第46話 偶には休もう(裏)
村松瀬奈視点です。
部屋に朝日が差し込むので、あたしは目を覚ます。
「ふわぁ、・・・・・・良く寝た」
ベッドから下りたあたしは、まずは洗面所で顔を洗い眠気を覚ます。
そしてドレッサーにいき、この世界の化粧用品でメイクをする。
と言っても、する事はオリーブオイルと卵黄を香水を混ぜて作られた物を顔に塗るだけだ。
これをするだけで、肌がノリが格段に違う。
本音を言えば、元居た世界の化粧品でお肌の手入れをしたいのだが、この世界にはないので、我慢するしかない。
「メイドさんが言うには、あたしが使っているこの世界の美容化粧品の中では高級らしいけど、元居た世界の化粧品に比べたら、天と地の差があるな~」
まぁ、そんな贅沢言えるのも、元の世界の化粧品がどれぐらい凄いか知っているから言える事で、この世界の人からしたら、これしか知らないのだからそんな事を思いもしないだろう。
メイクを終えると、あたしは寝間着から制服に着替える。
ちなみに、この寝間着はあたしが肌にあう生地をで、あたしの身長に合わせて作ってくれた。
確か何とかフライの幼虫が出す糸から作られたと言っていた。
虫の糸と言う事だから、絹みたいなものだろと思う。
人肌みたいにスベスベで、あたしの肌にあったので使っている。
制服に着替えると、あたしは襟が変になってないか確認して部屋を出る。
「今日はどうだろうな~」
独り言ちながら、食堂に向かうあたし。
昨日も酷かったが、今日はどれぐらい酷いだろう。
そう思いながら、食堂へ歩く。
食堂に着くと、もうかなり酷い事になっているのが分かる。
だって、扉を開ける前から、とんでもない殺気が部屋から感じるんだよ。
これはかなり酷い状況だと予想できた。
「うわぁ、朝ご飯くらいは静かに食べれ無いかな、あの三人」
男の子が一人居ないだけで、あんなに変わるとは正直、あたしも想像できなかった。
こんな空気の中、ご飯を食べても美味しくないだろうけど、お腹が減っているあたしは仕方がなく食堂に入る。
(まぁ、気持ちは分かるけどね。あたしも好きな人から離されて、今何をしているか分からないから、心配なのは分かる。分かるけどさ)
扉を開けると、もう空気が重かった。
皆、ビクビクしながら食事をしている。
一部そんな空気を読まないで、平然としている人も居るが、殆どのクラスメート達は怯えている。
原因は、言わずもがなイノッチを狙っている三人だ。
特にゆきなっちだ。
笑顔で朝食を取っているのに、背後に般若が見えるのだ。
その般若は今にも誰かに襲いかかりそうなくらい、殺気だっている。
それに加えて、ユエッチも怖い。
別に背後にスタ○ドなどを出している訳では無い。
のだが、纏っている空気があまりにもピリピリしている。
まるで、触れれば切れるジャックナイフのようだ。
更に空気を重くしているのが、サナダッチだ。
敢えてなのか、食器を苛立たしげに扱っている。
それにより、キンキンガリガリと不愉快な金属音を立てる。
もう見るからに、不機嫌さを隠そうとはしていない。
明らかに、これは何でもいいから憂さ晴らしさせろと言っているサインを出している。
ゆきなっちもユエッチは、サナダッチを無視しながら食事している。
あたしは深い溜め息を吐く。
(イノッチが居ないだけで、こんなになるなんて・・・・・・)
あれは数日前だった。
イノッチが魔法を使えるようになった翌日。
何か凄い大きな音がしたので、その音で起きたあたしは化粧もしないで、部屋を出た。
敵が攻め込んで来たのかと思ったからだ。
音のした所に向かうと、そこにはイノッチとサナダッチ達が居た。
イノッチ達は穴があいた壁を呆然としながら見ていた。
何があったのか、事情を聞いたら、イノッチの魔法で壁に穴をあけてしまったそうだ。
あたしはそれを聞いて、思わず「はぁ⁉」と言ってしまった。
この部屋は使った事はないが、魔法の訓練用の部屋なのだから、大抵の魔法では穴をあける事など出来る訳が無い。
それなのに、魔法を取得したばかりのイノッチが放った魔法で穴があくなんて、有り得ない。
この音で、王宮にいる者達が来るだろう。
イノッチは事情を親しくしいているこうしゃく? とやら元に行くそうだ。勿論、三人も一緒に付いて行くそうだ。
あたしは取りあえず、現場を荒らされないように、ここで誰も通さないようにする事にした。
イノッチ達がこうしゃくとやらに会いに行った数分後。
音を聞きつけて、兵士やら騎士やらクラスメート達がうじゃうじゃと押し寄せてきた。
あたしは中に入らないように、扉の前に立ち、事の次第を話す。
