第2話 クラスごと転移⁉
土曜日。暦ではこの日は休日になる日だ。それなのに信康は憂鬱気分が晴れない。
何故なら、学校に行かないといけないからだ。
別に成績が悪くて、補修と言うなら文句は無い。
成績が悪い自分が悪いのだから。
しかし、自分の成績は平均よりもかなり上のほうだ。学園でも上位に入るくらいだろう。
なのに何故学校に行かなければならないのかと言うと、理由がある。
信康の所属しているクラスはいわゆる特進クラスと言う奴で、月に一度クラス内で学力テストをする。
この学力テストで成績が良いと、将来的に色々と優遇されるらしいと聞いている。
詳しくは知らないが、友人(自称情報通)から聞いている。
その為にテストを受けると思うと憂鬱だ。
しかも、平日にすればいいのに、何故休日にやる。
それも友人の情報だと、どうやらこのテストの成績をスポンサーに見せつけるそうだ。
スポンサーにこのクラスの優秀さを見せて、寄付金を募ると言っていた。
(世の中金か、世知辛いね)
信康はそう思いつつ、学校へと向かう。
始業チャイムが鳴るにはまだ時間があるくらいには、教室に着き扉を開けた。
教室の中には、既に生徒達が居た。
女子生徒達は無関心だったが、男子生徒達には睨みやら嫉妬の表情を向ける。
そんなものを向けられる理由は分かっているので、あまり男子生徒達を刺激しないように、自分の席に向かう。しかし、自分の席へと進めば進むほど、視線がきつくなっていく。
そんな針の筵になりながら、自分の席に座る。
「おはよう、猪田君。今日は何時もに比べて遅いね。何かあったの?」
ニコニコしながら、自分の隣に席にいる椎名雪奈さんが挨拶してくる。
正直に言えば、この針の筵になっているのは、彼女が一因でもあるのだが、こんなに嬉しそうな表情をしていては、何も言えなくなる。
(はぁ、どうして彼女はこんなに僕と親しくしたいのだろう?)
それが分からないので、信康はどう接したらいいのか悩んでいる。
幼なじみのマイちゃんや、それなりに付き合いがあるユエみたいに親しいなら、気軽に接する事が出来るのだが、彼女の場合だと、どうしてこうも親切に接してくるか分からない。
実は好意を持っているなどと自惚れはしない。
何せ、自分の体型はそれなりに高いが、腹がぽっこりとでているし、顔も不細工な方だ。
成績は良い方だが、運動はそこそこ出来るくらいだ。
自分に言えるのは、それくらいだ。
このクラスには自分よりもは遥かに優秀で良い男は沢山いる。
なので、彼女がどうして自分に親しくしようとしてくるか分からない。
「猪田君?」
あっ、考え事していて、挨拶を忘れていた。
「ごめん。あいさつするの忘れてて、おはよう」
「うん、おはよう!」
いや、もう言ったから、というか、挨拶するのを遅れたくらいで、こんな殺気を孕んだ目で見ないで下さい。考え事をしていただけですから!
「どうしたの? 何か悩み事でもあるの? わたしで良かったら何でも聞くよ」
じゃあ、この針の筵になっているのをなんとかしてください! と言いたいが。言えば、放課後に体育館に連行されそうだ。
自分が言葉を詰まらせているのを、何か複雑な事情でもあるのかと思い、彼女は追及してくる。
どう言ったら納得するかなと考えていると、救いの主はと言う名の爆弾が降りて来た。
「ふぅ、まったく今日は休みなのに、どうして学校に来ないといけないかしら・・・・・・」
教室の扉を開けて、入って来たのは友人の張月亮ことユエだ。
ユエは教室に入っても、誰とも挨拶せず黙って、信康の席の所に向かう。
ユエが歩く度に、制服の上からでも分かる豊満の胸が揺れる。
男子生徒はその胸の動きに見とれて、ついついユエの胸の動きを目で追う。
まだまだ若い男性ならば、当然とも思える行動だ。
ユエはそんな下心丸出しの視線を体に受けても、気にした様子はない。というか何とも思っていない。
信康の席近くまでくると、そこで花も恥じらうような微笑みを浮かべる。
「おはよう、ノブ。今日もよい天気ね」
「そ、そうだね。ユエ。おはよう」
「うむ、今日は休日なのに、学校に行かないと思うと憂鬱だったが、ノブの顔を見たらそんな気分なんて吹っ飛んだわ」
「そ、そう。それは光栄だね」
ユエさん、そんな嬉しそうに微笑まないでください。そんな顔をしたら、周りにいる男子がさっきから舌打ちをしてくるんですけど、それも良く聞こえるように大きくしてくるんですけど!
