第85話 こちらの方も大事
「で、リウイ。どうしますか?」
僕を抱き締めながら姉上は訊ねて来た。
う~ん。そうだな。
そう考えていると、ブリッジの扉が開く音が聞こえて来た。
誰か来たようだが、生憎姉上の胸で視界を塞がれているので誰が来たのか分からない。
「ねぇ、そろそろ『廃都』が見えて来る頃じゃない。……って何をしているのっ!」
この声はマイちゃんか。面倒だな。
「何って、姉弟のスキンシップですが?」
姉上は僕を抱き締める腕に力を込めた。今顔は見えないが、恐らくきょとんとしているだろう。
「え、えっと、こんな人目がある所で抱き付く事はないでしょうっ」
「姉弟で抱き締め合うのは別に不思議ではないですよ。我が家ではごく当たり前に行われている事ですが。何か問題でも?」
はて? 姉上達と兄さん達が抱き締めている所を見た事が無いのだけどな。
「で、でも」
「それにそんな事を赤の他人の貴女にとやかく言われる様な事ではありません。リウイとはこの大陸に来た時に知り合った程度の関係の貴女には」
うわぁ、顔を見なくても。今姉上が勝ち誇った顔をしているのが分かる。
マイちゃんが僕の前世の幼馴染だって知っているのに、この態度。
知らない人からしたらそう思うだろうけど、僕とマイちゃんとの関係を知っている姉上が言うと嫌味にしか聞こえない。
「ぐぎぎぎ……」
歯ぎしりしている音が聞こえる。
あまり苛めないで欲しいのだけど。
「姉上。マイカさんをあまり苛めては可哀そうです」
もう良いだろうと思い姉上の腕か抜け出た。
自分の腕から抜け出た僕を見て残念そうな顔をする姉上。
「はいはい。分かりました」
仕方が無いなと言いたげに首を振る姉上。
僕からしたら、いい加減抱き締めるのは止めて欲しいと思うのだが姉上の性格上仕方が無いと思って割り切っているのだけどね。
「おほん。それで、マイかさん。こちらいはどの様な用事で?」
「あ、ああ、うん。そろそろ『廃都』が見えて来るのかなと思って聞きに来たのよ」
「そうですか。まぁ、後数日という所ですね」
一応マイちゃんの方が年上なので敬語で話す。
前世の幼馴染が年上になっているというのは、何か妙な気分だなと思いながら話していると、マイちゃんが使い魔からの映像が映し出されている画面を見た。
「これは?」
「この船が居る所から五千キロほど離れた所にいる生物?だと思います」
「じゃあ、あれが獣型のアイゼンブルート族?」
「恐らく」
「で、どうするの?」
「それは勿論。行くに決まっているでしょう」
元々『廃都』に来たのはそれが目的でもあるのだから。
「じゃあ、わたしも付いて行って良い?」
「勿論」
「やったっ」
小躍りしそうな位に喜ぶマイちゃん。
「では、わたしも付いて行っても良いですね?」
「姉上は駄目」
「何故っ⁉」
駄目と言われる思わなかったのか、姉上は信じられないみたいな顔をしていた。
「この船の艦長は姉上がしているのですから。艦長が居なくなった駄目でしょう」
「ぬうう、確かに。でも、ちょっとだけなら」
「駄目」
「ぬうううっ、どうしても?」
「どうしても駄目」
「ぬううううっ、こんなに頼んでも駄目ですか?」
「駄目。あまりしつこいともう相手」
「仕方がないですね。可愛い可愛い弟がそこまで言うのなら断腸の思いですが。この船に留まるとしましょうか」
僕が話している最中に被せてくるとは。そんなに聞きたくないってか。
まぁ、これで船に関しては大丈夫だろう。後は連れて行くメンバーを選抜するか。