それを聞いて、皆有り得ない物を見たみたいな顔をする。
とりあえず、誰も部屋の中に通さないようにしていたら、イノッチ達がこうしゃくを連れて来た。
こうしゃくがイノッチ達と一緒に部屋に入る。
その際、こうしゃくは穴があいた壁を見ながら、ブツブツ呟いていた。見ていて怖かった。
直ぐに、会議が行われ、上層部はイノッチが魔法を制御できるまで何処かに隔離する事に決定した。
これを訊いて、あたしとサナダッチ達は抗議したが、聞き入れてもらえなかった。
イノッチは即日、何処かに護送された。
護送される際、檻車じゃなくて普通の馬車で良かったと思った。
王宮内の施設を壊したのだ、不敬罪とかで、檻車に入って罪人のような扱いで隔離されるのではと思っていた。
それに、イノッチが檻車に入っていたら、何処からかドナ〇ナが掛かりそうだ。
イノッチが居なくなってから、最初の三日間は良かった。
三人共、静かにしていた。
いや、よく考えると、その時からゆきなっちは笑顔しか浮かべてない気がする。
三日過ぎると、段々酷くなっていった。
今では、ご覧の通り、何もしていないのに殺気が零れ出している。
イノッチが居ないのをチャンスと思った男子が何人も居たが、皆声を掛けて数秒後に悲鳴を上げて逃げ出した。
あまりに怖くて、思わず逃げだしたと声を掛けようとした者は語った。
そんな訳で、今あの三人には誰も触れようとはしない。
皆、まるでニトログリセリンを扱うかのように、三人を扱っている。
あたしも三人から、離れた席に座り朝食をとる。
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朝食を食べ終え、あたし達は訓練を行なった。
今日の訓練は、勝ち抜き戦方式で行うそうだ。
魔法は傷がつく程度の威力であれば使用可能で、得物は訓練用の刃のない槍か剣のどちらかだそうだ。
ちなみに、今日の訓練相手は近衛兵団の精鋭部隊だそうだ。
最初は誰が行くだろうと思っていたら、ゆきなっちが最初に出た。
対する相手は男だ。
見た感じ、それになりに出来る男と思う。
(ゆきなっち、いきなり手強いのがきたねぇ)
ゆきなっちの主武器は弓だ。
だから、接近戦は苦手なはずだ。
持っている得物も、短い剣を二本だ。
対する相手は長剣だ。
リーチの差では負けているので、どんな戦い方をするか楽しみだった。
しかし、いざ試合は始まると、ゆきなっちが目にも止まらない速さで駆けて、相手の男を倒した。
(えっ、何をしたの?)
そのあまりの早さに目が追い付かなかった。
勝ち抜き戦なので、ゆきなっちは休む間もなく、次々と相手と戦い破っていった。
あっと言う間に、精鋭部隊が全員戦闘不能になってしまった。
「あ、あ・・・・・・がっ、・・・・・・・・」
「ば、ばかな・・・・・・・・われらは、このえ、へいだん、のなか、でもせいえいといわれる、ぶたいだぞ、いくら、いせかいじんたちが、つよくても、こんな、あっさり、やぶれる、はずが・・・・・・」
精鋭(笑)部隊の人達は呻きながら、自分達が負けた事を受け入れないようだ。
その姿はまるで、精神を病んだ病人ようだ。
ゆきなっちはつまらなそうに溜め息を吐いた。
「・・・・・・これで、終わり? つまらないわね」
ゆきなっちの背筋がこおりそうなくらい冷たい声が、訓練場にやけに大きく響いた。
皆も、その声を聞いて背筋が寒いのか、震えあがっている。
「つまらないか。自分だけ楽しんでよく言う」
そう言ったのは誰と思い、あたしは声をした方に首を向けた。
言ったのは、ユエッチだった。
ユエッチは何処から出したのか、自分用の得物である方天画戟を肩に乗せている。
(って、それ訓練用の武器じゃなくて、実戦用じゃん⁉ 何を考えてるの。ユエッチ‼)
そう思っている間に、ユエッチは方天画戟の切っ先を、ゆきなっちに向ける。
「そんなに相手が欲しいなら、わたしがしてやろう。どうだ?」
「・・・・・・・・良いわ。もう少し体を動かしたいと思っていたしっ!」
ゆきなっちは持っていた得物を投げ捨て、何処に仕舞っていたのか大きな鉈みたいな物を出してきた。
「張さん、前から思っていたけど、わたしは貴方の事がとても嫌いなの」
「奇遇だな。わたしもだ」
二人は得物を構える。
「猪田君にベタベタ引っ付いて、わたしの邪魔ばっかして‼」
「それはこちらも言える事だ。ふん、それにお前の悪趣味に比べたら、わたし方が可愛いものだろう」
「悪趣味? わたしのしている事を悪趣味っていったの?」
「ああ、そうだ。どう見ても、悪趣味だ」
ゆきなっちの目に光が、光が宿ってないぃぃ!