「どうした。ノブ? 身体の調子でも悪いのか? なんなら、わたしと一緒に保健室に行くか?」
「張さん、あなたは保健委員じゃあないでしょう。委員じゃない人が一緒に連れて行くのは駄目よ!」
信康が断ろうとしたら、椎名が突然話に割り込んで来た。
「連れて行くなら、別に委員じゃなくてもいいでしょう。わたしとノブは小さい頃から付き合いがあるのだから、一緒に行っても問題ないわ」
「問題はあります。例外を除いて、委員以外の人が連れて行って保健室の先生がいない場合、どう処置をしたらいいかわからないでしょう。だから、一緒に行くのは駄目よ」
「それなら、問題なかろう。わたしは医学の知識はそれなりに持っている。だから、別に一緒に行っても問題ない」
「素人のあやふやな知識で、変な事をして余計に悪化したらどう責任をとるつもり?」
「あやふやではない。ちゃんとした先生から教えてもらったので、問題なんか起きない」
「教えて貰ったからと言って、ちゃんと出来るとは限らないでしょう。それならしない方がましです!」
「ふん、保険委員ではない椎名に言われても、納得できるわけないでしょう」
「むうううう・・・・・・・」
「ふん・・・・・・・」
二人共、信康を挟んで睨み合いをを始めた。
(ああ~、また始まった。どうしよう~~)
こんなやりとりを高校生になってから、毎朝する。
これが原因で男子生徒達からは敵意を向けられるのだ。
女子生徒達は殆ど無関心なのが救いだ。まぁ、中には軽蔑の視線を向ける人もいるが、何かしてくるわけではないので、気付かないフリをする。
(ああ、これでマイちゃんが来たら、更に面倒な事に)
噂をすれば影と言う通り、今思っていた人が扉を開けて入って来た。
取り巻きを連れて。
いつからか、マイちゃんは校内で男子の取り巻き連れて歩きまわるようになっていた。
それもイケメンばかり。
僕も気付いた頃には、取り巻き連れて校内を歩いていたので、何時からそうするゆうになったかわ知らない。
「どう、あたしの連れている連中、皆イケメンで頭も良くて運動神経抜群よ」
胸を張って鼻息を荒く言うので「わぁ、凄いね」と言った。
すると、不機嫌になって僕の脛を思いっきり蹴った。
何でと思いながら、僕は脛を抑ええていると、マイちゃんは怒り心頭で何処かに行ってしまった。
思い返していると、マイちゃんは教室に入るなり僕の席の所を見て、無言で歩き出した。
(やめて~、これ以上この場を荒らさないで、やばい事になるからっ!)
頭を抱えていると、不意に教室が青白く輝きだした。
床を見ると、幾何学模様の陣が浮かんでいた。
「何だ。これ?」
「魔法陣? こんなの無かったのに⁉」
クラスメート達は突然の状況に混乱して、声をあげる。
「これは?」
「ほう、これはもしや、最近流行りの異世界転移と言う奴か?」
「へぇ、小説とか読んでもありえないだろうと思いながら読んでいたけど、まさかあたし達がそんな目に遭うなんて」
「と、とにかく逃げないと⁉」
信康は椅子から立ち上がり、とる物も取らずに教室を出ようとしたら、魔法陣の輝きが増して目を開けれなくなった。
やがて、光が止むと、魔法陣はなくなり、教室に居た生徒達は一人も残らず消えてしまった。