第75話 姉上。それはないでしょう
「ちょっと、ふたりとも、痛いから、どっちか放してくれるかなっ」
最初はこれはこれで良いかなと思ったが、途中から二人共意地が出たの思いっきり力を込めて引っ張り出した。
このままでは真っ二つになると思った。
「放しなさいよっ」
「そっちが放しなさいよっ」
マイちゃんもティナも手を離そうとしない。
このままではまずいっ。
そんな所で誰かの手が伸びてきて、僕を引っ張った。
「あれ?」
「お、ととと・・・・・・」
二人は引っ張る物が無くなったので仰向けに倒れた。
と同時に僕の後頭部に柔らかい物が当たる。
「んっ、……大丈夫?」
「ヘル姉さん」
僕を助けれくれたのはヘル姉さんだったか。
僕を引っ張ったついでに僕を抱き抱えてくれた。
後頭部に当たっているのは、姉さんの胸の様だ。
「……ティナ」
「は、はいっ。ヘルミーネ様っ」
ヘル姉さんはティナをジッと見る。
ヘル姉さんからしたら、普通に見ているつもりだろうが。ティナからしたら睨み付けられていると思っているんだろうな。
凄い脂汗を掻いているのが見て分かる。
「……めっ」
ヘル姉さんはそう言って、ティナの額をぺチンと叩く。
「うっ、すいませんでした・・・・・・」
「……うん。よろしい」
ヘル姉さんはティナが謝ったのを見て頷くと、次にマイちゃんを見る。
「…………」
ヘル姉さんは何も言わずジッと見ている。
それだけなのにマイちゃんは顔を青くする。
この人自覚してないけど、凄い目力あるからな。
「……めっ」
ティナとしたようにヘル姉さんはマイちゃんの額をぺチンと叩いた。
「あうっ、すいません」
「……うん」
ヘル姉さんは頷くとマイちゃんの頭を撫でた。
これは珍しい。姉さんが人の頭を撫でる事は滅多にしないのに。
すると、自分が背が高い事に傷つくとか言っていたのに。
「ふわぁ……」
マイちゃんは頭を撫でられて何とも言えない顔をしていた。
くすぐったいような気持ち良いようなという感じの顔だ。
撫で終ると僕を抱き抱えたまま、何処かに向かう。
「何処に行くの?」
「……何処に行こう?」
決めてないんかいっ。まぁ、姉さんらしいな。
「それにしても、姉さんが人の頭を撫でるなんて珍しいね」
「んっ、だって」
「だって?」
「あの子、リウイの前世の友達でしょう?」
「ああ、うん。そうなんだ。…………うんんん?」
何か普通に会話していたから気にしなかったけど、ヘル姉さんがどうして僕が前世の記憶を持っている事を知っているんだ?
「ね、ねえさん?」
「なに?」
「僕がどうして前世の記憶を持っている知っているの?」
「……イザドラ姉さんが教えてくれた」
あの人はっ⁉
何で、こっちの許可を取らないで言うかなっ。そういう大事な事を‼
「だから、ハバキ様の関係者以外でリウイと親しいのはリウイの前世からの友達だって姉さんが教えてくれた」
「おお、流石は姉上。其処まで分かるとは」
無駄に頭が切れるの問題だ。
「ヘル姉さんはどう思った?」
「? どうって?」
「……僕が前世の記憶を持っていて。その前世が魔人族を追いやった勇者の一人だと知って」
「……別に何とも思わないよ」
「そうなのっ⁉」
何かこう、魔人族を追いやったのはお前も一因があるとか言われると思ったのに。だから、前世の記憶を持っている事も言わなかったんだけど。
「わたしが、生まれる前の話だし。そんな事を言っても意味ないから」
おおぅ、意外に現実的な意見を言うな。ヘル姉さん。
「他の姉さん達もその話を聞いたら皆『へぇ~』とか『そうなんだ』とか『そうじゃったのか。ふ~ん』って言っていたよ」
その言葉、誰が言ったのか直ぐに分かるのは姉だからかな。
「それにリウイはリウイ。わたしの可愛い弟。それは、変わらない」
そう言ってヘル姉さんは僕に頬ずりしてくる。
この人も過保護だけど。姉上みたいに押しが強くないから良いんだよな。
姉上もこれぐらいつつましかったらもっと慕っていたな。
悪い人じゃあないんだけど。重いんだよな。色々と。




