第92話 あっ、一つ大事な事を忘れていた
数日後。
王都攻略という大仕事を行う為に王都近くに集結せよという伝令を送り、僕達も行軍を開始した。
総勢数十万の軍勢が行軍するのを見て、進路近くにある都市や城などは慌てて武装解除した。
その後の処理とかで時間は掛かりはしたが、行軍自体には問題は無かった。
そして、今日。王都近くにある『ドラゴニア平原』に到着した。
「ようやく着いたな」
馬車に乗っている僕は窓から平原を見た。
平原には多くの陣地と旗が立っていた。
「あの旗。っち、うちの旗もあるな。しかも、現当主だけが使える『違い剣』の旗か。親父も来ているのか」
そう言うのは一緒の馬車に乗っている母さんだった。
沢山ある旗の一つを見て顔を顰めていた。
「むっ。しかも赤地に『扇の下に蓮の花』の旗まである。あのクソ婆も居るのかっ」
最悪だという顔をする母さん。
ああ、何か分かるかも。セクシャーナトさんと母さんって相性悪そうなんだよな。
そっちは良いとして問題は。
「いい加減、御祖父さんに謝りなよ」
「ふん。誰が、あんな親父に頭を下げるか」
頑固だな。此処は仕方がない
「じゃあ、向こうが下げたら和解するという事で」
「ふん。まぁ、考えておいてやろう」
ちぇ、言質を取らせないとは。変な所で頭が回るな。
仕方がない。御祖父さんに会わせたら何とか和解できる様にするか。
僕達が陣地に着くと直ぐに司令部に案内された。
陣地の構築と会議に行くのが面倒と言うので兄さん達は付いてこなかった。
さて、この場に集まった人達に王都を攻略の作戦の事を話さないとな。
そう思いながら歩いていると、何か空気が重いのだけど。
凄いギスギスしているのは何故だ?
「嫌ですね。作戦会議も始まっていないのにこの空気。余程、気に入らない人達が同席しているのでしょうね」
姉上はそう言いながら戦闘態勢を解かなかった。左手で僕の手を繋いだまま。
「・・・・・・」
へル姉さんは剣の柄を手に掛けていた。
フェル姉とミリア姉ちゃんは楽しそうに笑う。
「良い空気ね。いつでも戦闘になりそうな空気ね」
「きゃはは、いいくうき~」
あっ。忘れてた。この二人、戦闘狂だった。
頼むから戦闘にならないで欲しいな。
そう願いながら歩いていく僕達。
案内してくれた人が「こちらです。皆様がお待ちです」と言って手でテントを示すなり、逃げる様にその場を離れて行った。
案内されたテントには剣呑な気が出ていた。その気があまりに強いので護衛の兵が居なかった。
とりあえず、誰か入らないと駄目だよな。
誰が先に入ると目でお互いを見た。
「此処は一番年下が行くのが道理だ。という訳で行け。愚息」
「いや、そんな道理、聞いた事な、ったあああああっ⁉」
母さんが僕の尻を蹴飛ばしてテントの中に無理矢理入れさせた。
「いたた、強引過ぎる。・・・・・・って」
テントの中に入ると、何で剣呑な空気なのだろうという理由が分かった。
「・・・・・・」
「・・・・・・ふん。ようやく来たか」
ニコニコしながら座っている椎名さん。
その反対の所にお祖父さんとセクシャーナトさんやダイゴクなどが居た。
その席に末席にはユエと村松さんが居た。
村松さんは僕を見るなり小さく手を振って来た。
「・・・・・・しまった⁉」
椎名さんとユエが顔を合わせる場面を作ってしまった。
やべええ、この二人。仲が悪かった事を忘れていた。




