第49話 ついに、始まったか。
「う~ん、ノッ君の料理、久しぶりに食べるけど、美味しいぃぃ!」
マイちゃんは僕が焼いたローストビーフを食べながら、美味しそうに悶えている。
「はっははは、大袈裟だな。僕の料理に比べたら、王宮の料理の方が美味しいだと思うよ」
僕みたいな素人に比べたら、プロの料理人が作る料理の方が美味しいに決まっている。
しかし、皆はそうは思っていないようだ。
「いやいや、この世界の料理も不味くはないのだが、どうも向こうの世界と違って色がな・・・・・・・」
「そうだね。食べ物にこの色は駄目でしょうと言えるのが沢山あるね」
言われてみたら、そうだな。
青色のシチューとか紫色のソースとか緑色の肉とかは、流石にね。
そう言えば、さっきから椎名さんが静かだけど、どうしたのだろう?
椎名さんを見ると、一口分の切り分けたケーキを皿に小さく切り分けて、口の中に入れる。
そして、本当に美味しそうに味わいながら、咀嚼する。
「~~~~~~~~~」
うん、その綺麗な顔を見ているだけで、何か癒されるわ。
僕が見ているのを気付いた椎名さんは、顔を赤らめ反らした。
「そ、そんなに見ないで、食べている女の顔を見るなんて、失礼だよ。猪田君」
「あっ、ごめん」
僕は素直に謝る。
椎名さんは顔を反らしながら言う。
「猪田君は料理が得意なの?」
「まぁ、そうだね。椎名さんは?」
「わたしはそれなりかな?」
「そっか、今度何か食べさせて欲しいな」
「っ! うん、楽しみにしていてね!」
椎名さんが笑顔を浮かべる。
(ああ、可愛いな笑顔だな~)
僕が椎名さんの笑顔に見惚れていたら、横から視線を感じた。
その視線を辿ると、マイちゃんとユエが僕を睨んでいる。
「? どうかした?」
「べ、つにぃ、相変らず、たらしだなと思っただけだよ」
「うむ、マイの言う通りだ」
たらし? 普通に話し掛けているだけだけど。
「ねぇ、猪田君、このローストビーフのソースは如何したの?」
椎名さんはこの黒いソースを見て不思議そうに味わう。
「ああ、それ。この屋敷にある調味料を、焼いた肉汁と合わせて作ったソースだよ」
「へぇ、この味日本の醤油に似ているね」
「そうだな。こちらの方は少し甘いが、醤油とほぼ同じ味だ」
「この調味料、どこで手に入れたんだろう?」
「ああ、これね。エリザさんが作ったそうだよ」
そう言った瞬間、部屋の温度が少し下がった気がする。
それに、三人とも笑顔を浮かべているけど、目が笑っていない。
「エリザさんって、さっき会った人だよね?」
「そうだよ。この屋敷に来てから、色々と世話になっているんだ」
「色々とな?」
「うん。魔法制御の特訓とかほぼ毎日一緒にいるね」
「いっしょに、いるの? あの人と?」
「エリザさんもこの屋敷で暮らしているから、そうなっているだけだよ」
うん? 何か三人の顔が引きつっている様な。
「「「・・・・・・・敵が増えた・・・・・・」」」
はい? 敵? 何の事?
