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第50話 そろそろ、戦場に着くかな

 王都を魔法師団と共に出発した僕達は東に向かう。

 このまま進軍ペースだと、後二日ほどでリュミエル城に着くそうだ。

 僕は幌馬車に揺られながら、その説明をカドモスさんから聞いている。

「敵も我らとそれほど変わらない進軍速度だと思いますので、このリュミエル城近辺で戦争が始まると思われます」

「敵の編成は分かりますか?」

「まだ、情報が入って来ないので、どのような編成かは分かりません」

「そうですか」

 まぁ、今回はちょっとした物を大量に準備したので、勝つ確率はかなりあると思う。

 戦争に絶対はない。だから、少しでも勝つ確率をあげる為には情報が欲しい。

「敵の情報を得ると同時に、城近くの土地を調べてくれませんか」

「土地をですか?」

「土地の勾配とか、何処に森があるか、その森がどれだけ深いのか、川があるのか、それらを調べてくれると助かります」

「地勢を使って戦争をすると言う事ですね。分かりました。手配しておきます」

「お願いします」

 僕はを伝える事を全て言ったら、幌にもたれる。

「お疲れ様、猪田君。お水だよ」

 椎名さんが水が入った皮袋を差し出してきた。

 それ、さっき椎名さんが飲んでいたのでは?

「ノブ、こっちは柑橘類の汁で味付けた水だ。ただの水よりも、こっちの方が喉の渇きが潤うぞ」

 ユエも皮袋を差し出す。

 腰にもう一つあるのを見ると、自分用と予備と二つあるようだ。

「張さん、わたしが先に渡したのだから、わたしのを飲むべきよ?」

「そっちは只の水だろう? わたしのは味が付いているのだ。美味しい方を飲ませた方が良いだろう」

 二人は、僕を挟んで睨み合う。

 王都を出てから、こうして睨み合うのは何度目かな?

 僕が宥めると直ぐに止めるのだが、少ししたらまた始めるで、正直疲れる。

 これでマイちゃんが居たら、もっと酷くなっていただろう。

 馬車に乗る際、何人かに分かれて乗って下さいと言われたので、皆とじゃんけんをして別れた。

 で、僕はユエと椎名さんと一緒に乗る事なった。

 マイちゃんは村松さんと一緒に別の馬車に乗っている。

「貴方達、いい加減にしなさい。さっきからくだらない事で喧嘩して、この馬車は戦場に向かっているのだから、もう少し緊張感を持ちなさい」

 そう一喝したのはカドモスさんと一緒に乗っているエリザさんだ。

 最初、カドモスさんと一緒にこの馬車に乗った時は驚いたな。

「子豚もそう思うでしょう?」

 そこで、僕に振りますか?

 二人の痛い視線が僕の体に突き刺さる!

