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第87話 勇者だ

 屋敷を空に浮かばせて進む事数日が経った。

 流石に急ごしらえの改造だった事で速度はそんなに出せないと姉上が言っていた。

 つまり、ちゃんと改造すれば高速ぐらいは出せると考えた方が良いのか?

 まぁ、そんな速い物に乗る事はないので良いのだけど。

 兄さん達が居る野営地に着くまで、僕は姉上と一緒に居た。

 というよりも姉上が僕を放さなかったというのが正しい。

 久しぶりに会えた事で嬉しいのかトイレの時以外僕を放そうしないのだ。

 風呂に入っている時には入って来なかったのは驚いた。

「前に背中を流そうとしたら、リウイに途轍もなく怒られたのでこれからはしない事にしようと思いました」

 前にそんな事があっつた時に怒ったけど、そんなに怒ったかな?

 そんなに怒ったつもりはないのだけど。

 まぁ、風呂は命の洗濯というぐらいだからな。風呂に入る時は一人でゆっくりと入りたいという思いが気持ちがあったのだろう。

「……別にいずれ一緒に入る事もあるでしょうし、あせらずともいいでしょう」

 小声で何か言っていたが気にしない気にしない。

 そんな感じで数日を空の上で過ごしていた。

「おお、思ったよりも早く着いたな」

 二階の窓から外を見ていると少し前にリリアンさん達と一緒に通った道が目に入った。

 という事なので、そろそろ野営地が見えてくる頃だ。

「リウイ」

 そう思っていると、背中から声が掛けられた。

 振り返らなくても誰なのか分かる。

 というよりも、その声の主は振り返る暇も与えずに僕を抱き抱えたのだ。

「・・・・・・なに? 姉上」

「あら? ばれましたか。声を聞いただけでわたしだって分かるとは、流石はリウイですね」

 そう言って頬ずりする姉上。

 この屋敷で僕を名前で呼ぶ人は二人しか居ない。

 その二人で僕の事を「リウイ」と呼ぶのは姉上だけだよ。

 軍団の人達は僕の事は「王弟殿下」と呼ぶ。

 これは現魔王の弟という意味を込めてそう呼んでいるのだと思う。

「で、なに?」

「そろそろ着地しますので、部屋に入りましょうね。ミリアも部屋に入っていますし」

「分かった」

 と言いつつも姉上は僕を降ろす気配が無い。

 僕を抱き抱えながら部屋に向かうつもりなのだろう。

 降ろしと言っても降ろす事はないだろうと思い、僕は姉上の好きにさせた。

 僕を抱き抱えた姉上が部屋に入ると、ミリア姉ちゃんが「イザ姉も飽きないね~」と笑いを堪えた顔で言う。

 それを聞いて当然と言う顔をする姉上。

 多分、この人は弟離れ出来ないだろうなと思うな。


 そんなこんながあって屋敷が野営地近くに着陸した。

 着陸するなり、外が騒がしかった。

「第一部隊は閣下の護衛を。第二部隊は屋敷の警備と点検。第三~四部隊は周辺哨戒。第五部隊以降は予備部隊として第二戦闘態勢を取りつつ野営地内に待機」

「「「「はっ‼」」」」

 そんな号令が聞こえて来た。

 流石は精鋭と名高い『魔導甲殻兵団』と言えた。

 姉上は茶を優雅に啜っているので、これはまだ外に出る時では無いと判断して、僕達も座ってその時まで待つ事にした。

 そうして、待っていると。

『閣下。準備が整いました。お出まし下さい』

「承知した。今、行く」

『はっ』

 部下の返事を聞いて姉上は僕を見る。

「さて、リウイ。手を繋いでいきましょうね~」

 先程と部下との会話はもっと引き締まった声だったのに、僕と話すとこの甘い声。

 差があり過ぎるだろう。

 と思いつつも相手をしないと拗ねるので仕方が無く僕は手を伸ばす。

 姉上はその手を取る。

「ははは、リウも何だかんだ言って甘えん坊だね~」

 こうしないと面倒だと分かっているのに揶揄うミリア姉ちゃん。この人は。もう。

 反論しても無駄だと思い、僕は何も言わず姉上と部屋を出た。

 部屋を出ると「ごめんごめん。ちょっと揶揄っただけだから、悪気はないから」と言いながら形だけ謝るミリア姉ちゃん。

 本当に悪いと思っていないようだけど良いか。

 そう思い、僕は空いている手をミリア姉ちゃんへ伸ばす。

 ミリア姉ちゃんは何も言わずその手を取って、手を繋いでくれた。


 姉二人挟まれながら、僕達は屋敷を出た

 塀の外には姉上の警備の兵が整列していた。

 そろそろ、手を離すかと思い力を抜こうとしたらイザドラ姉上の手に力が込められた。

 顔を上げると、手を離したら駄目と顔に書いてあった。

 仕方が無く僕は姉達と手を繋いだまま塀の外に出た。

 整列している兵士達の中を通るのはかなり勇気がいたが、仕方がないと思いながら通り抜けた。

 で、野営地に入ると。

「リウイさ~ん‼」

 向こうからジェシカが手を振ってこっちにやって来る。

 久しぶりに会ったけど元気そうだと思っていると。

「誰ですか? 貴女は?」

 イザドラ姉上が僕とジェシカの間に入ってきた。

「え、えっと・・・・・・」

「誰ですか? 貴女は?」

 僕の方は背中しか見えないが、ジェシカが言葉を詰まらせている所を見るとこれはすっごい睨んでいるのだろうな。

「あ、あなたは?」

「わたしはリウイの最愛の姉のイザドラです」

「あなたが、リウイさんお姉さんですか⁉」

「そうです。で、貴女は?」

「わ、わたしはジェシカと言います」

「そう。貴女が」

 顔を動かしてジェシカを見ると、酷く怯えた顔をしていた。

 姉上。どんな顔をしているの?

 やれやれと思いながらも、そろそろ話しに割り込もうとしたら。

「むっ」

 姉上がそう言って魔法障壁を張った。

 すると、何かがその障壁に当たり甲高い音を響かせた。

 何だ?

「人の妹を怖がらせるなんて、随分な人ね」

 誰だと思い声がした方に顔を向けると、其処には二コラさんが居た。

「ふっ、人に武器を投げるとは失礼にも程があると思いますが?」

「そんな殺気を人にぶつけておいて良く言う」

 二コラさんは腰に差している剣の柄を手に掛けながら話している。

 明らかに戦闘態勢を取っているのを見て『魔導甲殻兵団』兵達も武器を構えようとしたが、イザドラが手で制した。

 二人は何も言わず、近づいて睨み合った。

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