第83話 説得に行かないと駄目だよな
「・・・・・・ああ、スッキリした」
溜まりに溜まっていた不満やら思い通りにならないもどかしさを言えてスッキリした顔をする兄上。
「それは良かった」
兄上は自分が出来る事は人も出来るという考えだからな、だから思い通りの成果を出せない人を見て内心、何で出来ないのか分からなくて苛立っているようだ。
更に殆どの兄さん達が内政向きではないので余計に仕事を増やしている様だ。
流石に新しい魔法を開発したからと言って山一つ吹き飛ばしたり、新しい武器を開発したから試しに使って見たら城壁を壊すとか弁護が出来ない。兄さん達らしいと言えばらしいんだけどね。
「それともう一つお前に話したい事がある」
「どんな話?」
「これからどうするかだ。この戦争の後は処理は決まっているが、この後、どう動くべきだと思う?」
「う~ん。そうだね」
アードラ兄貴がエースパニイン王国の援軍を蹴散らしたので、当分は援軍は来ないと思うけど長引くとこの国の領地欲しさに近隣の国が援軍や軍を差し向けるかも知れないからな。
まぁ、軍を差し向けて来る可能性は低いだろうな。
何せこの国は『八獄の郷』の軍が攻め込んでいるし、その上龍になっている椎名さん達が派手に暴れているからな。
よほどの命知らずでなければ、軍を出す事はないだろう。椎名さん達の矛先が向くかも知れないからな。
だからと言ってこのまま時間を掛けては兵糧の無駄だしな。
「敵は王都近くの城塞に移動したという情報は入ってる?」
「ああ、それは聞いている。山城だそうだ。なかなか堅固で攻め落とすのに時間が掛かるだろうと報告を聞いている」
「その城塞を包囲してスティーブン一世達を出さない様にして、王都を占領すれば良いと思うよ」
「ふむ。兵糧攻めか。王都を占領するのは糧秣や武具の集積地にするのか?」
「それもありますけど、もっと良い手があるんだ」
「良い手? どんな手だ?」
「ズバリ。リリアンさんを王位に就かせるんだよ」
「はぁ? どういう意味だ?」
「ええっと、簡単に説明すると・・・・・・っ⁉」
話そうとしたら背筋がゾワゾワとした。
何事だと思い振り返ると、テントの入り口にロゼ姉様が居た。
「此処におったかっ。探したのじゃ」
「どうかしたのか? ロゼ姉上」
「先程、手紙が来たのじゃ」
「「手紙?」」
僕達はこの状況で届いたという手紙を聞いて誰が書いたのか分からなかった。
「イザドラからじゃ」
げっ⁉ まだ南部で暴れていると思ったのに。
この戦争が終わるまで会うつもりは無かったのに、どうして手紙を出して来たんだ?
「ソアヴィゴとリウイ宛てじゃ」
ロゼ姉様が僕達に封に入った手紙を渡した。
何が書かれているのだろう思い、僕は慎重に封を破り手紙を広げた。
『親愛なるリウイへ。
こうして、貴方に手紙を書くのも久しぶりですね。
懐かしいと思うのは、それだけ長く離れていたからでしょうね。
ようやく何処に居るのか分かったと思い会いに行けば、攫われたと聞いた時はその国に乗り込んで国を滅ぼそうかと思いましたよ。
でも、そんな事をしたら、可愛いリウイも巻き込むかもしれないと思い自重しました。
それで、あのディアーネという女の作戦に乗り、わたしは今王国の南部を攻め込んでいます。
後少しで王都に攻め込んで貴方を解放できるという所で、自力で脱出したと知り驚きと共に流石はわたしの弟と思いました。
貴方は昔から賢くて勇気がありましたからね。少々、考えなしの所はありましたが。
わたしの方は何の支障も無く進んでおりますので心配しないで良いですよ。
もう少ししたら会えると思いますが、その時は勝手に国を出た事と手紙を一通も送らない事についてじっくりとお話ししましょうね。
追伸
そろそろ、この国の王都の近くに着きそうです。
貴方が居ないとの事なので廃墟にしますね。
イザドラより』
最初は相変わらずだなと思いながら読んでいると、最後の追伸の所を読んで目を疑った。
はぁ⁉ 王都を廃墟にする⁉
やめてよ。そんな事されたら僕の計画が?
これは兄上が止めてもらわないとと思い顔を上げると。
「ぐ、ぐぬぬぬ・・・・・・」
兄上が手紙を見て手を震わせていた。
何と書かれているんだ?気になって背後に回って中身を読んだ。
「ソアヴィゴへ。
この手紙を読んでいる頃は、貴方は玉座に座っているでしょうね。
偶には身体を動かさないと太るかもしれませんよ。
まぁ、太った所でわたしは構いませんけどね。ダイエットしたいと言うのであれば、気が向いて暇な時だけ手伝ってあげますよ。
後、王都を破壊しますね
何でするのかと言うと思うので先に答えておきますね。
リウイを攫った上に不当に拘束したのですから、それぐらいしないと割りが合わないからよ
イザドラ』
うわぁ、これは何と言うか許可では無く事後承諾に近いぞ。
姉上も兄上が此処に居ると思ってないだろうから、この手紙を出して数日後に兄上の下に来ると言う計算で出したんだろうな。
「・・・・・・リウイ」
「はい」
「兄として魔王として命ずる。今すぐに、あの馬鹿者の所に行って説得をしてこい⁉」
「御意っ」
僕はテントを出て足が速い魔獣を用意してもらった。
その準備をしながら思った。
しかし、姉上はどうやって僕が此処に居ると知ったのだろう?
リウイが野営地について寝ている時。
ヘルミーネは弟の眠りを妨げない様に入り口で見張りをしていた。
愛用の剣を杖の様に突き刺して柄の所に両手を置いていた。
「・・・・・・あっ、イザドラ姉さんにもリウイが無事に戻って来た事を教えないと」
そう思いヘルミーネは部下に命じて紙と書く物を用意させた。
書き終えると、少しでも早く着くように足が速い連絡用の鳥型の魔獣に手紙を括りつけた。
その魔獣を空へと羽ばたかせると、ヘルミーネは一息ついた。
「ふぅ、これで良し」