「猪田君、そう思っているの?」

「そんな事はないよな。ノブ?」

 いや、喧嘩をしなければ、少しくらい騒がしくしても良いのではと思うけど、僕は。

「友達だから言い辛いのは分かるけど、こういう事はハッキリと言った方が良いわよ」

 すいません。その変な後押しするのは止めてください‼

 ここで「そうだね」と言ったら、とんでもない事が起こりそうだし、「そうは思わない」と言っても何か起こる気がするのですが⁉

 どう言っても、何か起こりそうなので、僕は話を変える事にした。

「そ、それにしても、僕の意見が通るとは思いせんでした。てっきり、意見の一つとして受け入れられると思って発言したので、驚きました」

「はっははは、イノータ殿の意見が素晴らしい意見だったので、陛下も各軍団長方もその意見を採用したのですよ」

 おっ、カドモスさんが僕の話に乗ってくれた。この人、良い人だ。

 僕はこの話の流れに乗る。

「いや、そんなに良い意見ではありませんよ。敵の数を見たらそう思えたから、思った事を言っただけですよ」

 僕は会議室での事を思い返した。

『僕の考えとしては、戦うのは獣人族軍と鬼人族軍だけにして、他の軍には牽制として軍を向かわせる程度で良いと思います』

『戦うのは、獣人族と鬼人族だけだとっ⁉』

『他の軍と戦わなくても良いとは、どうゆう事だ!』

『まさか、領土を明け渡せと言うのではないだろうな?』

『近衛兵団のみ三万だが、我が国の各軍団は五万だ。総勢三十三万だぞ。何故、戦いを避ける⁉』

『戦争に臆したか? これだから戦を知らぬ素人は・・・・・・』

『静かに』

 王様がまたざわめきを制した。

『話しは最後まで聞いてから言えばよい。そこの異世界人よ。名は何と言う?』

『いのた、じゃなかった。イノータと申します。陛下』

『イノータか。では、そちの意見を聞こうか』

『はい。では、さっそく』

 僕は席を立ち、地図が有る所までいく。

 何かを叩く物はないかなと思っていたら、宰相が先程まで持っていた物を僕に差し出す。

『どうぞ、好きに使ってください』

『ありがとうございます』

 僕は跪いて、それを恭しく受け取る。

 宰相って事は偉い人だろうから、ここは礼儀を持って接するべきだと思った。

 僕は宰相から貰った物で、地図を叩く。

『僕が獣人族と鬼人族以外と戦いを避けると言った理由は、今あげた二つの軍に比べて、動員数が少ないからです』

『確かに、獣人族と鬼人族共に三万だが、他は一万以下だ。だが、それが何の理由になる』

『軍と言うのは、兵士だけではなく、きゅうご、いや違った、衛生兵みたいな非戦闘員がいます。それらを合わせて一軍になります』

『その通りだ。軍とは、大まかに分ければ戦闘部隊、非戦闘部隊の二つで構成されている』

『そうだとしたら、天人族、竜人族、亜人族の軍の数は少なすぎます』

『『『むっ⁉』』』

 僕がそう言うと、何人かの軍団長が目を見開く。

『ねぇ、イノッチ。そのひせんとうぶたい? って、何する為に戦場に行くの?』

『非戦闘部隊の仕事は簡単に言えば後方支援だね』

『こうほうしえん?』

『そう、例えば補給を問題なく行えるようにするとか、武器の整備をするとか、物資をちゃんと輸送できるとか、陣地を作ってそこで物資を管理するとか、傷ついた兵士達を傷の手当てをする。今行った事をするのが、後方支援の仕事だよ』

『ふむふむ、成程』

『あと確か兵士の勲功を管理する人も居るって聞いた事があるけど、それはこの国も居るのですか?』

『うむ、勲功管理する者はいる』

『くんこうかんり? なにそれ?』

『簡単に言えば、兵士が立てた勲章を記憶する事だよ』

『記憶したら、何かあるの?』

『例えば、とある兵士が敵の騎士を倒したとします』

『うんうん』

『戦が終った後、その兵士は自分の上官に、倒した騎士の首を持って来て『俺はこいつを倒した』と言いました』

『う、うん』

 斬られた首を想像したのか、青い顔をする村松さん。

『そこで、他の兵士が『そいつを倒したのは俺だ!』と言ってきました。二人は口論になり、最後には剣を抜いて戦う事になり、二人は戦が終ったのに、大した理由もなく剣を抜いた事で軍法に掛けられて処刑されました』

『ちょ、それは』

『まぁ、ちょっと極端な例え話だけど、こういった事を防ぐ為に、勲功管理する人が必要なんだ』

『成程~』

 村松さんは納得してくれた。

 ついでに、僕の話を聞いて頷いている人もいるぞ。

『話が少しそれましたが、国を攻めるのに一万では少なすぎます。非戦闘部隊は全体の三~四割ほど占めているから、残りの六~七割だと計算したら、六千から七千は少なすぎませんか?』

『だが、先遣隊とも考えられないか?』

『確かに、そう考えても仕方がないと思います。でも、後続があるとはまだ断定されていません。そんな事を言っていたらきりがありませんので、ここは各個撃破するのが一番良いのです』

