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第53話 リュミエル城の戦い(裏)

エリザ視点です。

 各部隊長と共に戦闘前の最後の作戦会議をしている最中で、兵士が軍議の場に現れ、敵が現れたと報告を受けた。

 わたくしは部隊長達に、自分が指揮する部隊に戻り作戦通りの行動せよ通達して解散させた。

「いよいよですね。師団長閣下」

「そうね」

 カドモスと話しながら、わたくしは自分の傍に立て掛けていた愛槍『風竜骨槍ウィンドドラゴンボーンランス』を手に取る。

 この槍は名前の通り風竜の骨を削って出来た槍だ。骨だけではなく鱗、牙、爪、角といった部位も使われている。わたくしが十歳の時に狩った風竜で記念に作った槍だ。

 長い間使っているので、手に馴染む。

「わたくしは前線に行くから、カドモスも付いてきなさい(訳 わたくし一人だと見落としがあるかもしれないのでついてきてください)」

「はっ、承知しました」

 わたくし達は前線へと向かう。

 前線に着くと、敵は陣形を組み上げ終えていた。

 V字の形をした陣形で、これは子豚が教えてくれた陣形で、何と言ったかしら?

「確か、・・・・・・・なんとか翼だったわね?(訳 すいません。覚えていないので教えてください)」

「それは鶴翼の陣の事ですか?」

「そう、それよ。よく覚えていたわね。貴方はドジでのろまだけど、記憶力は良いわね。(訳 流石はカドモスさんです。教えてくれてありがとうございます)」

「イノータ殿が教えてくれた陣形の一つですな」

 城に居る間、アドバイザーみたいな事をしていた子豚は、わたくし達に色々な事を教えてくれた。

 戦の陣形もその一つで、確か何とか八陣形とか教えてくれたわね。

 今敵が敷いている陣も、その八陣形の一つだ。

 確か、この陣形は包囲殲滅を得意とする陣形で、この陣形は敵よりも数が多い時には用いられない陣形だと言っていたわね。

 それなのに、敵が敷いていると言う事は。

「敵はこの陣形の弱点を知らないのでしょうね」

「カドモスもそう思う?」

「ええ、それに敵は中軍よりも、両翼の陣に兵を多く配置しています」

 言われて見ると、その通りだ。

 どうやら、敵はこの陣形の弱点を知らないようだ。

 まぁ、仮に知っていても今回の戦は新兵器が活躍するから、陣形の弱点なんて関係ないわ。

 そう思っていたら、敵陣から一騎こちらにやって来た。

 敵陣から歓声が聞こえるので、使者ではない。

 戦う前に、一騎打ちでもするつもりかしら?

 案の定正解だった。

「俺ハセントール氏族一ノ勇士バングァナリ、人間共、誰カ俺ノ相手ヲシロッ!」

 人馬族には幾つかの氏族があるらしい。

 その氏族で一番強い勇士が一騎打ちに来たのは、こちらの数が多いので士気を挫くのが目的のようだ。

「師団長閣下、ここは無視しましょう。一騎打ちをしても大勢に影響はしません」

 そうね。そこはカドモスの言うとおりね。

 でも、わざわざ来たのだから、返礼はしないといけないわ。

(それに、子豚が見ているのだから、わたくしの凄い所を見せるのも悪く無いわ)

 子豚の事は好きか嫌いかで言ったら、即好きだと答えるわ。

 何せ、わたくしが何を言っても気にした様子はないし怒りもしない。一緒に話していたらほんわかしてくる。だから、子豚と話すのは好きだ。

 その子豚に凄い所を見せる好機が来た。

「ふん、わざわざ来たのだから、それ相応のもてなしをしてあげねば、我が家の家名に傷が着くわ。誰か、わたくしの馬を連れて来なさい。(訳 子豚にわたくしが凄い所を見せる絶好の機会よ。誰でもいいので、わたくしの馬を連れてきてください)」

