第78話 ああ、兄貴らしいな
「しっかし、こいつらを追い駆けた先にお前に会うとはな。俺も運が良いぜ」
「そうだね。僕もそう思う」
オル兄ちゃんは追い駆けている盗賊達を振ん縛りながら話してくる。
「ところで、どうして盗賊を追い駆けていたの?」
「ああ、それはな」
何を言われたか知らないが、未だに怒っているオル兄ちゃん。
盗賊の一人を蹴りながら話す。
「こいつら、俺達が横切ろうとした村に略奪しようとしたんでな。まぁ、見逃すのも後味悪いから潰そうとしたんだがよ。その時、こいつら俺を見るなり『ガキ』とか『さっさと母ちゃんの元に帰んなっ』とか言いやがった」
ああ、それで追い掛けたと。
子供扱いされるのが嫌いだからな。オル兄ちゃんは。
「ところでよ。お前の後ろに居る二人は何だ?」
そう言われて後ろを見るとリリムとリュウショが臨戦態勢をとっていた。
「ああ、リリム。大丈夫だから、武器を解いて」
「・・・・・・分かりました」
リリムは戦闘態勢を解いた。
オル兄ちゃんはリリムをジロジロと見る。
「何だ。その二人は?」
「ええっと、この大陸で出来た部下です」
「へええ、強そうだな。お前って部下を手に入れる運が強いな」
「そうかな。はっはは」
前世からの部下と言われても信じられないだろうな。
「リウイ様。この方は?」
「僕の兄だよ。オルヴェンドって言うんだ」
「ああ、そうでしたかお兄様でしたかっ」
リリムがニコニコしながら近付く。
「わたしはリウイ様の一番の部下のリリムと申します。どうぞ、よろしくお願いします。オルヴェンドお義兄様」
「お、おお、よろしく」
リリムの勢いに押されるオル兄ちゃん。
「気のせいか? 何かイザドラ姉貴と似ている気がする」
う~ん。何か分かるかも。
「あの、もう大丈夫ですか?」
何の音も聞こえてこないので馬車の窓からジェシカが顔を出した。
「あん? 誰だ?」
「えっと、一緒に攫われた女の子だよ」
「ふ~ん。どれどれ」
オル兄ちゃんは馬車へと向かう。
ジェシカをジロジロと見ていると、二コラさんが顔を出した。
「ちょっと、妹に何の用?」
「別に良いだろう。ところで、お宅は?」
「この子の姉よ」
「ほうほう、成程」
オル兄ちゃんが何か納得していた。
そして、僕に顔を向ける。
「この二人があれか? お前の婚約者?」
「ぶっ⁉ な、なにをとつぜん」
「だってよ。一緒に攫われたのは確か婚約式をする為だって聞いたぞ」
「ど、何処でそんな情報を⁉」
「えっと『鳳凰商会』の奴らがそんな事を言っていたぞ」
おお、商会の情報網を侮っていた。
考えてみれば、リリムが僕の部屋に忍び込む事が出来た。という事はそれだけ王宮の内部構造が分かるくらいに情報を持っているという事だ。
「しかし、お前ってこっちの大陸に来てから色々な女に求婚されているんだって、大変だなっ」
ケタケタと笑いながら言うオル兄ちゃん。
人事だからそう言えるんだよな。
「あの、リウイさん。この人は?」
「腹違いの兄で名前をオルヴェンドと言います」
「どうも。魔王の十五男でリウイの兄のオルヴェンドって言うんだ。よろしく」
馴れ馴れしく挨拶するオル兄ちゃん。
「あ、初めまして。わたしはジェシカと言います」
「わたしは二コラと言うわ・・・・・・って、ちょっと待って。今魔王とか言わなかった?」
「ああ、言ったぜ」
「という事は貴方は魔王の息子?」
「そうだぜ」
「じゃあ、リウイ君も魔王の息子」
「そりゃ、そうだろう。何だ、言ってなかったのか?」
「うん。母さんの家がこっちの大陸にある鬼人族の国でも名家の出だからそれだけでも十分だと思ったから」
「ああ、それも聞いたぜ。しっかし、あのお袋さんが名家の出と聞いて驚いたけどな」
「それは分かる。正直に言って、母さんがそんな良い所の出なんて誰に言っても信じてもらえないと思うな」
「確かにな~。ああ、お前のお袋さんも来ているのは知っているか?」
「ああ、うん。聞いてる」
というか、この国でも恐れられるなんて母さんは何をしたんだ?
「兄さん達はどれくらい来てるの?」
「一人を除けば全員だな。いや、今はもう一人居るか」
「? つまり二人? 誰と誰?」
兄さん達はどちらかと言うと好戦的な人が多いので喜んで参加すると思っていた。
「ソアヴィゴ兄貴とアードラ兄貴だ」
「ソア兄上は分かるけど、アードラ兄貴も?」
あの人なら豪快に笑いながら戦場を暴れまわる姿が目に浮かぶのだけど。
「ああ、何かこの国に着て少し暴れた後『何かこっちから強そうな奴の気配がする』って言って自分の麾下の軍団率いて別行動して、少ししたら軍団だけ戻って来たぜ。軍団の指揮する副官が言うには、新しく手に入れた龍の試し乗りして来るって言って、南に行ったそうだぜ」
ああ、うん。兄貴らしいな。
どうせ、しばらくしたら戻って来るだろうから放っておくのが一番だな。




