第76話 そんな趣味があるとは知らなかった
翌日。
いつの間にか大きな店を持つようになったからか、仕事があるので毎日姉さんやマイちゃん達の相手する事は出来ない。
今日は一人で書類仕事を片付けていると。
ドドドドっ‼
うん? 部屋の外からまるで暴れ牛が駆け出しているかのような音が聞こえて来たぞ。
何だろうと思っていると、部屋のドアがノックも無しに開かれた。
「リウイ、たすけて……っ」
「ヘル姉さん?」
部屋に入って来たヘル姉さんは何かに怯えた様な顔をしていた。
「おねがい、かくまって……っ」
そう言うなり、姉さんは僕が使っている机の下に潜り込んだ。
僕のサイズに合わせているので少し狭そうであったが、何とか身体を入れる事が出来た。
ヘル姉さんが机の中に隠れて少しすると。
ダダダダッ‼
今度は何かがもの凄い速さで走っている音が聞こえて来た。
そして、僕の部屋の前で急ブレーキをかけて止まった。
ドアを開けているので誰が止まったのか分かった。
「マイちゃん?」
「あっ、リッ君。聞きたいんだけど良い?」
「何を?」
「ヘルミーネさん見なかった?」
マイちゃんがヘル姉さんの名前を挙げると、ヘル姉さんはビクッと身体を震えわせた。
「見てないけど。何かしたの?」
「別に何もしてないわよ。失礼ね。ただ」
「ただ?」
「お姉様って呼んでも良いって言っただけよ」
「お姉様?」
ヘル姉さんがお姉様か。これは先の事を考えて言っているのだろうか?
「何で、お姉様?」
そう訊ねるとマイちゃんは顔を赤らめながら教えてくれた。
「わたし、弟は居るけど上には誰も居ないんだ。だから、ああやって優しく怒って頭を撫でられた事なかったから、それが嬉しくて。だから、ヘルミーネさんにわたしのお姉様になって欲しいのっ」
うっとりしながら言うマイちゃん。
そう言えば十歳ぐらい離れた弟が居たっけ。何度か遊んだな。
しかし、お姉様か。まさか、マイちゃんにそんな願望があったとは。
いや、思い返して見ると宝塚が好きでテレビで演劇をよく見ていたな。それで男役の人を見てうっとりしていたな。
そして小声で「お姉様」とか言っていたような気がする。
聞き間違いだろうと思って気にしていなかったけど、まさか転生して初めて知るとは、幼馴染がそんな願望があるなんて。
「こうしちゃいられないわ。早く探さないと、ヘルお姉様~」
マイちゃんはそう言って駆け出していった。
暫くすると、ヘル姉さんが隠れている所から出て来た。
「ありが、とう。たすかったよ」
「うん。そうだね」
「会うなり、突然『お姉様になってください』って言われて断ったけど、粘るから逃げ出した。……怖かった」
むぅ、ヘル姉さんを怖がらせるとは凄いなマイちゃん。
「リウイの、前世の友達って、変わっている子しかいないの……?」
「ちょっとそれは心外………………だよ?」
あれ? 思い返して見ると、まともと言える子がいるかな?
マイちゃんは百合。ユエは腹黒い。椎名さんは粘着質。
村松さんは何を考えているか分からない。
「……何か変わっている子しかいないね」
「うん。確かに」
其処で同意されると傷つくんだけど。




