第17話 有り得ないと言い切れない
「・・・・・・という訳なのさ」
「・・・・・・・・・・・・」
僕の説明を聞き終えると、姉上は目を瞑り深く息を吐いた。
どんな事でも想定していても、流石に僕が前世の記憶持ちで、その前世が魔人族を大陸から追い出した渡来人の一人と聞いたら平静でいられないだろうな。
姉上が前世は前世の事と片付ける事が出来る人であれば簡単に済むのだけどね。
「・・・・・・ほかに何かありますか?」
「他は」
顎に手を添えて考える。後言うべき事と言えば。
「ええっと、『アヴァロン・オルドル』の団長は前世の幼馴染だったぐらいかな」
他は特に伝えるべき事は無い。
「そうですか・・・・・・」
姉上は目を瞑り黙り込んだ。
話を聞いて何と言うのだろうか。
どんな事を言うのか気になり、ソワソワしながら姉上が何と言うか待った。
ユエ達もどんな事を言うのか気になり、どんな事を言われても耐える様に身構えていた。
「・・・・・・まぁ、その程度の事であれば別に良いでしょう」
本当にどうでも良さそうに言う姉上。
それを聞いて、僕達はズッコケた。
溜めに溜めて言う事がそれかい‼
「あ、あねうえ~。聞いておいて、それはないでしょう」
「と言われましても、リウイの前世は公国の礎を築いた渡来人で、その渡来人が大陸から魔人族を追い出すのに手を貸したという事になるのでしょう」
「まぁ、簡単に言うとそうなるかな?」
ユエ達にどうかなと目で訊ねると、二人は肯定の意味を含めて頭を縦に振る。
「それで? 貴方はわたしの事をどう思ってるのです?」
「それは・・・・・・一応、姉とは思っています」
こんな頭に幾つも超が付く面倒な性格の人ではあるが、僕の異母姉である事には変わりない。
「貴方がそう思っているのならそれで良いではないですか。前世がどんな人だろうと、今は今です。今の貴方はわたしの可愛い可愛い最愛の弟のリウイなんですよ。その事については、何の変わりもありはしないでしょう」
「まぁ、そうだね」
姉上の言い分も分かるが、こちらとしては清水の舞台から飛び降りた気分なのに簡単に片づけられるのはちょっと癪に触るな。
「それに、わたしはその話を聞いて確信を得ました」
「「「確信?」」」
僕の前世の話を聞いて、何の確信を得たと言えるんだ?
「そう、わたしとリウイは前世では夫婦であったという確信が」
「「「はあああああ?」」」
何処からそんな確信が出て来るんだ?
「弟達が沢山いる中で、わたしは何故かリウイにだけ目を掛けて可愛がるようになりました。それは何故か? 答えは簡単です。わたしの前世はリウイの妻だったのです。だから、リウイの事が可愛がり愛する様になったでしょう。間違いないですね」
そんな馬鹿なと言おうとして、ふと思った。
でも、この有無を言わさず人を動かす行動力。巧みな内政手腕。本人は武芸は自衛できる程度としか言っていなかったが、王国でも指折りの実力者と聞いている。頭の回転の速さ。腹黒さ。
どれをとってもセリーヌ王女とそっくりだ。まさか、セリーヌ王女が転生したとか?
悲しい事に否定できない。
「ほほほ、前世では夫婦。今世では姉弟という誰よりも深い深い絆を持っているわたし達の中に誰も入る事は出来ませんね。リウイ!」
心底楽しそうに笑う姉上。
そんな姉上を見て、前世の記憶持ちだった事を隠していた自分が馬鹿馬鹿しくなった。
「くっ。まさかここで強力な恋敵が出て来るとは」
「此処に来てまさかとんでもない対抗馬が居るなんてっ」
ユエ達は強敵を前にしたような顔をしていた。
う~ん。でも有り得るのかな? 姉上の前世がセリーヌ王女とか。




