とある親子の密談
エリザ視点です。
メイドに案内されて、子豚達が客間に向かって行くの見送ったわたくしは、お父様が話があるというので、後を付いて行く。
向かったのは、お父様の書斎だった。
お父様が座ったので、わたくしも座る。
少しして、ドアがノックされた。
お父様が「入れ」と言うと、メイドの一人がカートを押しながら部屋に入って来た。
カートには今日、子豚が作ったケーキと茶があった。
「うん? 何だ、その白くて四角い物体は?」
「イノータ殿が、御呼びした客人達の為に作った御菓子だそうです」
「オカシ? 菓子とは果物の事ではないのか?」
お父様の言っている事も正しい。我が国では果物の事を菓子と呼んでいる。
「子豚から聞いたけど、子豚の世界では、これもお菓子と言えるものらしいわ」
「ほう、そうか。では頂くとしよう」
お父様はフォークで一口分に切り分けて、口に入れる。
口に入れた瞬間、お父様の目がカッと開いた。
「これは、この黄色い部分はしっとりと柔らかいのに確かな弾力があり、それだけでも美味しい上にこの白いフワフワした物がその黄色い部分に馴染み、更に美味しいくなっているっ」
凄い驚いているわね。
あっ、そう言えば、この前試作した時、お父様は王宮に泊まり込んでいたから食べていなかったわね。
わたくしも口に入れる。うん、やっぱり美味しいわ。
お父様は皿に盛られていたケーキを全部食べて、茶を飲んで一息ついている。
「このけーき? というのは初めて食べたが、素晴らしく美味しいな。エリザ」
「ええ、そうですね」
お父様は茶をソーサーに置くと、メイドに目配せした。
メイドはそれを見て、一礼して書斎から出て行く。
メイドが出て行くのを見た、お父様は口を開く。
「どうだ。イノータ殿と少しは親しくなれたか?」
「そうね。まぁ、それなりに親しくなっていると思うわ」
「それなりか、・・・・・・・思っていたよりは仲は良好のようだ」
お父様は何かに納得しながら頷く。
わたくしは茶を飲んみながら、前々から気になっていた事を訊く。
「お父様、どうして子豚を我が家に招いたのですか?」
「ん、ああ、それか」
お父様は背筋を正しながら、わたくしを見る。
「お前には言っていなかったが、イノータ殿を我が家に呼んだのは理由がある」
「理由? 子豚が作る物を外に漏らさないようにかしら?」
わたくしは子豚を呼んだのは、それだと思っていた。
正直、魔法の訓練に使う部屋の壁を壊したくらいで、我が家に呼ぶのはおかしい。
魔法の制御は我が家でなくても出来るし、それこそ王宮で特訓させるだけでもいい。
なのに我が家に呼んだのは、あの知識を外に流さないようにする為だろう。
「確かに、それもある。イノータ殿は色々な物のアイディアをくれる。魔弾銃しかり、あの遠心分離機しかりだ」
他にも、泡だて器とかマヨネーズとかあるわね。
「他の異世界人達にも話を聞いたが、皆持っている知識がバラバラであった」
「と言うと?」
「全員が知っているモノもあれば、専門的な知識もあった」
「少しばらつきがあると言う事ですか?」
「そうだ。ある程度の年齢まで皆同じ教育を受けて、その後はそれぞれ知識を得るようだ」
「子豚は如何なのですか?」
「イノータ殿は、専門的な知識を持っている上に、それを我らにも分かるように説明できる知恵がある」
「確かに、子豚は頭良いわね」
それは納得できた。
子豚は向こうの知識をわたし達にも分かるように、尚且つ丁寧に教えてくれる。
これは頭が良い者でなければ出来ない。
「それもあると言う事は、他にもあるのですか?」
「うむ、魔法の訓練室の件は聞いているか」
「はい」
「どのような魔法を使って壊したか知っているか?」
「そこまでは知りませんが、破壊力のある魔法を放ったのでしょう」
お父様は首を横に振る。
「それで、我が家に呼ぶのは無理があるであろう」
「・・・・・・確かに、そうですね」
では、どんな魔法を使って、壁を壊したのだろう。
お父様は顔を近づけて、それほど大きくない声量で話す。
