第7話 説得中
翌日。
僕はユエ達を呼んだ。
呼んだ目的は僕が竜人君達を公都と廃都に連れて行く事を承諾してもらう為だ。
少し時間を置いたから、椎名さんは兎も角、ユエあたりは冷静になって考え直してくれるだろうと思っていたのだが。
「却下だ」
そんな思いを裏切るかの様にユエはキッパリと告げる。
「どうしても駄目かい?」
「駄目に決まっているだろう。むしろ、お前のお人好しさには呆れるばかりだ」
「でもさ、前世の僕を殺したのは天城君であって、龍月さんではないのだから」
「別にわたしは公都に行く事は反対しない。行った所で、お前の精神にダメージを喰らうだけだ。それぐらいの事をしたのだと自覚する良い機会だ」
ぐっ、考えてみれば公都は全て回った訳ではないからな。竜人君達と行動を共にするという事はつまり、昔、自分がした事を目にするという事だよな。
そう思うと、前行った時みたいに心にダメージが来るという事なんだよな。
・・・・・・前はああなっていると知らなかったから、あれだけのダメージを貰った。今度は大丈夫だろう。多分。
「だが、廃都に行くのは反対だ。何で、お前を殺した者の墓がある所に行くんだ?」
「う~ん。クラスメートだったから、墓参りぐらいはしても良いと思うんだけど」
「馬鹿者‼ 自分を殺した者の墓参りに行く者があるか‼」
怒鳴るユエ。
これはそうとう怒っているな。
「うんうん。わたしもチャンチャンに同感。自分を殺した人の墓参りとかお人好しを通り越して馬鹿としか言えなんだけど」
「村松さんまでそう言うの? 別に仲は悪くないと思ったけど」
「わたし。天城ッチの処刑の時、人ごみに紛れて石を何度も投げたから」
つまり、それだけ怒っていると。
少し時間を置いたから、冷静になっていると思ったけどこれは駄目だな。
椎名さんはどうだろうと目を向けた。
「……………………」
目をつぶり何か考えている様であった。
何かとんでもない事を言いそうだな。
「・・・・・・リウイ君」
「何かな? 椎名さん」
「わたしが付いて行っても良いのなら、廃都に行ってもいいよ」
「なに?」
「うそぉっ⁉」
「えええ⁉」
三者三様の反応だが、僕達は自分の耳を疑った。
「お前、何を言っているのか分かっているのか?」
「そうだよ。ユキナッチっ」
ユエと村松さんは椎名さんの真意を聞こうと問いただした。
「何か問題あるの?」
「大有りだ。何でリウイをそんな所に行かせるのだ。返答次第では」
ユエは何処からか愛用の方天画戟を出した。
石突で床を砕いた。
それは戦ってでも止めると言っていた。
村松さんは椎名さんの真意が分からないので、何もしないが心情的にはユエの味方ぽい顔をしていた。
「だって、止めてもリウイ君の事だから行くと言うでしょう。だったら、一緒に行った方が良いと思うわ。それに廃都に行けば踏ん切りがつきそうなのよ」
「踏ん切りだと?」
「どういう意味なのかな? ユキナッチ」
踏ん切りね。それはつまり、怒りのあまり天城君を酷い仕打ちをした事を後悔しているから、その事を懺悔しにいきたいとか?
「あの時、前世の猪田君の身体を回収する為、適当に懲らしめて終わりにしていたけど、やっぱりちゃんと自分の手で仕留めないから、どうもしこりみたいのが残っているのよね」
聞いた話だと何か魔法で五感を奪って石打の刑になったと聞いているけど、それが気に入らないって事か?
「では、そのしこりとやらはどうやって打ち消せるのだ?」
何となく言う事を分かっているのか、ユエは戟を仕舞い訊ねる。
「そうね。あの男の墓を暴いて、死骸を塵一つ残さず燃やせばこのしこりも無くなると思うわ。だから、リウイ君と付いて行くの」
「「・・・・・・・・・・・・」」
椎名さんの言葉を聞いて、僕と村松さんは言葉を失う。
死体に鞭打つではなく、灰すら残さず燃やすとか酷過ぎだろう。
ユエは何となく察していたのか、何も言わないで溜め息を吐いた。
「そんな事をさせるか‼」
「ええっ、こうしたらリウイ君も気が晴れるでしょう」
「晴れないよっ。むしろ、後味悪いから」
死体に鞭打つどころではない所業に身体を震わせる。
元クラスメートの死骸にそんな事をさせられるか。
これじゃあ、三人を納得させるのは当分無理だ。
思わず、重い溜め息を吐いた。




