデルさんが事情を説明すると言い、それに加えて、クラス委員の西園寺颯真さいおんじそうま君が落ち着かせたので、どうにか出来た。

 教師も居ない中で皆を纏められるなんて、流石は我がクラス一の秀才だ。

 クラスの皆が座ると、部屋に唯一ある扉が開く、入って来たのはメイドさん達だ。

 それも日本の某聖地にいるような偽物でもなく、ドラマに出て来るようなおばさんでもない。

 男子の夢である。美女アンド美少女だ。

 今だ思春期である男子達はメイド達に視線を釘付けだ。そんな鼻を伸ばした男子達に、女子は虫けらを見るような目で男子を見る。

 カート押しながら飲み物を給仕してくれるメイドさん達。自分達の傍に来て給仕してくれるので、男子は凄い凝視している。

 僕の傍にも来たのだが、女性を凝視するのは失礼に当たると両親に小さい頃から言われているので、飲み物を貰うと「ありがとうございます」と言って直ぐに前も向く。

 すると、隣から小さい声で「よし!」とか「流石はノブ。もし、凝視していたら足を踏んでいたな」と言っているのが聞こえた気がしたが、幻聴だと思い聞かなかった事した。

 チラリと椎名さん方を見ると、満面の笑みを浮かべていた。

 何で、そんな笑みを浮かべるの? と思いながら椎名さんを見ていると、全員に飲み物が行き渡ったようで、メイドさん達は一礼をして部屋から出て行った。

 メイドさん達が出て行くと、何人かの男子達は未練がましい目で見送った。

 それを見た女子達は視線が更に冷たくなっていった。

 メイド達が全員出て行くのを確認したライデルは話し始めた。

「皆様方は、いきなりこのような状況になったので、混乱しているでしょう。最初から順に説明していきますので、どうか最後までお聞きください」

 そう言って話し始めたライデル。

 話しの内容は異世界転移小説でありがちなテンプレ通りだった。

 要点をかいつまんで話すとこうだ。

 ここはエルディアスと言う異世界で、ユグドラシル大陸のヴァベリア王国だそうだ。

 この世界には大まかに分けて七つの種族が存在している。

 人間族、亜人族、鬼人族、獣人族、魔人族、竜人族、天人族の七つだ。

 それぞれの種族は独自の文明を築き、大小様々な国が存在する。

 だが、数年前から魔人族が各種族に対して戦争を仕掛けてくるようになった。

 原因は魔人族が治める土地が痩せているので、少しでも肥沃な土地を欲する為だという意見が一番有力だが、本当の所は分かっていない。

 各種族たちは最初連合を組んで、魔人族に対抗しようとした。

 緒戦は優勢だったが、魔人族の王都での決戦で惨敗した。

 どうも、緒戦で勝ったので決戦でもあっさり勝てるだろうと各首脳が思い込み、決戦を始める前に魔人族の領土分配の話をしだした。

 各首脳の思惑と欲望が錯綜した事で、連合軍の足並みが崩れそこを付け込まれて連合軍は惨敗した。

 負けただけならまだ良いが、各種族の首脳は負けた責任を他の種族へと擦り付けを始めた。

 それにより、各種族の関係が悪化。これにより大陸は戦国時代へ移行した。

 人間族は数の多さで言えば獣人族に負け、個人の強さでは魔人族、竜人族、鬼人族に負け、魔力の強さで言えば亜人族に負ける種族だ。

 そんな種族なので、各種族も真っ先に人間族の国を滅ぼすために軍を編成しているそうだ。

 このままではこの大陸の人間族は滅ぼされるのは時間の問題かと思われたが、そんな時にヴァベリア王国の図書館で、ある古文書が発見された。

 其の古文書は異世界の住人を召喚する方法が書かれていた。

 異世界の住人は、この世界の人間に比べると遥かに優れた能力を持っているそうなので、その力を借りてこの危機を乗り越えようという事らしい。

「どうか、貴方方の力で我らを救って頂きたい」

 全てを話を終えると、ライデルは頭を下げて頼みだした。

 それを聞いて、皆は何も言えず、シーンと静かになってしまった。

 ここは誰か何か言った方が良いのではと思っていると、猛然と抗議する人がでた。

「ふざけるな! 俺達に人殺しをさせるつもりかよ! あんた達がいくら困っているからと言っても、これは拉致と同じだ!」

 そう言いだしたのは、クラスの男子の中で西園寺颯真と対をなす存在の人で、名前を天城信成あまぎのぶなりと言う人だ。

 百七十センチは越える高身長で、短い茶髪に刃のように鋭い切れ長の瞳。引き締まった体。

 性格は正義感が強く、誰にでも優しくて思い込みが激しい人だ。

 成績優秀で容姿端麗なので、女子にはモテる。

 悪い人ではないのだが、どうも正義感が強いので事件に起こしたり巻き込まれたりしている。

 ちなみに、マイちゃんの取り巻きの一人でもある。

 何で、マイちゃんの取り巻きをしているかは知らない。

 その天城君がライデルに噛みつく。そんな姿を見て女子たちは頬を赤くしながら見つめる。

 だが、ライデルは言いにくそうにしながら、口を開く。