ハイライトのない目でユエッチを見る。
「貴方みたいに姑息な事をする、腹黒女に比べられるのは、こっちから願い下げよ‼」
「姑息、わたしのしている事が姑息とな・・・・・ふっふふふふ」
ユエッチが顔が笑ってないのに笑い出した‼
「そうよ。十分に姑息でしょう。ふふふふ」
「「ふっふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ‼」」
ふ、ふたりの笑いが重なった!
こ、これはかなりやばいのでは。
二人は笑顔で武器を構える。
「「くたばれ! 邪魔者‼」」
二人は同時に駆けて、武器を交えた。
互い武器がぶつかる度、衝撃が来てあたりにいるものを吹き飛ばす。
何とか踏ん張り、吹き飛ばされるのを耐えるあたし。
「こ、これは、止めないとだめかな?」
二人の中に入って止めるのは、命を捨てるようなものだ。
でも、止めないともっと被害が広がる。
どうしたら良いだろうと、頭を悩ますあたし。
「まったく、二人共。訓練中なのに、自分の憂さ晴らしに暴れたら駄目だよ」
この声は、サナダッチだ。
サナダッチの声を聞いて、二人は動きを止める。
(おおっ、流石サナダッチだ。伊達に付き合いが長いだけじゃない)
そう思い、サナダッチを見ると、右手に何か手を守る物が着いた剣と、左手に短い剣を持っていた。
よく見ると、それはこの前の実戦訓練で持っていた武器じゃん!
「あたしも憂さ晴らしをしたいのに、二人がこうして暴れたら出来ないじゃない。どうするつもりなの。二人共?」
「ふん、マイ、憂さ晴らしがしたいなら、そこにいる変態悪趣味女に相手をしてもらえ」
「真田さん、相手が欲しいなら、そこの姑息な事しかしない腹黒女の相手をしてもらったら、どうかな?」
二人はそう言って、睨み合う。
そんな二人を見て、サナダッチは溜め息を吐く。
「二人共、いい加減大人になりなよ。そんな子供っぽい所があるから、ノッ君を自分の魅力で落とす事が出来ないのよ」
「「なんだと(ですって)!」」
ああ、二人の怒りの矛先が、サナダッチに向いたぁぁぁ‼
こ、これは先程よりもマズイ。
「マイ、お前とは長い付き合いだ。そろそろ白黒はっきりつけようじゃないか」
「いいね。それ乗った!」
「ふっふふ、二人共、わたしが居るのも忘れないでね」
三人は睨み合い、少しの間だけ沈黙が訪れた。
「「「・・・・・・・・っ」」」
三人はほぼ同時に駆けて、自分の得物をぶつけあった。
その三つ巴の戦いは、先程よりも酷い光景を生み出した。
あたしはそれを見て、こう思った。
(イノッチ、早く戻って来てよ。じゃないと、王国軍が戦争が始まる前にボロボロになるかもしれない)
あたしは好きな人が早く戻ってくるように祈った。
其の後、三人を止める為、近衛兵団が総動員され、兵団の半数が戦闘不能になりながらも、三人を止める事に成功した。ちなみに男子のクラスメート達も何人か参加したが、全員やられたそうだ。
あまりにも多大な被害が出たので、三人は暫く自室で謹慎してもら事になった。
この話が瞬く間に、王国軍に広まり軍内部では三人の事を『不可触の鬼姫達』と言われるようなったそうだ。
後日、本人達がそんな渾名をつけられたのを知って、王国軍の部署を駆けまわって、そんな渾名をつけた奴を虱潰しに探したそうだ。
それにより、何百の人達が血祭りになったそうだ。合掌。