『それが何故、獣人族と鬼人族の二つと戦うのだ?』

『今の所、動員されている兵が多いからです』

『この場合、動員されている兵が少ない所を先に潰すべきでは?』

『先に兵が少ない所を叩くよりも、多い方を叩いた方が楽だからです』

『うむ、その通りだな』

『それに僕の見立てでは、この国に侵攻する気があるのは、獣人族と鬼人族の二つで、他の種族は高みの見物を決め込むと思います』

『その見立てには自信があるようだが、根拠はあるようだな』

『国王陛下。無礼な事を言いますが、少しでも土地を得る方法は何か分かりますか?』

『う~ん、分からんな』

『簡単です。国が滅ぼされた時に、その国を滅ぼした国に謝礼として領土が欲しいとねだるのです』

『左様か、つまり、そちが言いたいのは、亜人族、竜人族、天人族は、死肉をむさぼるハイエナみたいなもので、獣人族と鬼人族の軍にのみ集中すればよいと言いたいのだな』

『その通りにございます。陛下』

 この王様、凄い聡明だな。僕が言いたい事が分かるなんて。

『見事な戦略だ。敵数を聞いただけでそこまで分析するとは、見事だ』

『恐縮です。陛下』

『皆の者、今のイノータ殿の意見をどう思う?』

『いえ、見事な戦略です。敵の数を聞いただけで、そこまで考えつくイノータ殿の智謀には脱帽です』

『真に、今の意見は大変耳を傾けるべき意見です』

 何か、今の、と言う所を凄い強調しているように聞こえた気がする。

 気の所為かな?

『おっほほほほ、流石はわたくしの子豚ね。まぁ、わたくしが見込んだのだから、こんな事ぐらい出来て当然よね‼』

 エリザさん、貴方が何故自分の事のように喜ぶのですか?

『ゴホン。では、獣人族と鬼人族に当たる軍を選ぶとしましょう』

 宰相が咳払いをして、空気を変えてくれた。

 その後はすんなりと決まった。

 だから、僕達も二手に分かれたのだ。

「あの時のイノータ殿は、堂々とした立派な姿でしたな」

 カドモスさんもその場にいたのか。

 正直、分らなかった。

「あの時の、猪田君は格好良かったわ」

「うん、確かに」

「そうね。普段との差があって、一段と格好いいと思えたわ」

 三人は僕の姿を思い出したのか、顔を赤くする。

 そんなに凄い事をした覚えはないけどな。

「まぁ、あの馬鹿の後だと、余計に素晴らしい事を言っているよう聞こえたわね」

 馬鹿って、多分、天城君の事だよね。

 天城君はもう少し、何というか戦術と戦略を勉強した方が良いと思うな。

「そろそろ、リュミエル城に着きます」

 御者の人が声を掛けてきた。

 じゃあ、降りる準備をするか。


 会議室を出て、エリザさんに連れられ何処かに向かう僕。

「何処に行くのですか?」

「子豚の部屋よ」

 僕の部屋か。一応士官待遇だそうだから、漫画みたいに何処かの大部屋で雑魚寝する事はないだろう。

 案内されながら、僕は疑問があった。

「何でエリザさんが僕を案内するのですか?」

「それは、部屋に着いたら分かるわ」

 何かそう言われると、余計に怖いのだけど。

 この城はかなり大きい城のようで、何回か階段を上がり回廊を歩く。

 歩く事数分。ようやく、何処かの部屋に前に着いた。

 多分、ここが僕が使う部屋だろう。

「ここは僕が使う部屋ですか?」

「そうよ。鍵は部屋の中にテーブルに置いているわ」

「分かりました」

 僕はドアを開けて、中に入る。

 中に入って思ったのは、この部屋使う人間違っていませんか? と思った。

 だって、天蓋付きで五人は余裕で寝れるベッド。フカフカで毛足が長い絨毯。

 何かの動物を模した装飾を施された家具。映画とかアニメでしか見た事がない大きなシャンデリア。

 そして、かなり広い部屋だ。この広さは4Lはあるのではないだろうか?

