第71話 また面倒な事になったな
それから、揉め事らしい揉め事は起こらなかったのが幸いであった。
姉さん達を宥めながら店に戻ってきたのだが。
「ヘル姉さん。ご飯が出来たよ。一緒に食べよう」
ドアをノックして声を掛けても反応がなかった。
マイちゃんに言われた事がかなりショックだったようだ。
知らない人からあんな事を言われたらショックは受けるのは仕方が無いな。
ただでさえ、ヘル姉さんは姉達の中で繊細だからな。顔怖いけど。
ロゼ姉様も。
『あんな無礼者と一緒に食事が出来るか‼』
とカンカンに怒って部屋に引きこもってしまった。
しかし困ったな。
姉さん達の中で比較的、常識があり人の話を聞いてくれて穏健であるヘル姉さんとロゼ姉様がマイちゃんに対して第一印象が最悪になってしまった。
これでは親しくしようとしたら駄目だしされる可能性が出て来た。
残りの三人は過激だからな。
『うちの家族に喧嘩を売るとか言い度胸しているわね~』
『本当だね。少しは骨が有ると良いな』
『まぁ、わたし達を相手にしたら消し炭になるでしょうけどね』
とか話している姿が目に浮かぶのだけど。
幼馴染に会えて嬉しいのに、姉達と険悪になるのは止めて欲しい。
どうにかして改善できないものか。
結局、姉さん達はマイちゃん達と晩御飯を食べてくれなかった。
マイちゃんは凄く残念がっていたが。
あれだけ言って良くそんな事を言えるなと感心したよ。
超久しぶりに会った幼馴染は随分と面の皮が厚くなった様だ。
翌日。
一晩経てば気持ちも落ち着くだろうと思い、姉さん達に話をする為に集まってもらったのだが。
「「…………」」
ロゼ姉様とヘル姉さんの様子は変わらなかった。
ロゼ姉さんはまだ怒っているし、ヘル姉さんは椅子に座りながら体育座りしている。
フェル姉とミリア姉ちゃんは我関さずとばかりに茶を飲み。
イザドラ姉上は僕に見るなりニコニコとしながら両手を広げる。
僕はそれを見えなかったフリをしてイザドラ姉上から離れた所に座る。
「ああ~、その。姉さん達に話したい事があって集まってもらったんだけど……」
「あの無礼者と仲良くしろと言うのであれば無理じゃぞ」
ロゼ姉様は断固として交流しないと言う。
ヘル姉さんは何も言わないが、雰囲気から親しくなりたくないな~という感じがする。
「まぁ、そこら辺は良いとして。それでウ~ちゃん。あの子達はどうして此処に来たの?」
「あっ、あたしも其処が気になっていた」
「そうですね。リウイ。説明しなさい」
姉上達がそう訊ねて来たので、僕の前世の事は話さないでとりあえず『廃都』に行く事に同行する事を教えた。
「何じゃと。あの者達も付いて行くというのか?」
「まぁ、そうなっています」
「……気に入らんのぅ」
「でも、此処は戦力が多い方が安全だし」
「そう言うのであれば、妾達も付いて行っても良いという事じゃな」
「何ですと?」
「良し。どうせ、何もする事が無いからのう。リィンに付いて行くとしようか」
「賛成」
「わたしも」
「勿論、わたしは付いて行きますよ。ええ、誰が何と言おうとも」
えっ、それはちょっとまずいのではないだろうか?
此処は何としても付いて行く事を阻止しなければ。
もしついて来たら、途轍もないくらいに面倒な事が起こる。絶対に。
「……リウイ」
「何でしょうか。ヘル姉さん」
「付いて行ってもいい?」
ヘル姉さんが顔を上げて首を傾げる。
うっ。普段からあまり自己主張しないヘル姉さんがそう言う事を言うと許可してしまいそうであった。しかし、駄目だ。皆連れて行ったら混沌とした状況に収拾が付かなくな。
「ヘルミーネ。何を言うのです。弟が危険な所に行くのですから、姉として付いて行くのは同然でしょう。だから、此処は付いて行っても良いではなく付いて行くというのが正しいのです」
「成程」
「姉上っ⁉」
「別に良いじゃないですか。その『廃都』がどんな所なのか見るのも悪くないと思いますよ」
とツーンとした顔でいう姉上。
くうっ、離れた所に座ったのを根に持っているな。
「でも」
「イザドラの言う通りじゃな。という訳で付いて行くぞ。リィン」
「……はい」
姉の権限で僕の『廃都』行き姉さん達も付いて行く事となった。




