第55話 空の旅も悪くないな
僕達が船に乗ると、程なく船は空へと飛び上がる。
飛行機みたいに助走をつけて飛ぶのではなく、ハリアーみたいに垂直離陸で空へと上がっていく。
徐々に浮かび上がる感覚だ。前世で飛行船に乗った事があるが、それと似ている。
最も乗っているのはその時に乗った飛行船よりも遥かに大きいものだけどね。
「ふむ、悪くないな。空に浮かぶ船にのるというのも」
ユエが上昇する船に乗り窓から外を見ながら呟く。
今、僕達はラウンジに居る。
この場に居るのは僕とユエと他に村松さんが居る。
他の人達は用意されている部屋で居るか、またはこの船がどんな構造なのか見て回っている。
「そうだね。チャンチャン。それにしても、動力が魔石で動く船か。正にファンタジーッて感じだね」
「・・・・・・セナ。いつも言っているがその呼び方は止めろ」
此処は僕達しかいないから、昔みたいな呼び方をする二人。
「良いじゃん。似合っているんだしね~、リウイ君」
村松さんはニコリと笑顔を浮かべながら僕を見る。
同意を求めても困るのだけど。
「僕はそんな呼び方しないから分からないな」
「そうなんだ。じゃあ、昔からどう呼んでいたの?」
「どうって、普通にユエって呼んでいたけど?」
「ええ~、子供の頃からそう呼んでいたの? 普通はわたしみたいにチャンチャンみたいに呼んでいたんじゃあないの?」
そんな呼び方した事ないな。
「色々な呼び方をしたけど、しっくり来たのがユエだったからな」
「色々な呼び方?」
「マイちゃんと色々と呼んでみたんだ。ユッちゃん。ユエユエ。ユー。ユーユー。ユエヤンって呼んでいたんだけど、ユエがしっくりきたからユエって呼ぶ事にしたんだ」
「ぷっ、・・・・・・ユエユエとか、何処の珍獣みたいな名前だし」
笑っては駄目と思ったのか、村松さんは笑いを堪えている。
「おい。ノブ。その呼ぶ方は二度とするなと言っただろう」
「あッ、そう言えば」
そんな事を言われていた事をすっかり忘れていた。
「ぷぷ、べつにいいじゃん。さすがに、わたしも、そんよびかたは、できなし・・・・・・」
笑いを堪えながら言う村松さん。
「ふん。まぁ良い。それよりも、今後の事だが」
「今後と言っても、このまま飛んで公国に向かうんでしょう」
「お前、馬鹿か? こんなに大きな船で公国に向かったら侵略してきたと思われるだろうが」
「た、確かに」
「だから、一度何処かの国で停泊して入国を出来る様に手を回してから、公国に入るのだが妥当だろう」
「ふむ。成程」
しかし、その方法だと時間が掛かるな。もっと時間が掛からない方法はないものか。
「それだと時間が掛かり過ぎるよ。わたしがどうにかしてあげようか?」
此処で村松さんがどうにかしようと手を挙げる。
「お前がか? 何か方法があるのか?」
「モチのロン。じゃなかったら、口を出さないから」
「ふむ。どうする。リウイ?」
「そうだね。まずさせて見て、駄目だったらユエの方法で良いんじゃない」
「そうだな。では、セナ」
「任して、その代わり。今度から、チャンチャンの事をユエユエって呼んでいい?」
「駄目だ」
「ちぇ~」
ちょっと残念そうな顔をする村松さん。
さて、どんな方法で入国させるのかな?