「・・・・・・複合魔法だ」
「はっ?」
「複合魔法で壁を壊したのだ」
「そ、それは本当ですか⁉」
「間違いない。本人もそう言っていた上に、わたしも壊した所に赴き、周囲に漂っていた魔力を調べたて分かった。闇の魔力と光の魔力があったからな」
わたくしはその話しを聞いて、言葉を失った。
複合魔法。
簡単に言えば、異なる属性の魔法を融合させて使用させる魔法だ。
互いに反発するモノどうしを掛け合わせる事で、普通の魔法に比べ数倍の威力を持つ。
理論自体はもう何百年も前から出来ているが、今に至るまで使用できた者は居ない。
魔法の制御が難しく、下手をしたら使用者の身を危なくする。
だから、理論自体はあっても誰も会得しようとしなかった。
それなのに、子豚がいとも簡単に出来るとは⁉
「わたしが見た所、魔法のコントロールよりも、威力の加減が出来ないと言った所だった。なので、それが出来るように、わたしが無理を言って屋敷に連れてきてもらったのだ」
成程、つまりお父様は、子豚の実力を隠す為に、我が家に呼んだのか。
でも何となくだが、他にも何かあるとわたくしの勘がいっている。
「他にはないのですか?」
「それはだな・・・・・・・・」
お父様は手招きをする。これは耳を寄せろと言っているのだろうか?
取りあえず、耳を寄せてみた。
お父様は耳に顔を近づける。
「イノータ殿を我が家に迎えようと思っているのだ」
はっ? 迎える?
養子にすると言う事かしら?
「それは、養子にするという事ですか?」
家には跡取りのバートリお兄様が居るのに、養子を取るの?
幾ら多才だからって、養子にしたら跡継ぎで問題が起きるのでは?
「養子は養子でも、婿養子だ」
「婿養子?」
婿って言いますが、お父様。我が家に娘と言えるのはわたくししかおりませんよ。
・・・・・・・・えっ⁉ それってもしかして!
「エリザ、お前の婿として迎えるつもりだ」
「わ、わたくしの、むこですか?」
思わず訊いてしまった。
「うむ、その通りだ。そなたも気に入っておるようだからな」
「わ、わたくしは、別に気に入ってなんか、ただ、子豚に合わせているだけです」
「そう、それだ。エリザ」
お父様がわたくしを指差す。
「はい?」
「そなたが人に合わせる時点で、イノータ殿を気に入っている証拠だ」
「そ、そんなことは・・・・・・・あるかもしれません」
正直、わたくしが口が悪いので、男性にはどうも好かれていない。
逆に女性には何故か人気がある。良く分からないけど。
子豚は、わたくしがどんな事を言っても平然としているので、つい色々な事を言ってしまう。
言った後、これは傷つくだろうなと思っても。本人は全然気にしていないのだ。
耳が悪いのかしらと思ったが、違った。
わたくしの口が悪いのも個性だと思って受け入れているのだ。
つい、嬉しくて世話を焼いてしまう。
「という訳で、エリザ、敵は多いが頑張れ。父は応援する」
「え、ええ、ありがとうございます」
具体的に言えば、今呼んだ三人だ。
子豚を花も恥じらうような笑顔を浮かべて見ていたのに、わたくしを見た瞬間、顔を鬼のような顔にするのだ。
そんな顔をする時点で、あの三人が子豚に好意を持っているのが分かる。
「子豚がわたくしの事を好きになるように、努力します」
「うむ。その意気だ」
コンコン。
話しが終ったと同時に、ドアがノックされた。
「何事だ?」
「大旦那様、王宮より使者が参りました」
「使者が? 通しなさい」
お父様がそう言うと、部屋に官吏がやってきた。
「王宮に何かあったのか?」
「はっ、本日未明に、獣人族、天人族、竜人族、鬼人族、亜人族のそれぞれ軍が我が領内に侵攻を開始したそうです!」
「そうか、ついに来たか」
「はっ、侯爵さまとエリゼヴィア団長とこの屋敷にいる異世界人達は大至急、王宮へ来られたしと王様が申しておりました」
「分かった。ご苦労であった」
使者の人は一礼して、部屋を出て行った。
「お父様」
「うむ。客間に向かうとしよう」
わたくし達は客間に向かった。




