第41話 まだ直ってないのか
翌朝。
何かに噛まれる感触を感じて、僕は意識を覚醒させた。
何事だと思いながら目を開けたが、何も無かった。
だが、身体には何か巻き付いている感触があった。
「・・・・・・ああ、これか」
何が巻き付いているのか手に取り見ると、それは人の手だった。
手動かした事で意識がはっきりしてくると、背中に何か柔らかい物が当たっている事が気付いた。
後ろに何かいると思ったが振り返る事が出来なかった。
何故なら、イザドラ姉上が僕の首元に噛みついているからだ。
「またか。いい加減に直してほしいな。この寝ながら噛みつく癖」
溜め息を吐いた。
昨日、僕の意思を聞いた姉上が抱き締めたまま離れようとしなかったので、そのまま眠りについたのだ。
いや、離れてと言ったのだが、姉上は聞く耳もたないとばかりに抱き締めてきた。
仕方が無く一緒に眠る事になった。
実は姉上は寝ている時に傍にある物に噛みつくという癖があった。
昔、一緒に寝た時は顔や首筋が噛み跡だらけになったものだ。
綺麗に歯形が残っているので、誰が噛んだのが丸わかりだ。
だが、噛んでいる本人は分からないのか、噛み跡だらけの僕の顔を見るなり兵を動員して僕の顔を噛んだ犯人を捜そうとしていたが、僕が姉上が犯人だと言うとショックを受けてその後必死に謝ってきた。
まぁ、許しはしたけどそんな事があったので、添い寝しようと言ってきたら拒否させてもらった。
今回みたいに言っても聞かない場合を除いて。
「ぐ、ぐぐぐ」
とりあえず、頭を退けようと力を込めたが、無意識なのかそれとも習慣なのか力を込めれば込めるほど肌に歯が立ててきた。
「いたた、これは駄目だな・・・・・・」
これは無理だと思い力を込めるのを止めてそのままにして、姉上が目覚めるのを待つ事にした。
そうして待っていると、何時の間にか眠ってしまい二度寝してしまった。
僕を起こしに来たリリムの悲鳴で起きた。
数時間後。
「・・・・・・何か悪い事をした気分だ」
姉上に噛まれた首筋を撫でながら呟くと、傍に居る村松さんは笑いながら言う。
「いやいや、仕方がないよ。なにせ、扉を開けるなり自分の主人に噛みついている人が居たら、誰でも悲鳴を上げるって、でも、ぷぷぷ」
村松さんは笑いを堪えている顔をしだした。
まぁ、笑るのも無理はない。
何せ今、僕の右頬にはしっかりと噛んだ後が付いていた。
姉上に噛まれている僕を見たリリムは、無理矢理僕と姉上を剥がそうとしたら、寝ぼけていたのだろう。姉上が僕の頬に噛みついたのだ。
余程力を入れて噛んだのだろう。未だに噛んだ後が残っていた。
目を覚ました姉上は僕の顔を見るなり謝ってきた。
まぁ、姉上の事なので怒る事なく許す事にした。
「ぷぷ、似合っているよ。その噛み跡」
「無理にそんな事を言わなくても良いから」
慰めているのかそれとも笑うのを誤魔化す為に適当な事を言っているのか分からないが、今はそんな事はどうでもいい。
それよりも、今は樹海に向かってアイゼンブルート族の族長から軍勢を借りる様に言わないとな。
「おほん。じゃあ、とりあえずこれに乗るか」
僕の目の前には戦車にしか見えないがアイゼンブルート族のパンツァーゼーリエが並んでいた。
その数三十機。
「ああ、僕がリウイだけど分かるかな?」
意思の疎通が出来るのかどうかの確認の為に声を掛けて見た。
「ヤヴォール。マインヘル」
機械音声で返事が来た。
「この部隊の隊長はどれ?」
僕が尋ねると、並んでいるパンツアーゼーリエの一機が変形した。
ゴーグル状の目で僕を見て来る。
「名前は?」
「アイゼンブルート族第四〇七戦車部隊隊長パンツァーゼーリエ・アーエルフデス」
「アーエルフね。分かった。もう少ししたら君達の部族の領地に行くので、其処まで護衛してもらいたい」
「ヤヴォール」
問題なしか。じゃあ、早速」
「リウイ君。乗っても良い」
「ああ、良いよ」
「じゃあ、早速」
そう言って村松さんはパンツァーゼーリエの一機に乗った。
「へぇ、戦車に乗るとこんな風景になるんだ」
楽しそうに周りを見る村松さん。
後で僕も乗ってみようと思った。




