第70話 これはもう降伏した方が良いのでは?
リリムが僕の下に来てから数日が経った。
色々な所に忍び込むリリムのお蔭で沢山の情報が入って来た。
王国最大の港湾都市である『ニカモルアップルパイン』が陥落した事で東部戦線は防御線をかなり後退する事となった。
西部の戦線は軍団が壊滅状態で、魔人族の侵攻を止める事が出来ないそうだ。
途中にある都市や城などには使者を送り「降伏か抗戦か選べ」と言っているそうだ。
勿論、全ての都市と城は降伏を選んでいる。
武装解除させると、後はそのままにして王都へと向かっているそうだ。
北部に居る龍は都市や城に通りかかっても攻撃などしなければそのまま通り過ぎるそうで、その話を聞いた都市や城は武装解除して龍を通り過ぎるのを祈っているそうだ。
ただ、南部の方はちょっとやり過ぎかな。
南部に居る龍は進路上にある都市や城などは迂回などしないで全て破壊するそうだ。
イザドラ姉上らしいといえばらしいのだが、流石に無関係の人達が傷つくのはちょっとな。
更には渡来人達が姉上の下に行ったそうだが、姉上の姿を見るなり逃げ出して一人だけ戦おうとしたら、吐息で蒸発して死んだとかいう、嘘だろうと思える情報も入って来たのは耳を疑った。
まぁ、その姉上の姿を見て以降は戦意を無くしたそうで、皆大部屋に引っ込んで外に出ようともしなくなったそうだ。
その手に入れた情報を元にして、僕はリリムが手に入れて来たこの国の地図を見ながら現在の状況を描いている。
「ふむ。東部、南部は遅れ気味だけど、このまま進んでいけば、程なくして王都に到達するか。西部と北部はどっちが先に着くかな? ちょっと予想は出来ないな」
地図を見ながら皆の侵攻ルートを書き足していく。
「しかし、この国って四方が海で陸地には七十余り城があるんだ」
リリムは軍事機密が書かれた地図を手に入れた様で城の名前が書かれており、規模、備蓄している糧秣、城に配備されている兵士の数など書かれていた。
最も今回の侵攻には全く役に立っていないが、こういう情報を手に入るのは悪くないな。
「しかし、此度の侵攻で殆どの城は降伏、又は陥落しております。そう遠くない内に王都は陥落するでしょうね」
リリムはテーブルにティーカップを置いてくれた。
僕はカップを取り中身を啜る。
うん。適温だ。温くなく熱くも無い。それでいて渋味も甘みを感じる事が出来る。
「やっぱり、リリムが淹れる茶は美味しいな」
転生前は良く飲んでいたな。
「ふふ、そうですか。何せ、リウイ様に散々指導されましたから」
「そうだっけ?」
「もうお忘れですか? それはもう厳しく指導したというのに」
何かよよよっと泣き崩れるポーズを取り出すリリム。
そうだったかな?
流石にそこまで覚えていないな。
転生してからというものの大抵の記憶はあるのだけど、どうもどうでも良い事は忘れているようだな。
実際の茶の事情。
「温い」
ボルフォレがそう言うと、リリムが直ぐにボルフォレの手に中にある茶器を取る。
「直ぐに淹れなおします」
「いや、もういいだろう」
「何を言っているの。イノータ様にお出しする飲み物になるのですから、美味しいと言えるモノをお出ししないと駄目でしょうっ」
「その気持ちは分かる。だが」
ボルフォレは腹をさする。
まるで、お腹いっぱいに食事したみたいに膨らんでいた。
その場にはリッシュモンド以外の『十傑衆』の者達も居るが、皆お腹をパンパンに膨らませて横になっていた。
「もう何十杯も飲んでいるのだから、流石にきついのだが」
「後少しでイノータ様好みの温度が分かるのです。後少しだけ付き合いなさい」
「鬼か。お前は?」
「? 混血児ではあるけど鬼人族の血は引いてないわよ」
ボルフォレの言葉の意味が分からず、首を傾げるリリム。
余談だが、リリムの訓練で腹が弾けそうな位に茶を飲まされた事で訓練に参加した『十傑衆』の者達は茶が嫌いになった。




