第85話 何とか成功だな
「ふくちゅっ」
何か、突然鼻がムズムズしてくしゃみをしてしまった。
「リウイ。どうしました? はっ⁉ もしかして、異国の風土が身体に合わない事で病気に⁉ 誰かあるかっ。今すぐに医者を連れて来なさい‼ 今すぐに‼」
「いや、外とこの屋敷の室内の温度差で出ただけだから気にしないでっ⁉」
くしゃみしただけで医者が来られても困るわ。
「そうですか? でも、無理はしないでくださいね。リウイ」
椅子に座り膝の上に乗せている僕を背後から抱き締めながら心配そうな顔を浮かべるイザドラ姉上。
今、僕達は『魔導甲殻兵団』が警備している屋敷の中に居る。
イザドラ姉上が久しぶりに僕に会えた事が嬉しくて話がしたいと言うので屋敷に連れて来られた。
丁度、話したい事があったので都合が良いと言えた。
まぁ、その間ずっっっと、僕を抱き締めていたるけどね。
良く飽きないねと思う。
「ずずず、ああ、美味しい」
ミリア姉ちゃんは我関せずとばかりに茶を美味しそうに啜っていた。
目で助けてよと訴えるが、ミリア姉ちゃんは目を反らした。
ちぇ。仕方が無いので、茶でも飲むかと思い身を乗り出してカップを取ろうとしたら。
「はいはい。お茶ですね。ん~、まだ熱いから冷ましましょうね」
そう言ってふ~、ふ~と息を掛けて僕の口の所まで持ってくる。
両手でカップを持って口を近づけて来る。これは飲ませようとしているな?
流石にこんな飲み方は嫌だと思い身体を動かそうとしたが、イザドラ姉上の胸で下がる事が出来なかった。そうしている間にもカップは近づいて来る。
「姉上。自分で飲めるから」
そう言ってカップに手を伸ばしたが、カップが遠ざかった。
「良いじゃないですか。久しぶりに会えたのですからこれくらしても良いでしょう」
「でも」
「そう言わないで、ささ、飲みましょう」
これは何を言っても無駄だと思い仕方が無く姉上が持ってくるカップに口着けて茶を飲む。
「ぷっ、リウ。赤ちゃんみたい」
思っていたけど言わないで欲しかった。
家族以外には誰にも見せられないなと思いつつも、茶を飲み終えると、僕はイザドラ姉上を見る。
「イザドラ姉上」
「うん? 何ですか?」
姉上はカップをテーブルの上に置いて僕の頭を撫でる。
「この屋敷はどうしたの?」
此処に来てから気になっていた事を訊ねた。『魔導甲殻兵団』が居るのは護衛とか万が一に備えてだと思う。それは分かるのだが、どうしてこの屋敷を守っているのか気になっていた。
「ああ、この屋敷はですね。此処に来る途中で見つけたのです。元々は何処かの貴族の持ち物だった様ですけど、わたしが見つけた時には家財道具などを運び出していた後でした。恐らく、わたしの侵攻に怯えて逃げ出したのでしょう。中を見ると中々、趣味が良かったので、そのまま接収しました。暴れない時はこの屋敷で休むようにしています」
「その警備に『魔導甲殻兵団』を当てるの?」
なんて勿体ない事を。
「うん? というか、この屋敷は何処で手に入れたの?」
「そうですね。・・・数日前に通った所にありましたね」
「どうやって運んだの?」
もしかして、あれか。
曳家みたいに『魔導甲殻兵団』の人達を使って運ばせたのか?
姉上ならやりそうだな。
「そうですね。リウイにも分かりやすく言いますと、この屋敷は動くのです」
「動く?」
「そうです。後で見せてあげますね」
微笑む姉上。
「で、リウイはわたしに何か言う事はないのですか?」
「言う事?」
何かあったか?
・・・・・・・・・・・・何か有ったかな?
首をひねっていると、姉上は僕の両頬を引っ張った。
「わたしに、無断で国を出て、手紙を送る事もしないでいた事と‼ 勝手に婚約者を作った事です‼」
「はひ?」
何の事を言っているんだ?
「あのディアーネという者だけでは無く、椎名とリリムという者も婚約者と言いましたよ。更に言えば、この国の王族とも婚約したと報告が入っていますっ。何時から、そんなみだりに女性と婚約するは何事ですか!」
「いひゃ、これにはわけが」
「どんな訳があるのですっ。もう」
これはそうとう怒っているようで、僕の頬を引っ張り続けた。
それから数十分後。
「はぁ、成程。そういう訳なのですね」
僕の説明を聞いてイザドラ姉上は怒りが解けた。
椎名さん達については前世の事は言わないで、何か気に入られて本人達が勝手に言っているだけと言い、ジェシカの件は向こうが勝手に決めた事だと言った。
「しかし、そんなに婚約話がでるなんて、リウイが可愛いからいけないのでしょうね」
僕の頬を突っつきながら言う姉上。
どちらかと言うと僕の血筋では無いかな?
魔王の息子で『八獄の郷』でも有力氏族の嫡流だからじゃないか。
「しかし、このままでは泥棒猫が大量に発生する可能性がありますね。やはり、此処はわたしが傍に居ないと」
止めてよ。そんな事をしたら二重の意味で困るから。
僕の傍に居られたら仕事がやりづらいし、魔国の宰相である姉上が居なくなったら政治が回らなくなるかもしれないんだから。
今でさえ兄上が偶にしか仕事しないから困っていると愚痴っているのに。
っと、そろそろ本題に入らなとな。
「姉上。王都への攻撃は止めて」
「何故です? 可愛いいリウイを不当に拘束したのですから、廃墟にしても足りないぐらいですよ。本音を言えば、この国の全土を焦土に変えても良い位ですけど、それはやり過ぎだと姉さんに叱られまして千歩譲って王都の廃墟いしたのですが?」
そんな理由で廃墟にされると、王都に暮らしている人達に申し訳ないのだけど。
此処はそんな事をしないように説得しよう。
「いや、占領して使うから」
「別に王都を占領しなくても良いでしょう。他の重要地点を占領しも良いでしょう」
「いや、王都を占領するのは其処でリリアンさんに王位に就いてもらう為だよ」
「うん? 話が分からないのですが?」
「リリアンさんは現国王の妹で公爵なんだ。その人に王位に就かせて、正統性はリリアンさんにあるようにするのさ。そうしたら、向こうも抵抗を止めるよ」
「・・・・・・そんなにうまくいきますか?」
訝しんだ顔をする姉上。
「少なくとも敵の士気は落ちるよ」
「・・・・・。ふむ」
「上手くいけば、この戦いを早期に終わらせる事が出来るよ」
「う~ん。・・・・・・ここは一度ソアヴィゴと話をしないといけませんね」
「兄上なら。今、この国に来ているよ」
「そうですか。だとしたら、あの手紙を見てリウイを送り込んだのかしら?」
この言い方、やはり事後報告で王都を廃墟にするつもりだったな。
どうして、この姉はこんなに過激なのかな?