 わたくしがそう言うと、屋敷から付いてきたメイドの一人が、わたくしの馬を連れて来た。

 このメイドは、お父様が造った人造生命体で戦闘に特化したタイプだ。

 名前はメアタンだ。

 髪が海みたいに青いので、わたくしが付けた名前だ。

 本人も喜んでいるでしょう。

 表情が動かないので、分からないけど多分そう思う。

 メアタンが馬をわたくしの横で停めた。

「お嬢様、どうぞ」

 この子、必要最低限な事しか言わないから、同じ人造生命体達の中でも冷たい人と思われているののよね。でも、本当は優しい子だとわたくしは知っている。

 わたくしの愚痴を黙って聞いてくれるし、厨房の残飯を野良猫や野良犬に与えている。

 その際、動物に毛皮に触れて、好きなだけモフモフしているのだ。

 動物が好きな子で悪い子は居ないわ。

 わたくしは鞍に跨り、メアタンから手綱を貰う。

「行ってくるわね」

「いってらっしゃいませ。お嬢様」

 メアタンが頭を下げて、わたくしを見送る。

 そのバングァとやらがいる所に、馬を進ませた。

「わたくしが相手をしてあげるわ。掛かってきなさい(訳 不肖の身ですが、お相手いたします)」

「女、名ヲ名乗レ」

「ふん、貴方のような蛮族に名乗る名はありませんが、特別に名乗ってあげましょう。わたくしはエリゼヴィア・フォン・アスクレイ。魔法師団師団長うよ(訳 あっ、名乗るのを忘れてすみません。わたくしはエリゼヴィア・フォン・アスクレイ。魔法師団師団長です)」

「師団長カ、イザ、勝負」

 そう言って、バングァと言う人? が剣を抜こうとした。

 わたくしはそれを見て、馬の腹を蹴り駆ける。

 この馬は見た目こそ普通の馬だが、実は魔獣だ。

 種族名は『バイアーリハーゲンホース』という魔獣だ。ちなみに名前はブルアビちゃん。

 雌で目が青くて、毛も肌も白いので付けた。

 口から火を吹いたり、羽が無いのに空を駆ける事が出来るのだが、悪食で気性が荒いので乗る人を選ぶ魔獣だ。

 この魔獣に乗れるようになるには、数ヶ月掛かったわ。

 でも、その価値はあった。

 ブルアビちゃんの駆ける速さに、相手は剣を抜く暇も与えない。

 わたくしは槍を突き出した。

 狙い違わず、槍はそのまま胸元に当たり貫いた。

 人間の心臓に当たる所を貫いたので、致命傷の筈だ。

「グハッ、見事・・・・・・・・・」

 バングァは倒れた。

 わたくしは血で濡れた槍を掲げた。

「セントール氏族一の勇士バングァ、このエリゼヴィア・フォン・アスクレイが打ち取った‼」

「「「おおおおおおおおおおおおおおおっ‼」」」

 我が軍の歓声を聞いて、敵軍が怯みだした。

 わたくしはその隙に陣に戻る。

「お見事です。師団長閣下」

「ふん、わたくしにかかればこれくらい簡単よ(訳 これでも師団長ですから、これぐらいはできます)」

 馬を降りて、手綱をメアタンに渡す。

 わたしは敵陣を見る。

 ようやく、敵軍の怯みがなくなり進軍を始めた。

 味方は魔弾銃を構えるが、まだ発砲しない。

 こちらが何もしていない事に、敵は不審に思っていないようだ。こちらの陣に突撃してくる。

(人馬族は頭が筋肉で出来ているとか、前に人馬族と戦った事があるカシュー軍団長に聞いた事があったけど、本当にそうね)

