第53話 言われてみれば
「酷いや。何か今にも、王国が崩壊しそうなくらいにヤバイ状況になっていると思ったのに」
流石に少し怒るぞ。
「良いではないか。それにそろそろ船の準備が出来たようじゃから呼び出したというのもあるのじゃ」
「だったら、そう書けばいいのに」
「それでは詰まらないだろう」
聖女のような微笑みを浮かべるユエ。
くっ、暫く見ない間にSっ気が生まれたようだ。
「それに椎名にはお前が魔国に出掛けた事は話してないぞ」
「そうなの?」
「当然だろう。どうして、わたしが敵に塩を送る様な事をしないといけないんだ?」
「そこから友情に発展するとか?」
「無いな。寧ろ、それを貸しにして相手の弱みを探る事をするだろう。わたしもあいつも」
前世の頃から思うけど、ユエと椎名さんってどうしてこんなに仲が悪いんだ?
転生したのだから、少しは歩み寄りぐらいはしてもいいだろう。
「ふふふ、随分とそのシイナとやらには手厳しいのう。ディアーネよ」
姉様が可笑しそうに笑う。
「・・・・・・ええ、少し事情がありまして」
「まぁ、深くは聞かん。じゃが、敵には三通りしかいない事を肝に銘じておくのじゃぞ」
「三通りと言うと?」
「味方に引き込みむべき敵、味方にしては駄目な敵、倒すしかない敵のこの三つじゃ」
「成程。素晴らしいお言葉です」
「ほっほほほ」
愉快そうに笑う姉様。
偶には良い事を言うんだな。この人。
「リィン。何か言うたか?」
「いえ、何も」
「ところで、その見慣れない小さいロボットはなんなのだ?」
ユエは僕の傍にいるプリアをジッと見る。
得体が知れない物を見ている目で。
そんな目で見られて、プリアは僕の袖をぎゅっと掴んだ。
「この子はプリンツスエンアーヌル。アイゼンブルート族の族長ケニギンアーヌルの娘だよ」
本当は違うのだが、まぁ簡単に説明した方が分かりやすいだろうと思いそう紹介する事にした。
「ほぅ、そうなのか」
「随分と可愛らしいフォルムだな。それにお前には良く懐いているようだ」
「そうだね」
言われてみれば、どうして懐いているのだろう?
この前、あったばかりなんだけどな。
・・・・・・まぁ良いか。言葉を話せるようになったら訊ねれば良いし。
さてと、呼び出された理由は分かったので、この部屋に何時までも居ても仕方がない。
リリアンさん達に帰って来た挨拶をしてくるか。
「大した要件もなさそうだし、僕はリリアンさんに帰って来た事を報告しにいくよ」
「うむ。リリアン殿達は即位式の準備で忙しいから、帰って来た挨拶はしても邪魔はせぬようにな」
「分かったよ」
姉様にそう言われて、僕は部屋を出て行った。