 何となくだか、そう思えた。

「・・・・・・・・本当にこの部屋を使って良いのかな?」

 実はこの部屋はエリザさんの部屋でしたというドッキリとか?

 それとも、この部屋は城代が使っている部屋でしたとかだろうか。

「子豚、入るわよ」

 エリザさんがノックして言って、返事を待たずに入って来た。

「どう、この部屋は? なかなかいい部屋でしょう?」

「あ、あの、この部屋を本当に使って良いのでしょうか?」

 僕はそこが気になって訊ねる。

「? 何を言っているのよ。この部屋は子豚が使う部屋よ」

「・・・・・・実は、この部屋は城代が使う部屋というオチは?」

「オチ? 意味が分からないわね。それに城代は此処じゃない部屋を使っているわよ」

「じゃあ、この部屋、本当に使って良いのですか?」

「だから、そう言っているじゃない。馬鹿ね」

「・・・・・・そうですか」

 こんな立派な部屋を使う事など、今までなかったので、正直腰が引ける。

 元の世界にいるお父さん、お母さん、兄さん達、異世界に飛ばされた僕がこんな贅沢をしても良いのでしょうか?

「そうそう、この伝声管の蓋は閉じないでね。じゃないと、声が聞こえないから」

 エリザさんに指差した所を見ると、蓋が着いたパイプみたいな物が二つあった。

 何か緊急事態が起こった場合、いち早く伝える為に設置されたのだろう。

 昔の何処かの国の戦艦にもこれが搭載されていたそうだ。

 何せエネルギーが必要なく、構造は単純なのに確実に声を届けるので、信頼性があったのだ。

 まぁ、今では搭載している艦はないそうだけど。

 一つあるのは分かるけど、もう一つは何の為だろう?

 よく見ると、一つは上下にパイプが走っているのに、もう一つは横に走っている。

 これでは隣の部屋にしか話す事が出来ない。

「もしかして、隣の部屋って・・・・・・」

「あら、子豚の癖に勘が良いわね。そうよ。わたくしの部屋よ」

 えっ⁉ 本当ですか?

「何で、隣なんですか?」

「わたくしが泊まるのは、そこしか相応しい部屋はなかったのよ」

「はぁ、そうですか」

「という訳でだから、色々と扱き使うから覚悟しておきなさいね」

「・・・・・・はい、分かりました」

 魔法の制御で色々とお世話になったし、屋敷に暮らしてみてエリザさんの性格が何となくだけど分かったので、まぁ大丈夫だろう。

「夜になったら呼ぶから、それまでには部屋に居なさいよ」

 アバウトな命令だな。夜って何時からの事を言っているかな?

 晩御飯を食べる時なのか、それとも暗くなったらなのか、そこら辺がちょっと大雑把だな、この世界の人達は。

「じゃあ、わたくしは仕事があるから、子豚は好きにしていなさい。くれぐれも、夜にはこの部屋に戻って居る様に」

「分かりました」

 エリザさんはそう言って、部屋を出て行った。

 今日は何処にも行く気がしないので、僕は部屋に居る事にした。

 こんなに大きなベッドがあるので、せっかくだから横になってみる事にした。

 流石にジャンプをして、ベッドに飛び込むような事はしない。

 ベッドで横になると、フカフカなベッドの感触が僕の体を包む込み。

(このまま、横になろうかな・・・・・・)

