閑話 誰がそんな話に耳を傾かせるか
今回はユエ視点です
ハノヴァンザ王国の領海に入り数日が経った。
わたしは『八獄の郷』の連合軍の旗艦の中の看板に居た。
王国最大の港湾都市である『ニカモルアップルパイン』が目と鼻の先の所にわたし達は居た。
陸地が目の前にあるのに、揺れている海の上に居るので今回動員された兵士達は流石にストレスを感じている者は居るだろうが、病気に罹っている者は少ない。
今回は長期の戦になると予想していたので、わたしは鎖を用意していた。
それを船同士に繋ぐ事で船の揺れを最小限にした事で船酔いになる者は居ない。それでも、慣れない気候と言う事で病気になる者は居たが、それぐらいは問題ない。
優秀な医者は数百人用意しているので、時期に良くなるだろう。
まぁ、今はそんな事はどうでも良い。今問題なのは、敵の反応が不可解な事だ。
船を出す様子もないが、陸地には上げさせない為か沿岸には逆茂木を置き兵士を配備して守っている。
交渉で撤退させるつもりか? もしくはわたし達を足止めさせて他の戦線の出来るだけ早く戦いを終わらせるつもりか?
情報が不足しているので分からない。
全く、わたしの伝手で王国に入り込んだあの半端女は何をしているんだ。
どうにもあいつは好かん。腹で何を考えているのか分からず、それでいてリウイの意思を尊重する態度。更にはリウイに自分以外の女を目をいかせないようにする腹黒さ。
ああ、思い出すだけで腹が立つ。
「どったの? ディアネン。何か怒っているようだけど?」
「ああ、セナか」
盟友であるセナがわたしに話し掛けて来た。
「なに、あいつの事を思い出してな」
「あいつ? ああ、リリ姉の事か?」
こいつは地頭が良いのか話していて、いちいち説明しないで良いから楽だ。
「ふん。椎名が生きていたのは、驚きはしたが想定内だった。だが、リリムの方は予想外でな」
あいつ。どうやって、リウイがノブだと分かったんだ?
何かの魔法でも使ったか? それともノブが思わず口を滑らせたか?
まさか、あいつがリウイと行動を共にするとは予想すらしなかった。性格も嫌いだし、馬は合わないがノブに対する忠誠は誰よりも強かった。
なので、傭兵などはしても誰にも仕えないだろうなと思っていた。それがまさか、リウイに仕えるとは。ええい、こんな事ならわたしの手元に置いておくべきだったっ。
「顔が怖いよ。スマイル、スマイル」
そう言って口角を指で上げて笑うセナ。
ふう、何かこいつと話していると大抵の事が馬鹿馬鹿しく思ってしまうな。まぁ、だからこいつとは友達になったんだろうな。
「ところで、わたしの所に来たのは何かあったのか?」
「ああ、そうそう。ハノヴァンザ王国から使者がきたんだ。総大将と話がしたいって」
「来るのが随分と遅いな」
この港湾都市の領海に入ってから数日は経ったぞ。
もう少し早く来ても良いだろうに。
これは王国内部は相当揉めていると思った方が良いな。
「わたしもその交渉の場に参加しろという事か?」
「そっ。良いでしょう。今回の戦のオブザーバー兼支援者なんだから」
「まぁ、良いだろう」
向こうがどんな言い分を言うのか聞くのも楽しみだからな。
旗艦の中にある会議室。
其処で交渉が行われる事となった。
今回の連合軍の総大将であるカリショウ殿が上座に座り、その左右の席には今回の戦に参加する将軍達が居た。人伝なので顔は分からないが、その中にはリウイの叔母の夫つまりは義理の叔父が居るとの事だ。わたしとセナは末席に座る。
そうして、座っていると。
『ご使者殿をお連れいたしました』
「うむ。通せ」
扉越しに使者が来た事を告げる兵士に入室を許可すると兵士と共に官服を着た者が入って来た。
その者は部屋に入るとカリショウ殿に一礼した。
「お初にお目に掛かります。わたしはハノヴァンザ王国の臣ジェイコブ・フォン・ブルジトスと申します」
「儂が此度の軍の総大将のカリショウ・ラサツキだ。使者殿は何の用で来たのだ?」
「はい。この度、わたしがこちらに参ったのは、友好を結ぶ為です」
「友好?」
カリショウ殿は眉を顰めた。
そんなカリショウ殿に気にせずジェイコブは話を続ける。
「我が国と貴国とは何の恨みもありません。それが、奇妙な縁で貴国が軍を差し向ける事になりました悲しい事です。我らの国王は貴国とは戦をするつもりはありません」
「そうか」
カリショウ殿は頷いて話の続きを促した。
「其処で二度とこのような事が起こらない様に不可侵条約を結び尚且つ、国王陛下の姪と貴方様の孫を婚約させるというのは如何でしょうか?」
むっ。
「儂の孫は無事なのか?」
「ええ、傷一つ付けておりません。どうでしょうか? この話を受けて頂けますか?」
「ふ~む。そうだなっ⁉」
カリショウ殿が驚いた顔でわたしを見る。
「・・・・・・少し考えたいので、使者殿は別室にてお待ちを。直ぐに返事はするので」
「畏まりました」
ジェイコブが一礼して兵士と共に部屋から出て行った。
「ふぅ、皆の者。先程の話をどう」
「語るに落ちたりとは正にこの事」
「うん? ディアーネ殿。どういう意味か?」
「カリショウ殿。向こうは勝手にリウイを攫い、そしてこちらの意見など聞きもせずに婚約させるのです。それはつまり、カリショウ様達の国を侮っている証拠です」
「我らを侮っているだとっ⁉」
「何故、そう思えるのだ?」
「リウイ殿が攫われてかなりの月日が経ちました。それなのに、我らが攻め込んで来たら慌てて先程の様な事を言いだしたのです。つまりは、危機が迫らなければリウイ殿の事などどうでも良い存在だったという事です」
「むう、確かに」
「我らを侮っていると言われても納得できるな」
「更に言えば、婚約したからと言ってリウイ殿を返すとは言っておりませんでした。条約が結ばれたら返さないつもりかもしれません」
まぁ、そんな事はないと思うが少し揚げ足を取らせてもらうか。
「言われるとそうだな」
「ぬううっ」
カリショウ殿が唸っている。これは成功したな。
「ですので、此処は断るべきです。『八獄の郷』の恐ろしさをかの国に教えるべきです」
「うむ。その通りだ。皆の者もそれで良いな?」
カリショウ殿がそう尋ねると、皆頷いた。
くくく、これで良し。
その後は使者を呼んで、話を蹴った。
そして『ニカモルアップルパイン』へと侵攻を開始した。
風向きは東風なので火計に掛かる事は無い。
まぁ、諸葛亮みたいに祈祷で風向きを変えれるのであれば別だがな。
ユエが熱弁を振るっている姿を見たセナは。
「何か凄い熱が籠った弁舌だな~」
とユエのの熱弁を驚きながら聞いていた。
そして、熱弁を振るうぐらいに気に入っているんだと思った。