意味が分からず、聞こうとしたら、部屋のドアが突然開いた。
入って来たのは、侯爵とエリザさんだった。
礼儀に煩い侯爵がいきなり入って来るなんて、これは何かあったのだろう。
「御二人共、何かあったのですか?」
「はい、今王宮から使者が参りまして、わたし達と皆さまを至急、王宮へと参れととの事です」
「王宮に? 何が起こったのだ?」
エリザさんが前に出た。
「簡単に言えば、戦争が始まったのよ。魔人族を除いた全種族が、我が王国に侵攻を開始したのよ」
「「「「なっ⁉」」」」
僕達はそれを聞いて、驚きの声をあげた。
戦争はいずれ始まると言われていたが、本当に始まるとは。
「ついに、始まったね」
「ですので、ご歓談中に失礼だと思いましたが、陛下の命令ですので、ご同行を」
「分かりました。皆、行こう」
「うむ」「はい」
あれ? マイちゃんの声が聞こえないぞ。
マイちゃんを見ると、何か凄い勢いでローストビーフを食べている。
「何してるの?」
「むぐ、今の内に食ってこうと思って」
「はぁ、早くしなよ。遅れても待たないからね」
「ふぁあはった|(分かった)」
僕達は待ったせている馬車に行く。
皆乗った中、マイちゃんはまだ来ていない。
はぁ、やっぱりな。
「イノータ殿、そのサナダ殿は・・・・・・」
「すいません。もう少しだけ待って下さい」
「はぁ、分かりました」
「まったく、国王陛下から来るように言われているのに、遅れたらいい笑い者じゃない」
「すいません」
「子豚、ここでぼーっと突っ立ているなら、ここに連れて来たらどう?」
「は、はい。そうします」
と、僕が行こうとしたら、ようやくマイちゃんが来た。
頬をパンパンに膨らませて。
「もう、遅いよ」
コクリと頷くマイちゃん。
喋れない程、詰め込んだようだ。
「ほら、行くよ」
僕はマイちゃんの腕を掴む。
「~~~~~」
嬉しそうな顔をするマイちゃん。
馬車に乗り込みと、エリザさんが頬を膨らませたマイちゃんを見て笑う。
「ぷっ、まるで子リスみたいね」
エリザさんがそう言うと、ああ、確かに。
「~~~~~~っ」
マイちゃんはエリザさんを睨む。
はぁ、もっと仲良くしてくれないかな。
王宮に着くと、直ぐに僕達は会議室に案内された。
会議室には既に各軍団の軍団長と王様と宰相と王女様、それに転移した戦争参加組全員がいた。
「遅れてもうしわけございません」
侯爵が部屋に入ると直ぐに、王様に謝罪した。
そうだよな。一番最後に来たのだから、謝るのは普通か。
「いや、今始める所だ。席に着くがよい」
王様は手を振って気にしていないというポーズを取る。
侯爵は一礼して、自分が座る席にエリザさんと共に向かう。
「僕達も座ろうか」
皆頷いてくれたが、どこに座ろうか辺りを見る。
すると、村松さんが手を振っている。そこは丁度四人座れる席があった。
僕達はそこに行き、村松さんの隣に僕が座る。
そして、空いている僕の左隣に誰が座るか少し揉めたが、じゃんけんで決めようと言ったら、三人はじゃんけんして決めた。結果、僕の左隣はマイちゃんが座った。
マイちゃんの隣に、ユエと椎名さんが座る。
「皆、集まったようだな。では、これより、軍議を始める」
すいません、王様。早く軍議を始めたいのに、マイちゃん達がじゃんけんをした所為で時間が掛かってしまいすいませんでした‼
クラスメート達は呆れているし、他の軍団長や大臣達は睨んでくるし、なんて日だっ!
そんな中でも、じゃんけん出来るマイちゃん達の神経の図太さには、改めて驚いた。
「宰相、説明を」
「はっ、かしこまりました」
宰相が手で何か持ってくるように示した。それを見たこの部屋に居る文官達が一旦部屋を出て、大きな巻物を持ってきた。
その大きな巻物を会議室に居る人達に見える所で広げる。
巻物に描かれていたのは、この国の形を模した地図のようだ。
地図を見ると、この国は東京都みたいな形をしている。
「では、地図を見ながら説明させていただく」
宰相は教鞭みたいな物を持って、地図を叩く。
「北西からは天人族軍、数五千」
文官の人が、宰相が叩いた所に羽を持った白い駒を置いた。
宰相は持っている物を動かす。
「北東から亜人族軍、数一万」
宰相が叩いた所に、今度は弓を持った緑色の駒が置かれた。
「西から竜人族軍、数一万」
今度置かれた駒は、竜を模した黄色い駒が置かれた。
「東から獣人族軍、数三万」
置かれた駒は、獅子を模した赤い駒だ。
「南から鬼人族軍、数三万」
鬼を模した灰色の駒が置かれる。
この駒、よく出来てるな。細かい所まで綺麗に作られている。
「総勢、八万五千の軍が我が王国に侵攻してきた。各々の意見を聞きたい」
宰相がそう言うと、軍団長が皆激論を交わす。
「各方面に軍団を派遣するのは当然として、どの軍にどの軍団を当てるべきだ?」
「ここは、一番数が少ない天人族の軍に竜騎兵団をぶつけるべきでは?」
「いや、竜騎兵団には数が多い鬼人族か獣人族に当たらせるべきだ。一番数が少ない天人族には遊撃軍団を当てるべきだ」
「我が国の兵だけ持ちこたえれるか分からん。他の国にも援軍を求めても良いのでは」
「愚策だ。他の国も我が国への侵攻を聞いて、国の防衛に力をいれるだろう。そんな中で援軍を求めても断わられるのは、火を見るよりも明らかだ」
「では、しばらくは我が軍だけで持ちこたえねばならないな」
軍団長達は、意見を交わすが中々これといった意見が出てこない。
時間だけが過ぎていく。
(僕達も、ここに居るのだから、意見を言うべきかな?)