 と思っていたら、窓がコンコンと叩かれている。

 体を起こして見ると、そこには一匹の黒い烏が居た。

 僕は窓を開けて、烏を部屋の中に入れる。

「久しぶりだね、モリガン」

『うむ、そなたも元気そうで何よりだ』

 この烏の姿のモリガンにも久しぶりに会う。

 僕が侯爵の屋敷に行く際、話をしている所を見られでもしたら、色々と問題があったので僕はモリガンに魔法の特訓が終わるまで、少し離れてくれと頼んだ。

 モリガンも魔法の特訓をしている僕を見てもつまらないので、この国を飛び回って見聞を広めると言って飛び立った。

「どう? 面白いものが見つかった?」

『うむ。まぁ、そこそこあった。それよりもだ』

「うん? 何かな?」

『お主、我が戻ったら何か美味しい物を食べさせると言ったな、で、何を食べさせてくれるのだ?』

「・・・・・・・ああ、そんな事を言ったな」

 別れる前にそんな事を言った覚えがある。

『まさか、一度口から出た言葉を反故にする訳ではなかろうな?』

「いや、そんな気持ちはないけど。今は遠征中だから大した物を作れないよ。それでも良い?」

『構わん。そなたの世界の料理なら、この世界には無いであろう、それを味わうのも一興よ』

「はいはい、分かりました。じゃあ、厨房に行くとしますか」

 モリガンは僕の肩に乗り、厨房に向かう。

 厨房に着くまで少し迷ったが、歩いている人に道を尋ねてようやく着いた。

 厨房は夜のご飯の準備の真っ最中だったので、僕は厨房を預かっている厨頭(くりやかしら)と言う人に食材と隅を貸していただけないかと頼んだ。

 厨頭さんは怪訝そうにジロジロ見て、好きにしろと言ったので、僕はありがたく使わせもらう。

 僕は隅で何を作ろうか考えていると、そこに固くなったパンが目に入った。

 料理人がそのパンを捨てようとしていたので、僕はそのパンを下さいと頼んだ。

 怪訝な顔をしながらも、他にも固くなったパンがあるそうなので、それもくれた。

 僕はこのパンを使って、フレンチトーストを作る事にした。

 まずはパンを柔らかくさせながら味をしみこませる卵液を作る。

 卵とミルクを入れて掻き混ぜて、そこに砂糖と塩を入れて出来上がりだ。

 もう晩御飯に近いので、甘くないフレンチトーストを作る。

 切ったパンを卵液に浸して、少し置く。

 その間に、思いついた物を作る事にした。

 せっかくパンが有るのだから、パン粉を作る事にした。

 僕は摺り鉦で、固くなったパンを摩り下ろしてパン粉を作る。

 このパン粉で何を作ろかなと思い、冷蔵庫の役割をもった冷暗所に行くと、そこには豚肉のような物があった。

 それを何の肉なのか訊いてみたら、レッドボアという魔物の肉だそうだ。

 それを見て、僕はトンカツを作る事にした。

 レッドボアの肉を三センチぐらいに切って、塩胡椒を振って、小麦粉、溶いた卵、摩り下ろしたパン粉の順でつけていく。

 そして、フライパンでフレンチトーストを焼きながら、隣で大きな鉄鍋に油を大量に注ぐ。

 火を着けて、油を温める。

 パン粉を少し油の中に入れたら、直ぐに浮かび上がった。頃合いだと分かると、僕は直ぐに衣付けしたボア肉を投入する。

 入れた当初は、大きな音を立てて揚がっていたが、火が通ると揚げる音が小さくなっていく。

 僕はフォークで肉を軽く叩く。火が通ったら弾力があるので直ぐに分かる。

 肉に火が通ったので、僕は油の中から上げて油を切って皿に盛る。

 フレンチトーストはもう焼けているので、僕は別の皿に盛る。

「はい、出来たよ」

『おお、美味しそうな香りだ。どっちでもいいから、我に食わせろ』

 僕はまずはフレンチトーストを食べさせる。一口分に切ったトーストをモリガンの口に入れる。

『ほう、この外はカリッとして、中はトロリとしている。噛むとパンにしみ込んだ液体が口の中にあふれ出してきおるわ』

 この反応を見るに、喜んではいるようだ。

 次はボアかつだ。

『これはっ⁉ 今まで食べ食べた事がない食感だ。パン粉がカリッとしていて、中に肉はしっとりと柔らかくジューシーな肉汁が口の中に溢れ出おる。こんなに厚いのに、しっかりと火が通っていて、かつ肉の臭みがほとんど感じない。素晴らしい。素晴らしい料理だ』

