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第53話 リュミエル城の戦い

 こちらの陣が整いだした頃に、敵が平原へと姿を見せだした。

 まばらに固まりで進んでいた敵が、僕達を見つけると陣形を組みだした。

 僕達は後方にある丘の上から見ている。

(いよいよ、戦争が始まるんだ)

 僕は敵が陣形を組むのを見ながら、生唾を飲み込む。

 ドラマや映画やアニメとかでも戦争を描いた物はあったが、この目で本当の戦争を見る事が出来るとは、クラスメートの皆は誰も想像できなかっただろう。

 向こうは陣形を組み上げているが、こちらは陣を動かす気配は見られない。

 こちらは横陣という部隊を横一列に並べた陣形だ。

 対する敵は、V字の形をした陣形をしているので、これは鶴翼の陣だと分かった。

「横陣に対して鶴翼の陣か、敵はどう攻めるつもりかな」

 僕が敵だったらと、小声でブツブツ言っていたら、後頭部を叩かれた。

 パコンッという大きな音の割にあまり痛くなかった。

 誰が叩いたのかなと思って、振り向くとマイちゃんが居た。

「いきなり叩かないでよ。マイちゃん」

「ノッ君が不気味だったから、止めただけだよ」

 う~ん、そんな事をした覚えはないのだけど。

「小さい声でブツブツ呟いていたら、不気味でしょう」

「うっ、確かに」

「もう、それくらい言われなくても分かってよ」

「ごめんなさい」

 僕達が話していたら、敵の陣が騒ぎ出した。

 そして陣の中から、誰かが出て来た。

 勿論、人馬族だ。でも、僕達の陣の前まで来ると、何か叫んでいる。

 ここからでは何を言っているか分からない。

 多分、降伏勧告でもしてきたのだろう。

 どう対処するのかなと思っていたら、こちらの方からも一騎出て来た。

 あの赤い髪はエリザさんだ。

 こんなに遠くに居ても分かるくらいの鮮やかな赤だ。

 何をするのかなと思っていたら、エリザさんが槍を構えながら駆けだした。

 その進路には、先程陣に来た人馬族の人が居る。

 人馬族の人は腰に差している剣を抜こうとしたが、抜く前にエリザさんの槍で胸を貫かれた。

 此処で見ている僕でも分かるくらいの致命傷だ。

 人馬族の人は地面に倒れた。エリザさんは血で濡れた槍を掲げる。

 すると、こちらの陣から歓声があがりだした。

 敵はその歓声を聞いて、一瞬怯んだように見えた。

 その間にエリザさんは陣へと戻る。

 一瞬怯んだ敵も、ようやく陣形を整えて進軍しだした。

 味方はその敵に魔弾銃を構えた。

 敵が味方の陣に段々と近づいて来るが、味方はまだ発砲しない。

 今だに攻撃しない事に不審な顔をしないで、突撃する敵。

 敵があと少しで、攻撃出来る所まで近づいてきて、そこで初めて魔弾銃が発砲された。

 発砲する際に生まれるマズルフラッシュが、よく見える。

 第一射で突撃してくる敵の第一陣がかなり倒れた。その後ろに居る敵も倒れた自分の味方に引っかかり倒れだした。

 中には引っかかる前に、停まる事も出来た者はいた。

 第一射を放った先陣はその場で膝を曲げる。すると、その後ろに控えていた第二陣が魔弾銃を構え間髪入れずに発砲した。

 第二射を撃たれ、倒れている者、辛うじて倒れていない者、皆、魔弾銃の餌食になった。

 それでも敵の突撃は止まらなかった。

 第二陣が膝を曲げると、その後ろにも魔弾銃を持った第三陣があった。

 突撃してくる敵はその魔弾銃の銃撃を受けて、かなりの人が倒れる。

 突撃してくる敵の中に、弓を構える一団が見えた。

 弓弦から矢を放たれるが、その矢は曲線を描いて魔法師団に当たりそうだったが、横風が吹いて放たれた矢が風に当たり、見当違いな所に飛んでいく。

 矢を放った一団には、弾込めを終えた第一陣が、魔弾銃を構え放たれた。

 その一斉掃射により、敵がまた大量に倒れる。

 だが、敵の人馬族はそんな事などお構いなしに突撃してくる。

 自分の味方の屍を踏み越え、前へ前へと進む無謀な突撃で多大な被害を出すが、こちらの陣に切迫するほど近づけた。

 後、少しで槍を交えるという所まで来た瞬間。

 いきなり、地面が沈みだした。

 地面が無くなったので、敵はそのまま穴へと落ちていく。

 何で、陣の前に穴が出来たのかというと、攻撃をする前に、先遣隊に魔法で密かに穴を作らせていたのだ。ばれないように幻影魔法で隠したのだ。

 敵がこちらの射撃を耐えて陣近くまで迫って来たら、この落とし穴に嵌る寸法だ。

 矢を放っても、風魔法で矢避けしてもらい、矢は届かないようにしてもらった。

 仮に迂回しても同じだ。そちらにも落とし穴を作り、魔弾銃三段撃ち出来るようにしている。

 だが、敵は正面から突撃しかしないので、迂回する事はないようだ。

「それにしても、敵はどうして正面からの突撃を繰り返すのだろう? もう、破れない事を分かっているだろうに」

「敵がそんな事も分からない脳筋かもしれないよ」

「そんな人は指揮官になる資格は無しだね」

 将とは、勝ち戦だろうと負け戦だろうと兵士の損害を、出来るだけ減らすように頑張るべき職務だと、僕は思っている。

 負けるのが嫌で部下に無理な攻撃を命じたりする人は、将になるべきではない。

 味方を余計に殺すからだ。

 僕がもしこの先、部隊を率いる指揮官になっても、部下に無理な命令をしないようにしようとこの戦場を見て思った。

 そう考えている間に、戦は終わった。

 敵が撤退したのではなく、最後の一兵になっても突撃してきて全滅したからだ。

 軍は進軍を始める。掃討戦を行なうようだ。

 兵士達が槍を構えて進み、倒れている敵を槍を刺して生きているか確認している。

 僕はこれから起こる事に、目も耳も背けず見るつもりだ。

 だって、この惨劇は僕がもたらしたものなのだから。

 クラスメート達はこの一方的な虐殺を見て、顔色を悪くしたり口を抑えて何処かに行く人が続出した。

 僕は自分がした事の恐ろしさに身体を震えるが、僕の身体に抱き付く人達が居た。

 マイちゃん達だった。

 僕はその温かみに包まれて、身体の震えが止まる。











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