でも、僕達は訓練はしても戦争は参加した事がない。
そんな人の意見を聞いてくれるとは思えない。
なので、どうしようかなと思っていると、右腕の袖が引っ張られた。
「村松さん、どうかした?」
「イノッチ、何か良い考えはある?」
「う~ん、僕の予想が正しければ、敵の各軍にぶつける軍を間違えなければ、大丈夫だよ」
「この国の軍は全部で七つあるから、今回攻め込んでいる軍には十分に対処できると思うけど?」
「いや、今回の戦争は獣人族と鬼人族の軍と戦って勝てば、残りの軍は戦わないで撤退するよ」
「えっ⁉ 何で、そんな事を言えるの?}
「こう見えて、戦略シュミレーションゲームを結構しているから、分かるかな」
主に某戦国覇王の野望とか、世界大戦を模した戦略他、色々していたなぁ。
「ねぇねぇ、何でそんな事を言えるか教えてよっ」
「良いけど、じゃあ、村松さんが知っているこの国の軍の事を教えて」
「それくらいお安い御用だよ。この国はわね、さっきあそこで口論している人達が言っていたけど、七つの軍団があるんだ」
「七つね。四つ知っているけど、他は知らないな」
騎士団、戦士団、魔法師団、近衛兵団の四つだ。
でも、どのような基準で選ばれているか知らない。
出来れば、そこも教えてくれると嬉しい。
「まずは、騎士団ね。この軍は、名前の通り、騎士階級の人達で構成された軍だよ。卿だけじゃなくて、男爵とか子爵、偶に準伯爵も居るらしいよ」
村松さんは爵位について、細かく教えてくれた。
卿は騎士になった人が貰える爵位のようだ。
男爵は爵位の方では低いようだ。功績で貰えたり金を払って手に入れたり、伯爵以下の家が分家する事で叙爵される事が出来る位だ。
子爵は伯爵以上、つまり侯爵家、公爵家の二つから分家されると叙爵される爵位だ。
準伯爵は一代貴族で、その一代限り伯爵クラスの発言力と影響力を持っているそうだ。
因みに、一代貴族はこの準伯爵しかないそうだ。
伯爵は国家に対して多大な功績を挙げてた者が叙される爵位だ。与えられる領土は王都より遠い地を治めるので、辺境と言える場所を治めているそうだ。
侯爵から上の爵位は、世襲制だそうだ。
違いは公爵は治める土地はないが、侯爵は王都近辺の土地を治めているそうだ。
爵位の順番と呼び方しか知らなかったので、勉強になった。
「次は戦士団だね。こっちはね、所謂平民階級の人達で結成された軍団だね。殆どが平民だけど卿の人も男爵の人もいるよ」
成程、こちらの軍団は成り上がりを目指した人達で構成された軍団か。
騎士団はエリート集団。戦士団はノンキャリア集団と考えれば良いのか。
「次が魔法師団。これは魔法を使える魔術師と魔法戦士で構成された軍団だね。こっちは魔法を使えれば、地位や身分に関係なく入れるよ。軍団内で部署があるようだけど」
「部署?」
「そう、戦闘部門、研究部門に分かれているそうだよ」
戦闘部門は戦闘部隊で、研究部門は魔石を使った物を研究、開発する所と言う事か。
「次が魔獣騎兵団。こっちは魔物を使役したり、魔物を騎乗できる人で出来た軍団だね。この軍団の特徴は魔物を操る事が出来る人が多いってとこだね」
「魔物に使役に騎乗か、ゲームであったな」
最終幻想とか竜の探求とかであった。
あれって、才能が必要なのだろうか?
