第36話 ああ、それで武装していたのか
「・・・・・・コホン。とりあえず、何処に行こうか?」
気を取り直して、まずは何処に行くのか訊ねる姉上。
この流れに乗って最初に行くべきところに行くとしよう。
「そうだな。まずは父上に挨拶に行こう」
魔国を出る前に少し話をして、その後何も言わないで国を出たので今、何をしているのか知らないんだよな。
帰って来たついでに訪ねてみるか。
「別に行かなくても良いでしょう」
久しぶりに里帰りしたのに、父親に会わなくてもいいとか冷たくないか?
「父上に会わなくても何も問題ないでしょう。むしろ、時間の無駄ですよ。今頃、日向ぼっこをしながら昼から酒を飲める立場になった事を喜んでいますよ」
う~ん。隠居生活を楽しんでいる所にお邪魔するのも悪いかな。
「いや、済まぬが。案内してもらおうか」
「お祖父さん?」
「娘の夫には会った事がないからな、どんな者か顔を見ておきたい」
まぁ、お祖父さんはそれが目的で付いてきたんだからな
武装しているのは謎だけど。
「お祖父さんもこう言っているんだから行こうよ」
「・・・・・・まぁ、良いでしょう。父上は離宮に居ます。案内しますね」
離宮って、何処の離宮?
ここの宮殿って百八個あるからな。
僕も全部の離宮の名前を把握していない。
「何処の離宮に居るの?」
「父上が住居にしているのは確か『ローバラーガ離宮』ですね」
そう言って姉上が先頭に立って案内してくれた。
転移して来た部屋を出て地上へと上がる。
地上に上がると、其処から結構な距離を歩いた。
改めて思ったけど、此処の王宮って広すぎない?
まぁ、離宮が百八もあれば広いよな。
維持費も馬鹿にならないから幾つかの離宮を潰したらと今度、兄上に進言してみるか。
そう思って歩かないと疲れて大変だ。
歩く途中で時計が無かったので分からなかったが、それなりの時間を歩くとようやく『ローバラーガ離宮』の前まで来れた。
「よ、ようやく、ついた・・・・・・」
僕は息が切れているのに、何故か皆、息一つ乱れていなかった。
「あれ?」
「リウイ君。運動不足じゃないの? これぐらいの距離で息切れするなんて」
「愚息よ。しばらく見ない間に軟弱になったようだな。今度、徹底的に扱いてやる」
「あの、毎朝の少しの散歩でも体力は付きますよ」
村松さんは揶揄ってくるし、母さんは情けないと言わんばかりに首を振る。
挙句の果てにラミティーナさんにも励まされた。
むう、別にそんなに体力がない訳ではないのだけどな。
「リウイ。貴方はまだ成長期ですから、これから徐々に体力が付きますから大丈夫ですよ」
姉上はあやすように頭を撫でてくる。
「・・・・・イザドラ殿。此処に婿殿がおられるのか?」
「ええ、その通りです」
「そうか」
お祖父さんは父さんが此処に居る事を確認すると先に離宮の中へと入って行った。
僕もその後を追い掛けようとしたら、何故か母さんが僕の頭を掴んだ。
「待て。今行ったら巻き込まれるぞ」
「は? 巻き込まれる?
何に?と聞こうとしたら。
窓ガラスが甲高い音を立てて割れた。
『おんどりゃああ、儂の娘に手を出して子をこさえさせて、親に一報を入れぬとか、何様のつもりじゃあああっ』
『あ、ああ、義父上殿。それについては、ハバキがしなくていいと言うのでしなかっただけ』
『だれが゛義父上殿〟じゃああっ、儂はお前をまだ婿だと認めておらんわっ‼』
『えっ⁈ でも、今、儂の事を婿殿と』
『おまんを言い表す言葉がそれだから言っていただけじゃあっ。儂はお主を婿だと認めてはおらんわっ』
『そんな無茶苦茶なっ』
『じゃかましいっ。今すぐに儂の攻撃を受けて死ねっ。そうしたら、特別に婿と認めてやるわ‼』
『出来るわないわ‼』
・・・・・・おう、離宮の中から派手な戦闘音が聞こえて来た。
成程。それで武装していたのか納得した。
「・・・・・・母さん」
「何だ?」
「あれ、どうしよう?」
「ほっとけ。その内、静かになる」
「そうだね。ほっておくか」
誰もお祖父さんと父さんの喧嘩を仲裁するという者は居なかった。
「じゃあ、父さんのことはお祖父さんに任せて、僕は元居た領地に戻って良いかな?」
「好きにしろ。わたしも好きにする」
そう言って母さんはお祖父さんと共に来た護衛を連れて何処かに行った。
じゃあ、僕も好きにする事にしよう。
そう思い僕の領地であった『オウエ』へと向かう事にした。




