西園寺から見た戦場
西園寺視点です。
王都を出発して、竜騎兵団と共に南に向かう。
俺達は乗馬訓練などはしていたが、まだ乗竜訓練はしていないので、馬に乗っている。
この馬は魔物ではなく、訓練された軍馬だがそれなりに早い馬だそうだが、竜騎兵団が乗っている亜竜に比べたらかなり遅い。
なので、向こうはこちらに進軍スピードを合わせくれている。
向こうにしてみたら、早く戦場に向かいたいのに俺達を連れて進軍と言う事に、不満があるようだ。
俺はそんな向こうの気持ちが分かるから何も言わないが、クラスメートの中というか約一名が竜騎兵団の態度に憤慨している。
無論、言わずもがな天城の事だ。
「まったく、俺達は少し前まで馬にも乗った事がなかったのに、それなのに『予定していた行程の半分も行ってないので、ここからは軍を二手に分けます。貴方方は遅いので、後続の部隊に加わって下さい』って俺達を召喚して、肝心な時には必要ないって言いたいのか‼」
馬の手綱を問題なく取りながら、口で文句を言っている天城。
実際、俺達が遅いのは事実なのだから、そこは認めるべきだろう。
それに後続部隊は補給部隊も居るようだから、しっかり守らなければならない。
しかし、竜騎兵団という名は伊達ではないな。
戦闘部隊にも竜に乗っている上に、この補給部隊にも四足の亜竜で種族名を『ロングネックドラコ』という、見た目はブラキオサウルスに似た竜だ。
全長はブラキオサウルスのように二十五メートルはないが、それでも全長五メートルはある。
性格は大人しいそうで、滅多に暴れる事はないそうだ。
身体が大きくて力持ちなので、荷物の運搬、陣地を作る際の力仕事などで重宝しているそうだ。
その亜竜の首元に鞍が着いており、そこで手綱で操縦しているそうだ。
俺は馬に乗りながら、いつかこの亜竜に乗せて貰えないだろうかと思いながら、馬に揺られる。
と物思いふけていたら、突然、ブオ~ッという音が聞こえて来た。
「何だ。この音は?」
「これは、敵襲を知らせる角笛です!」
近くに居た兵士が教えてくれたので、俺達も戦闘準備する。
「敵が来たぞ! 全員、武器を構えろ!」
俺がそう言うと、皆驚いきながらも、武器を構える。
中には、武器を落とした奴もいたが、全員訓練通りに構える。
「いよいよ来たか、大丈夫だ。皆は俺を援護すればいいだけだ。後は俺に任せろ!」
天城が腰に差している剣を抜いて、皆にそう言う。
その剣の刀身が陽光に当たり光り輝き、太陽よりも強く輝きだす。
天城が持っている剣は、この国が所有している聖剣の一つで銘を『聖輝光の剣』と言うらしい。
更に鎧も盾も渡されている。その鎧も盾もそれぞれ銘があり、鎧は『法の鎧』盾は『正義の盾』と言うらしい。
この三つを合わせて、三神聖具と言うらしい。
正直、こいつにピッタリな武器だと思った。
着ている鎧も盾も剣も、全部白くてピカピカに光るのだから目立ってしょうがない。
鎧が目立ったのか、それとも天城の言葉を聞いていきりたったのか、敵は俺達に向かって来る。
俺は腰に差した剣を抜き構えた。
この剣は聖剣ではないが魔剣と言われる物で銘を『ジード』という剣だ。
「来るぞ! 全員、備えろ!」
俺達の戦争は遭遇戦から始まった。
目を向けた先には、土煙が上がっている。
「「「グゥオオオオオオオッ‼」」」
敵軍が俺達に向かって来る。
敵は鬼人族と言っていたが、見た目は鬼まんまだな。
上半身裸で、腰を何かの獣の皮で出来た物を巻いている姿は、さながら日本の昔話に出て来る鬼そのものだ。
ただ、手に持っているのは金棒ではなく、片手斧や剣を持っている。
「グウウウウッ」
鬼人族が持っている得物を振りかぶり、俺達に襲いかかる。
俺にも敵の攻撃が迫って来たので、剣で防ぐ。
返す刀で攻撃するが、難なく躱された。
それから、その敵と戦闘が始まり周りに気をつかう余裕がなくなった。
ようやく余裕が出来た頃には、戦闘していた敵を切り倒した後だった。
「ふぅ・・・・・・・・」
前の実戦訓練に比べて、命を奪ったと思えるのは、戦った敵が人に似ているからだろうか?