「お次は遊撃軍団。名前の通り自由に行動できる権限を持った軍団だよ。その性質上、機動力を重視した装備と編成で出来た軍団で、機動力の面で言えば、王国軍随一だそうだよ」
「自由に行動って事は、独立行動できるって事?」
「あたしも聞いてみたら、そんな風に言ってた」
独立部隊と考えらいいようだな。
「次は竜騎兵団。これはディノラプトルっていう二足歩行の亜竜か飛龍みたいな亜竜に乗った軍団だよ」
「亜竜?」
「竜だけど竜じゃない生物を、亜竜って言うんだって」
「その分類訳はどうやっているんだろう?」
「あたしが聞いた所だと、空が飛べて足が四本あったら竜で、足が二本しかなかったり、空が飛べないと亜竜って感じで分けているそうだよ」
羽が有る無しじゃなくて、空が飛べて足が四本あるかないかで分けているのか。
結構細かいな。
「最後に近衛兵団。この軍団は王都を防衛する軍団だよ。麾下に王都を守備する部隊で王都守備隊と王城を守護する近衛隊があるよ。ちなみに」
村松さんが顔を近づけて、よく聴こえるように僕の耳に手を当てる。
「サナダッチ達が暴れて、団員の半数を、当分の間ベッド暮らしにさせた軍団だよ」
それを聞いて、僕はいたたまれない気持ちになった。
友達が暴れる程ストレスが溜まっていたとは知らなかったのだ。
「とりあえず、教えてくれてありがとう。村松さん」
色々と知らない事があったので、教えてくれて助かった。
「別に、大したことはしてないよ」
「それでも知らない事が多かったら助かったよ。ありがとう」
「~~~~~、その笑顔、反則だよ」
「はい?」
「何でもない」
村松さんは、プイっと顔を背けてしまい聞けなかった。
(村松さんのそうゆう所が可愛いいなぁ)
そう思っていたら、左から凄い痛い視線が体に突き刺さる。
何だろうと、顔を向けると、ジト目で僕を見るマイちゃん達。
「な、なに?」
「「「べ、つにっ!」」」
三人は声をそろえて、同じ事を言う。
何かしたっけ、僕?
と思っているところに、バンッと何かを叩く音が聞こえた。
その音の大きさに、議論していた人達はおろか、この部屋にいる人達全員、音がした方に顔を向ける。
視線を向けた先には、天城君が両手をテーブルに置いて立ち上がっていた。
恐らく、先程の音はテーブルを叩いた音のようだ。
「・・・・・・・あんた達は、国を救うつもりはあるのか?」
「なにぃ⁉ 貴様、もう一度言ってみろっ‼」
「この場に居るだけでも、恐れ多い事であるのに、そのような口を叩くとは、何様だ!」
「我らの事を知らぬ異世界人の貴様に言われたくないわ!」
「こんな所で口論している暇があるなら、さっさと軍を動員して向かうべきだろう。こうしている間にも、国境で暮らしている人達の身が心配だろう‼」
「その軍をどこに動員するか、今話し合っているのだろうが!」
「軍事の事が一つも分からない素人は黙っていろ!」
「何だと、そんなの各軍団が行きたい所いけば十分だろう」
「これだから、軍事を知らぬ素人はっ」
「貴様のような素人は黙って、会議を聞いていろっ」
天城君は各軍団長達と口論を始めた。
ああ、天城君。君の気持も分からなくはないけど、少しは感情的にならない話し合いをしようよ。
僕は溜め息を吐きながら、どう静めたらいいか考える。
天城君が激論を交わしているのを見ながら、僕はこの場を纏めたらいいか考える。
もう既に軍議から罵り合いになっているが、このままで何にも決まらないで戦が始まりそうだ。
かと言って、僕が何を言っても、罵る相手を天城君から僕にチェンジするだけだろう。
ここは王様が一喝してもらわないと駄目かな。
「静かにせよ」
王様のそれほど大きくない耳にハッキリと聞こえる声が、部屋に響く。
すると、罵り合っていた人達が段々静かになっていく。
「そなたら、ここに来て醜い口喧嘩を儂に見せに来たのか? それとも国の防衛の為に集まったのか?」
王様にそう言われて、罵り合っていた人達は顔を俯かせる。
俯かせた人達を静かになったのを見て、今度は天城君を見る。
「アマギ殿、我らは戦争の準備をする為にここに集まっているのだ。己の意見を言うのは良いが、あまり皆を刺激する発言は控えて欲しい」
「でも、陛下、僕達と軍を早く出発させたら、その分国の被害が減る事が、出来るのではないのでしょうか?」
「確かに、その言い分にも一理ある」
「では」
「だが、戦に際しては万全を期して臨まなければならない。なぜなら、古より百戦して百勝できる軍など何処の国も存在しないのだから、故に事前の準備はしっかりとしなければならない」