「こちらの勝手で呼んだのは承知しております。そちらの事情も気持ちも察しております。そこを曲げてお願いいたします。この通りです」

 ライデルは頭を下げるが、天城君はなおも言い募る。

「あんたがどれだけ頭を下げても、俺達は殺し合いなんてしないぞ! 早く俺達を元の居た所に帰ししてくれ!」

「それは・・・・・・・」

 ライデルは口籠った。その様子を見て、僕は直ぐに口籠った意味が分かった。

「どうしたんだよ。俺達を召喚出来たのなら戻す事も出来るだろう⁉」

「いえ、その、・・・・・率直に申しまして、貴方方を元居た所に戻す事は出来ないのです」

「「「「えっ⁉」」」」

 皆が驚く中、ライデルは躊躇いながら話し出す。

「古文書に掛かれていた方法は召喚するだけで、召喚した者達を元居た所に戻す方法は書かれていませんでした。なので、皆様を元居た世界に戻す事は出来ないのです」

「な、なんだって・・・・・・」

 天城君は力を失ったように椅子にもたれた。

 周りの生徒達も言葉の意味を理解すると、騒ぎ出した。

「じ、冗談じゃねえ⁉ 人殺しなんて出来るわけないだろう!」

「ふざけんな! いいから帰せよ!」

「いやだ、いやだ、いやだ、いやだ・・・・・・」

「お母さんっ!」

 恐慌状態になる皆。僕は予想通りの展開になったので、何も言えなかった。

 予想はしていても、その通りになると心にくるものがある。

 もう帰れないのかと思うと、誰でもパニックになってもおかしくない。

 では、何故パニックしていないのかと言うと、一つ聞きたい事があるからだ。

 この答えによって、自分は平静を保てるか分からない。

「一つ訊いても良いですか?」

「どうぞ」

「今は帰る事が出来ないのでしょうか? それとももう二度と帰る事は出来ないのですか?」

「はい、それについては今は帰る事は出来ない・・・・・・・・と言えます」

 ライデルがそう言うと、先程まで騒いでいた皆がピタリと静かになった。

「それは将来的には帰る事は出来るという事ですか?」

「はい。現在、召喚魔法陣を研究中で、時間さえ頂ければ、皆様を元居た世界に帰す事は出来ると約束いたします」

 それを聞いて、皆は歓喜した。

 だが、そんな気持ちも直ぐに水を差される。

「ですが、今の状況では、研究も満足にできない状態です。ですので、皆様が帰る為にも、何卒」

 ライデルがそう言って、また頭を下げる。

 皆は互いの顔を見ていると、テーブルをバンッと叩く音が響く。

 音がした方に、顔を向けると、西園寺颯真君がテーブルを叩いたのだ。

 西園寺君は皆が自分を見るのを確認すると、語りだした。

「皆、聞いての通りだ。この国が滅ぶような事になったら、俺達は帰る事も出来ずに、この世界で屍を晒す事になるだろう。だから、俺は戦う。生き残る為にだ。俺は戦う事を選ぶが、皆の中には戦う事を嫌な者は居るだろう。そこは自己判断に任せる。明日のこの時間まで考える時間にしよう。じっくりと考えてくれ。ライデルさん、それで良いですか?」

「ええ、こちらとしては戦う手を借りている状態ですので、そちらがどのように貸すか、そちらにお任せします」

「結構。では、これで話は一旦終わりにして、俺達の生活する所に案内してもらえるか?」

「ええ、分かりました。今メイド達を呼びますので、少々お待ち下さい」

 ライデルはメイドを呼ぶ為、部屋を出て行く。

 僕はライデルが出て行くのを確認してたら、溜め息を吐いた。

「はぁ~、これからどうなるかな?」

「うん? そんな分からない決まっているだろう?」

「まぁ、そうだね。それと、さっきから思っていたけど、ユエ」

「何だ?」

「随分と平然としてない?」

「そうでもないぞ。正直、この状況にわたしも驚いている」

 見ろと言わんばかりに、右手を見せるが微かに震えていた。

 ユエでも驚くことがあるんだと思っていたが違った。

「この世界では、わたしの才能がどこまで通用するか、試せると思うと楽しくて楽しくて震えてきた」

 ユエは嬉しそうに顔を歪ませる。

 震えは震えでも、武者震いでしたか。

「まぁ、今はわたし事よりも、あれだな」

「うん? ごめん、何を言っているか分からない」

「あれだよ」

 ユエが顎でしめした方を向くと、天城君と西園寺君が睨み合っている。なんで?

「大方、お山の大将はどちらかで牽制しあっているようだな」

「まだ、何も決まっていない状態で、争わなくても・・・・・・」

「男のとはそうゆう生き物だろう。ノブはどうする?」

 戦うかどうかを聞いているのだろう。

「・・・・・・少し考えるよ」

「そうか。まぁ、わたしはノブが選んだ方にするだけだ」

 ユエはそう言うと、椅子を立つ。

「何処に行くの?」

「ちょっとな、なに、すぐ戻る」

 ユエはそう言って、部屋から出て行った。

 

 




 

 

 

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