そんなつまらない考えは、直ぐに頭の隅にやり、俺は周囲の状況を確認する。
周りの兵士達も敵とよく戦い、防衛はしている。
クラスメート達も何とか自分の命を守れるくらいに戦っているようだ。
危なくなると、どこからか。
「セイッ!」
「グボ!」
クラスメート襲っていた鬼人族が、天城に切られ倒れる。
「大丈夫かい?」
「あ、ああ、助かった」
「無理はするなよ。危なくなったら引くんだぞ」
「ああ、分かってる」
天城はそう言って、近くに居る敵兵に切り掛かる。まるで特撮ヒーローみたいな事をする。
まぁ、おかげでクラスメート達は助かっているから、よしとするか。
敵軍は少ないので、このまま攻めて壊滅させようとしたら。
ピイイイイイイィィィ‼
甲高い音が聞こえて来た。
何処からすると思い、周りを見ると攻めてきた敵が戦闘の手を止めて、身を翻した。
そして、敵はそのまま背を見せて撤退した。
成程、先程の音は撤退の合図か。
どうやら、撃退できたようだ。
俺は剣を納めて、一息ついた。
後は被害状況を聞いて、それを共に行軍する部隊長に報告して、一休みして行軍すればいい。
逃げた敵を追っても意味が無い。恐らく敵は補給線を断ちに来た別動隊だろう。
そんな奴らをいちいち相手にしていたら、キリが無い。
敵の本隊を叩いたら、自然と撤退するだろう。
それでも居残っているなら、改めて殲滅すればいいだけだ。
俺はそう考えていたが、クラスメートの一人は違ったようだ。
「敵が退いた。追撃するぞ!」
天城が馬を乗って駈け出した。其の後を、何人かのクラスメート達が続いた。
「馬鹿な‼ あんな奴ら、放って置いても大勢に支障はない。戻れ、お前等、戻るんだ!」
だが、俺の声は走り出したクラスメート達には聞こえないようだ。
俺はその背を見て、歯ぎしりする。
(だから、あいつと一緒は嫌だったんだ! こうなる事が分かっていたからっ!)
今更、そんな事を言っても仕方がない。
俺はクラスメート達に声を掛ける。
「お前達は、ここで待機だ。くれぐれも、天城の後を追いかけるような事はするなよ!」
皆頷いてくれたので、これでこの場は良い。次に部隊長の元に行く。
俺は天城が独断で追いかけて言ったので、後を追って引き返すように言って来る旨を伝えたら、部隊長は有り難い事に、一人では心もとないから、護衛部隊を百騎ほど連れて行けというので、お礼を言って、百騎内の一騎に乗り込み、天城が向かった先に行く
思いもよらず、亜竜に乗る事が出来て驚いたが、今はそんな気持ちを隅に追いやり駆けだした。
俺達が駆けだして、数十キロは進んだろう。
そろそろ、天城達が見えてくる頃だと思うのだが、今の所、影も形も見えない。
「あいつら、何処に行った・・・・・・」
「まだ、それほど遠くは言っていない筈です。よく探しましょう」
一緒に亜竜に乗っている騎士が、そう答えて共に来た騎士達に捜索を指示した。
この騎士は、この分隊の隊長でここまで道中でそれなりに話しているので、人となりがある程度分かっている。性格は真面目で礼儀正しい男装の麗人だ。
失礼だが、女性で竜騎兵団の分隊の隊長をしているのは驚いた。
そのまま周囲を捜索していたら、分隊の一人がこちらにやってきた。
「分隊長!」
「どうした?」
「この先の森で火事が起こっています。その中に異世界人達が取り残されています! 更に敵の部隊に包囲されている模様!」
「まずいな、付近に散らばっている分隊を急ぎ集めろ! 異世界人達を救援に向かう!」
「はっ、直ちにっ」
「っち、馬鹿が。追撃しているつもりが、敵の策に掛かったのだな!」
まさか、あの撤退が偽装撤退とは思わなかった。
それに気付かなかった俺の不覚だな。
だが、今はあいつらの救援が先だ。反省は後でも出来る。
(・・・・・・こんな時に、あいつが、猪田が居たらどうなっていただろな)
この場に居ない奴の事を思う。
と愚痴っても意味が無い事は分かっているが、俺はそう思わずにいられなかった。
やがて、分隊が集まり、俺達は火事の現場に向かう。
「ここまで助けに来たのだから、生きて俺に殴られろよ。天城」
次は天城視点です。