「でも、俺達が居れば、敵を撃退できるはずです」
「そなたは自信があるようだが、アウラ」
「はっ、何でしょうか。陛下」
「お主は異世界人達の指導を担当していたな、どうだ。アマギ殿の実力は?」
「そうですね。現段階で言えば、総合力で言えば、ゴブリン千匹分の力はあるでしょう」
アウラ王女様の意見を聞いて、部屋は暫く沈黙が支配した。
「ぷっ、ぷっはははっはは、たかがゴブリン千匹分の力しかないのに、それだけの大口を叩くなんて、随分と面白い事を言う道化がいたものねっ!」
笑い出したのはエリザさんだった。
余程、面白かったのだろう。目に涙を浮かべて口元を隠しながら高笑いしている。
その笑い声を聞いて、顔を真っ赤にする天城君。
「なっ、なんだとっ!」
「ゴブリンを千匹倒せるだけで、戦争が終わるなら、貴方達を呼ぶわけないでしょう? そんな事も分からないのかしら。ああ、ごめんなさい。分からないから、そんな面白い事を言うのよね。失礼」
言いながらも笑いを堪える顔をするエリザさん。
「っっ⁉ じゃあ、あんたはゴブリンを千匹も倒せるのかっ!」
「出来るに決まっているじゃない。じゃなかったら、わたくしがここに居る訳ないでしょう」
「なっ⁉」
「わたくしだけじゃないわ。ここに居る軍団長は皆それぐらいは出来るわ。じゃなかったら、軍団長になれるわけないでしょう」
「・・・・・・・・・・・」
そう言われて、天城君は黙り込む。
エリザさんに言い込まれた天城君の姿を見て、軍団長達はニヤニヤとほくそ笑む。
「そうね。そこにいる道化よりも、ねぇ、子豚」
「はい、何でしょうか」
あっ、いつも言われている所為か、普通に反応してしまった。
と言うか、皆僕が「子豚」って言われて、納得している顔の人が居れば、小さく笑った人も居たぞ。
気持ちは分かるよ。見た目まんまだからさ、でも、こんな公の場でそんな反応しなくても。
「ちょっと、あんた、イノッチに何て事言ってるのさ?」
ぎゃああ、村松さんが指をぽきぽき鳴らしながら戦闘態勢を取っているうううう⁉
そう言えば、前に村松さんは護身術で色々な格闘技をしているって聞いた事があったけ⁉
今、会議中だからあああぁぁぁ、落ち着いて、落ち着いてよ‼
僕は村松さんを宥めようとしたら、エリザさんが席を立ち、僕の前まで来た。
「子豚、何か考えがあるのでしょう。言いなさいよ」
この人、意外にメンタル強いな⁉
殺気を出して睨んでいる村松さんに目を向けないで、僕に話しかけるなんてっ。
うん? 良く見ると、左にいるマイちゃん達も凄い怖い目でエリザさんを睨んでいる‼
あ、あの、皆さん、ここは会議室ですよ? 何故、そんなに殺気を出しているのですか?
「ほら、子豚、良い考えがあるのでしょう。言いなさいよ」
エリザさん、そんに僕を虐めて面白いですか?
両隣がこんなに殺気を放っている中で、言えと?
でも、言わないと駄目だよな、この状況では。
「は、はい。では、僕の考えを言います。皆さん、どうかご清聴ください」
身体中、冷や汗を流しながら僕は席を立ち発言する。
数十分後。
「成程、そのような考えがあるとは」
「言われてみたら納得できる考えだ。それに筋は通っている」
「異世界人は軍事に疎いと思っていたが、いやはや見事な知略ではないか」
「そう言えば、この者は職業で軍師を授かっていたな。成程、軍略を練るのは慣れているのようだな」
「はて? わたしが聞いた所では、このものは賢者では?」
各軍団長と宰相が僕を見る。
あれ? もしかして知らない?
「その者はデュアルだ。だから、職業が二つある」
「「「「おおおおおおおおっ」」」」
そう聞いて、皆さん僕を凄い期待した目で見て来る。
「大まかな軍略は決まったな。では、各方面に回す軍を決めようではないか」
そうして話あった結果こうなった。
亜人族軍は騎士団。
天人族軍は戦士団。
竜人族軍は魔獣騎兵団。
鬼人族軍は竜騎兵団。
獣人族軍は魔法師団。
という具合でぶつかる事になった。
僕達戦争参加組は二手に分かれた。
一つは鬼人族軍に対する竜騎兵団に、もう一つは獣人族軍に対する魔法師団にだ。
僕は魔法師団に行く事になった。エリザさんの強い要望で。
それを聞いて、マイちゃん達も僕に付いて来るそうだ。
天城君と西園寺君は竜騎兵団に行くそうだ。
亜竜と言うのを見たいそうだ。
それを聞いて、ちょっといいなぁと思いながらも、僕は戦の準備に掛かった
何故、戦争参加組が二手に分かれたのかは、次の話で分かります。