 敵が迫っている中、わたくしはそう思った。

 そして、敵の攻撃があと少しで出来る所まで近づくと、わたくしは手を挙げる。

 これは合図だ。それに応えて。

「「「「はなてっ‼」」」」

 各部隊長がそう言うと、第一陣が魔弾銃の引き金を引いた。

 魔弾銃の銃口から閃光を生み出しながら、銃弾に込められていた魔法を放つ。

 その第一射で、敵がかなり倒れた。

 倒れた敵の引っ掛かり倒れる者も居る。

 第一陣が新しい銃弾を込める為に膝を曲げる。

 その間も敵は突撃してくるが、第一陣は構わず弾込め作業をする。

 第一陣が迫る敵に気にせず、弾込め作業を出来るのは、自分達の後ろに第二陣が控えているからだ。

 第二陣が魔弾銃を構える。

「「「「第二陣、はなて‼」」」」

 第二陣が発砲した。

 敵はその射撃を喰らい、また多くの者が倒れた。

 第二陣が弾込め作業の為、膝を曲げた。

 そして、その後ろに控えていた第三陣が魔弾銃を構えた。

「「「「第三陣、はなて‼」」」」

 その第三陣の射撃で、敵は多くの者が倒れた。

 だが、敵は突撃を止めない。

 正直、こんな指揮をとる者の頭の中は筋肉で出来ていると思った。

 そこで、今度突撃してきたのは、弓を持った一団だった。

「人馬族って便利よね。駆けながら矢を放つ事が出来るのだから」

「ですな。しかし、今回はその器用さは役に立ちませんな」

 その言葉の意味は直ぐに分かった。

 敵がこちらへと駆けながら矢を放つ。

 その矢は曲線を描きながら、こちらの陣に降り注ぐ。

 だが、その矢はこちらの陣に届く前に、横風が吹いて矢がどこかに飛んでいく。

 これは風魔法で『暴風壁(ウィンド・ウォ―ル)』と言う魔法で、向こうの遠距離攻撃を全て防ぐ。

「ふむ、見事ですな。イノータ殿から、このような魔法で矢を避けてみたらどうだと言ったので、やってみましたが、本当に効果がありましたな」

「そうね。まぁ、子豚だったらこれくらい出来て当然ね(訳 凄いわね。仔豚)」

 矢を放った一団は、風で防がれているのに矢を放ち続ける。

 その一団に、弾込めを終えた第一陣が魔弾銃を放つ。

 魔弾銃の銃撃を受けても、敵は突撃を止めない。

 敵は決死の覚悟で突撃してきた。その無謀な突撃で多くの者が倒れた事で、敵はこちらの陣をあと少しで、その持っている武器が届くという所まで近づけた。

 だが、その場所に足を踏み込んだ瞬間、地面が突然沈みだした。

 敵軍は驚愕の表情を浮かべながら、その穴に落ちていく。

 これは先遣隊に前もって魔法で、地面を掘削させていたのだ。

 ばれないように、幻影魔法で隠した。

 敵がこちらの射撃に耐えて、陣に迫るからこんな魔法で敵を陣に侵入させないようにしたらどうですかと言うのでしてみたら、本当に役にたった。

 こちらの魔弾銃三段撃ちに、敵は何の対抗手段を持てず、無謀な突撃をする。

 わたくしはその突撃をみながら、愚かな事をすると思った。

 もう勝敗は決したのだ、敵が出来る事は撤退か降伏するしかない。

 それなのに、突撃してくるとは、敵の指揮官は余程馬鹿なのでしょうね、

 やがて、敵の突撃が終った。

 これは敵が突撃を止めて撤退しだしたのではなく、敵軍が全滅したから突撃が終ったのだ。

「師団長閣下、ご命令を」

「ええ」

 わたくしは、手を振り下ろした。

「これより、掃討戦に移行する、各隊は進軍を開始しなさい。降伏した敵は捕らえなさい。抵抗が激しい場合は、殺しても構わないわ‼」

「「「「全軍、進め‼」」」」

 まずは落とし穴に落ちた敵の生存を確認し、居ない事が分かると、穴を魔法で埋めて人馬族の死体の山に進軍する。

 生きている者が居ないのか確認する為、槍で突いて生存を確認する。

 命令を終えたわたくしは本陣に戻った。

(そう言えば、異世界人達は戦争を見るのは初めてとか言っていたけど、大丈夫かしら?)

 実際の戦争を見て、気持ち悪くなったりトイレに行くならまだ可愛いものだが、人によっては人格が変わる者も居る。

 なので、少し心配になった。

(子豚は・・・・・・多分、大丈夫だと思うわ)

 戦争を見ただけでまいる性格なら、とうの昔にわたくしから離れている筈だ。

(城に戻ったら、そこの所をよく聞いて心のケアをしてあげないとね)

 本陣に戻り、傍に槍を立て掛けて、各部隊長の報告を待つ。

 












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