第16話 もう隠す事が出来ないな
「貴方。わたしに何か隠しているでしょう?」
姉上にそう言われて、顔には出さなかったが内心ドキッとした。
僕が前世の記憶を持っているという事をこの場で知っているのはユエ達だけだ。
なのに、まるで僕が前世の記憶を持っている事を感ずいている様な気分だ。
「・・・・・・えっと、言葉の意味が分からないのだけど」
此処はすっとぼけた方が良いなと思い、何を言っているのか分からないフリをする。
「正しくその通りです。イザドラ様」
「そうです。わたし達は別に隠す事などありません」
ユエ達も援護してくれた。
でもな、姉上の事だから何かしら疑わしいと思って話をしている筈だ。
そこら辺を上手く誤魔化さないとな。
「そう。貴方達は別に隠している事は無いと?」
姉上が確認の為に訊ねると、僕達は頷いた。
「ふむ。では、ディアーネ殿」
「はい」
「貴方はリウイと知り合って興味が湧いて力を貸しているそうですね?」
「ええ、その通りです」
「今回の件もかなり援助したそうですね。利益はあるのですか?」
「それは勿論。今回の戦でリウイの母方の実家に借りを作る事が出来ました。更にはハノヴァンザ王国にある我が支店の安全を確保する事が出来ました。これだけで十分に利益が出ます」
立て板に水を流すが如く自分の利益について話すユエ。
これなら誤魔化せるか?
「わたしなりに調べた所、貴方は魔国の支店に抜き打ちで視察に行った時にリウイと知り合い援助する様になった。間違いありませんね?」
「間違いありません」
ユエが断言すると、姉上は息を吸う。
「つまり、それほど親しくしていないという事でいいですか?」
「まぁ、それほど日は経っていませんね」
ユエは何でこんな事を聞くのだろうと思いつつ答えた。
ユエの答えを聞いて、姉上が僅かに口角を上げるのが見えた。嫌な予感がする。
「では、どうして貴女とリウイは二人にしか通じないサインを送るのですか?」
「「っ⁉」」
僕達は息を飲んだ。
誰にも見られない様に角度を変え尚且つ見られても不自然に思われない動きをしていたのに、まさか姉上にバレるなんてっ。
「何の事かな? 姉上」
「惚けても無駄ですよ。リウイ。この前貴方達が渡来人を公都と廃都に行くと言う話になった時に、話が終る所で、貴方とディアーネは妙なサインをしていたのはこの目でしかと見ましたよ」
鋭い観察力だ。流石は姉上と言うべきか。
「それに其処に居るシイナという女性も不思議なんですよね」
「どういう意味でしょうか?」
「貴女は古竜の娘という話ですが、嘘でしょう」
「何でそう思うのですか?」
「わたしは竜人族の母を持つ為、鼻が敏感でしてね。特に同族の匂いを嗅ぎ分ける事など造作もありません。この鼻はリウイを探す特に役立ちますから嗅ぎ間違える事はありません」
それで、昔隠れんぼして、どうして直ぐに見つかったのかと長年の疑問に思っていた。それは分かったが、今はそれどころではない。
「わたしの鼻が貴方の龍の紛い物と断じているのですよ」
「「「龍の紛い物?」」」
初めて聞く言葉に僕達は首を傾げる。
「古より『龍を殺し龍の血を浴びれば不死となり、十度浴びれば身体の一部が龍となり、百度浴びれば竜人となり、千度浴びれば竜となり、万度浴びれば龍となる』という言い伝えがあります。そうして龍になった者は『龍の紛い物』と言われます。我が故郷魔国では龍が多数暮らしているので、偶に己の実力を確かめる為に龍に戦いを挑む馬鹿がまるで火に群がる蠅の様に湧き出ます。稀に龍殺しを成した者が居ますが、貴方の匂いはその者と同じ匂いですよ」
ヤバイ。姉上は何かしらの確証があって言っているようだ。
「あまり親しくないのに、リウイと自分だけに通じるサインを持っているディアーネ。龍殺しを成してリウイの傍に居るシイナ。これを怪しまなないで何を怪しむのです?」
言葉を失う僕達。
下手に反論したら、揚げ足取られそうだからな。
「改めて聞きましょう。貴方達とリウイはどのような関係なのですか?」
こう聞かれては下手な事を言えなくなった。
僕達は目を合わして、どうすると目で話し合った。
「・・・・・・もう隠す事も出来ないな」
「リウイ君」
「良いのか?」
「むしろ、これ以上隠す事が出来ないよ」
「そうだな」
「仕方がないね」
ユエも椎名さんも話す事を許可したので、僕は姉上に顔を向ける。
「姉上。実は」
僕の事情とユエと椎名さんの事情などを包み隠さず話した。