 そんなに驚く事かな? 向こう世界だったら、やろうと思えば誰でも出来る料理だよ。

 僕がモリガンに料理した物を食べさせていると、後ろから何やら視線を感じた。

 振り返ると、厨房にいる料理人達が無言で僕の作った料理を見ている。

 中には、口から涎を垂らしている人も居る。

「あ、あの、よろしかったらどうぞ」

 モリガンもお腹がいっぱいになったようなので、残りは厨房に居る人達にあげた。

 皆、まずはフレンチトーストに群がった。

 多分、味がイメージしやすいし、こっちの方が受け入れやすいのだろう。

(そう言えば、王城に居た時も屋敷に居た時も揚げ物がでなかったな)

 恐らく、この世界ではまだ揚げ物が作る調理技術がないのだろう。

 トーストを食べた人達は、フォークをおっかなびっくりでボアかつを刺して口に入れる。

 口に入れた人達は食べていく内に、驚いた顔をしていった。

 初めて見た料理が美味しくて驚いているのだろう。

 厨頭さんも、僕の料理を食べるなり、詳しい作り方を教えてくれと頼み込んで来た。

 僕はそれを教えるついでに、こんなバリエーションがあると教えた。

 厨頭さんは喜んでくれたので、よかったと思う。

 僕は料理人さん達に感謝されながら、厨房を後にした。

 何処に行く気もしないので、僕は部屋に戻る。

 暇なので、僕はモリガンが見聞きしたものを聞いて時間を潰す。

「子豚、ちょっと来なさいよ」

 外が暗くなってくきた頃に、エリザさんからお呼びがかかった。

 流石に、モリガンを連れて行くのは問題あると思い、僕は部屋に置いていく。

 モリガンも付いて行く気がないようで、テーブルで羽繕いしている。

 僕が隣の部屋は少し歩いた所にあった。

 ドアをノックしたら「入りなさい」と言われて、僕はドアを開けて中に入る。

 部屋に入ると、テーブルいっぱいに料理があった。

「これは?」

「子豚はこれくらい食べると、思ったから作らせたわ。食べなさい」

 ふむ、これは一緒に食べようという意味だろうか?

 じゃあ、ご相伴にあずかろう。

 僕はエリザさんといっしょに晩御飯を食べた。

 







 猪田とエリザが晩御飯を食べている頃。

 リュミエル城にある食堂で。

ユエ「・・・・・・・・・」

雪奈「・・・・・・・・・」

舞華「・・・・・・・・・」

瀬奈「・・・・・・・・・」

 四人は無言で笑顔だが、目が笑っていなかった。

兵士A[こ、怖くて、近づけねえ」

兵士B「おい、あんた、同じ異世界人だろう? 何とか出来ないのか⁉」

クラスメートA「む、無理だ!」

クラスメートB「誰か、猪田を連れて来い⁉」

クラスメートC「何処に居るんだか、知らねえよ!」

クラスメートD「ちくしょうっ! あの野郎っ、何処に行きやがった!」

クラスメートA「そういや、あの女師団長に連れられてから、見てないな」

クラスメートC「まさか。今頃、あの師団長となにかしてるのか?」

クラスメートD「あの野郎、いつの間にあの師団長と仲良くなりやがったっ」

クラスメートB「っち、あのイノブタ野郎、あんなに手が早いなんてっ」

クラスメートA、D、C「「「馬鹿っ、それは禁句」」」

ユエ、雪奈、舞華、瀬奈「「「「今、何て言ったの?」」」」

クラスメートA、B、C、D「ぎゃああああああああああああああっ‼」

そのクラスメート達の騒動に、食堂に居た人達全員巻き込まれた。全員三日程寝込むほどの重症負った。

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