第82話 成程。流石は兄上
「どうして此処に兄上が?」
魔王になったのだから魔国に居るのでは?
そんな疑問を兄上はすんなりと答えた。
「陣中見舞いだ。戦況がどうなっているか見たいと思ってな」
それだけで来たとは思えないな。他に何かあると考えた方が良いだろうな。
「あの、今、リウイさんが『兄上』と呼んだんですけど、お兄さんなんですか?」
「そうだよ。ソアヴィゴって言って、リウイの一番上の兄さんで現魔王だよ」
「「「現魔王⁉」」」
ミリア姉ちゃんの簡単な紹介を聞いてリリアンさん達は驚いていた。
その声を聞いて兄上はそちらに目を向ける。
「そちらは?」
「僕と一緒に捕まったリリアンさんとその娘の二コラさんとジェシカだよ」
「お初にお目に掛かります」
僕が紹介するとリリアンさんが代表して一礼した。
「ふむ。話は聞いている。此度は災難であったな」
「お気遣い感謝します」
二人共、口元に笑みを浮かべつつ目が相手を値踏みしていた。こんな時まで腹の探り合いしなくても良いと思うのだけどな。
「さて、着て早々で申し訳ないが。弟と話がしたいので借りても良いかな?」
兄上が僕に話?何だろう。
どんな話をするのか気になったのもあるので話をしたいと思った。
ロゼ姉様の顔を見て、話をしても良いかな?と目で訊ねた。
姉様はコクリと頷いてくれたので、僕は兄上を見る。
「別に良いよ」
「では、行くか」
僕は兄上と一緒にテントを出た。
出る際。後ろから。
「姉貴。この二人がリウイの婚約者か?」
「まぁ、向こうが勝手に決めた事じゃがそうなっている」
「じゃあ、将来の義妹になるのか。だったら、自己紹介をしないとなっ。俺はシャイタンだ‼ リウイの兄貴だ。自慢なのはこの筋肉‼ ふん‼」
「いや、俺の筋肉の方が一番だっ ちなみに俺はアリオクだ‼」
「二人共。挨拶は先にしろ。ああ、俺はアードラメレクって言うんだ。よろしくな」
「あらあら、可愛らしい方達ね。わたし、ペイモンっというのよろしくね」
兄さん達がリリアンさん達に自己紹介をしているのが聞こえて来た。
まぁ、色々とキャラは濃いけど悪い人達ではない。何かあったらロゼ姉様達がどうにかしてくれると思うので大丈夫だろう。
そう思い僕は後の事はロゼ姉様に任せて兄上の後を追い掛けた。
兄上が陣地内にあるテントまで来た。
恐らくこのテントもリリアンさん達が使っているテントと同じく全体的に小さいが中に入ると凄い広いという物なのだろう。
そう思い、兄上が先に入って行ったので僕もその後に続いて入ると、テントの中は別に広く無かった。
「? どうかしたか?」
「いや、兄上が使うので広いのだろうなと思って」
「話をする為にそんな物を用意する意味が無かろう」
「確かに」
まぁ、そう言っても王族が使うように絨毯は敷かれているしテーブルやベッド等があった。
兄上が手近にあった椅子を手繰り寄せて座る。
「お前も座れ」
「はい」
僕も兄上の対面の所にある椅子に座る。
「久しぶりだな。親愛なる賢弟よ。お前が魔国を出て以来だな」
「その説は兄上にも迷惑を掛けました」
「ふっ。まぁ、さほどではない」
そう言う目は何処か遠くを見ていた。
そんな目をする理由は何となく分かるので訊ねない。
「言葉遊びも良いが。お前を早く戻さないと姉上が煩いからな。本題に入ろう」
「それは構いませんけど、僕は何をするのですか?」
「お前も何となく察しているだろう? どうして魔国の軍が侵攻しているのだろう?と」
「ええ、まぁ」
目的は色々と考えられるので安易に答えない方が良いだろうな。
「単刀直入に言おう。わたしはこの国を属国にするつもりだ」
「属国ですか? 飛び地ではなく?」
飛び地管理だと思っていたが、当てが外れたな。
「飛び地だとわたしの統治が隅々まで行き渡らないだろう。それを良い事にその地を任せた代官が統治に問題を起こす悪行をする可能性がある」
それは確かに。
前世でも歴史でそういう話が数えきれない位にあったからな。
「故に此処は属国にする。無論、この国の主は変える」
「誰にするのですか?」
分かっているけど一応確認の為に訊ねる。
「お前と一緒に攫われたリリアンだ。話に聞いているが、国を出る前は公爵だったそうだな。ならば、国を治める事に問題は無いだろう」
「成程。そうですね」
「で、将来的にはこの国はお前が治めるのだ」
「僕がですか?」
「そうだ。これを機に魔国に帰って来たらどうだ。お前の才能は野に埋もれさせるのは惜しい」
「そのお言葉はありがたいのですが」
「それに、お前が居るとイザドラも落ち着くだろう」
重い溜め息を吐く兄上。
「・・・・・・そんなに問題を起こしているのですか?」
「ああ、気が乗らないと言って仕事はサボる。重要な会議を出たくないと言って何処かに行く。挙句の果てには『こんな事もわたしに頼らないと出来ないのですか? それで良く魔王に成れましたね?』と嫌味を言ってきたのだぞ。あいつはっ」
あっ、スイッチ入たな。これは。
兄上は普段は冷静だけど、いったん愚痴ると止まらなくなるんだよな。
まぁ、そんな所があるから仲良く出来るんだよな。
「別にあいつにだけ仕事を任せている訳ではないっ。だが、政務とが出来る弟があまりに少ないからこうしてわたしがしているだけだ。妹達もはっきり言ってそういう方面の才能はないから、余計に仕事を回してくる。ミリアリアなんぞ、この前手に入れた武器の試し切りとか言って城壁を壊したのだぞ。あの時、笑顔で『ごめん。兄貴。城壁を壊しちゃった』と舌を出しながら自分の頭を小突いた姿を見た時は殺意が湧いたわ‼」
「心中お察しします。兄上」
「ああ、お前といると色々な意味で落ち着く。こうやって愚痴を言っても誰にも言う事は無いから信頼できる。正直な話、わたしが魔王になった時はお前を宰相に抜擢しようと思っていたのだぞ」
「そうなのですか?」
そんなに気に入られていたんだ。
何時だったかこうして愚痴を聞いて以来、偶に話を聞く位しかしてないのだけど。
「本当だ。殆どの弟達は脳筋だからな、わたしが言っている事も半分も理解できない頭しか持ってないが、お前はわたしの意図まで読んで行動するからな、その時点で腹心の部下達と同じ位に信用できるからな」
「はぁ、それはありがとうございます」
「ふんっ、脳筋共にもお前の聡明さが万分の一でもあれば、わたしは此処まで苦労しなかったものを。アードラと言ったら」
兄上の愚痴は続いていた。
僕は黙って兄上の愚痴を聞いていた。勿論、時折相槌を打つ事は忘れない。
ソアヴィゴとリウイが話をしている頃。
「「「「へ、へぶしょん‼‼‼」」」」
アードラを含めたソアヴィゴが言う脳筋達がくしゃみをしていた。
「どうしたの? 身体を冷やした?」
「いや、何か突然、鼻がムズムズして」
「俺も」
「俺もだ」
「誰かが、噂していたりして」
「俺達を? 誰が?」
「きっと、敵が俺達の強さを噂しているのだろう。兄者」
「成程。そうかもな」
くしゃみをした理由をそう決めた脳筋達。
それを聞いてペイモンは処置なしと言いたげな顔で首を横に振っていた。




