閑話 ???から見た光景
今回はとある渡来人視点です。
主人公が転生する前の知り合いの血縁です。
異世界に転移して最初に思ったのは、此処が子供の頃に父さんが寝物語に語ってくれた異世界なんだと思った。
とある高等学校の入学式の当日。
俺達は校長の話を聞いていると、足元に魔法陣が浮かび上がった。
その光景に驚いていると、光が強くなった。
その光の強さに目を瞑った。やがて、光が止むと目を開けた俺達は先程まで居た講堂とは別な所に居た。
石造りの部屋の中に俺達を呼んだと思われる魔法陣があった。
その傍には沢山の人達が居たが、特に目を引いたのは豪華な装飾品で飾られたロープを着た中年の男性だった。その男性に周りには同じようなロープを着ている男女が口々に「やったぞ。儀式は成功だ!」「これで我が国の未来は安泰だ」とか言っていた。
困惑する俺達に最初に目が引いた男性が俺達の前に跪いて、こういった。
「ようこそ。渡来人の方々」と。
とらいじん? どういう意味だ? せめて漢字で書いてくれれば何となくだが分かるだろう。
その意味を訊ねようとしたら、その男性が。
「此処が何処なのか、どうして自分達が此処に居るのか分からず困惑していると思いますが、どうぞ、こちらへ。そこら辺の事をお話しします」
と言いながら、手で扉を差した。これはまずは扉を出ろと言う意味だろうと分かり、俺達はとりあえずその指示に従う事にした。
その後はこの国の国王で名をスティードン一世という人が居る所に案内された。
その間、説明は全くなしで、その部屋に着くと玉座にふんぞりがえっている王冠を被った男性が居た。俺は恐らくその男性がスティードン一世だと分かった。
そして、俺達を案内した男性が石段の所まで来てその王様の傍まで行くと、その男性が話し出した。
此処は普通は王様が話すのではと思うのは、そういう小説を読みすぎか?
そんな事を思っている間も話は進んでいた。
意訳すると、今俺達が居るのは異世界エルディアスで俺達を召喚した理由は、長年の飢饉と旱魃で国が困窮している。それを見て隣国が侵略してくるのでどうか力を貸してくれ。国を救う事が出来たら、其方達の世界に帰還させる方法を探すとの事だ。
その話を聞いて、嘘だろうと思った。
だって、この部屋も王様の傍に居る兵士達の装備も、玉座に座る王様の装飾品の全てに凄い金が掛かっていると思った。
兵士達の鎧は綺麗で傷ついていない上にピカピカだし、着ている生地の光の当たり具合から金糸や銀糸などが使われていると思われる。王様の十本の指全てにはデカい宝石が埋め込まれた指環が嵌められていた。
国が困窮しているとか嘘だろうと思った。
しかし、その話を聞いた俺達の中には同調する者達が居た。
人を見る目が無いというか、その目は節穴なのかと思ってしまった。
呼ばれた俺達の中には教師や親が居ない。講堂にいた学生全員が居るという事だ。
三年生から俺達一年生全員合わせて約百五十人近くいるから、親や教師の目が無い事で何でも出来るという馬鹿は少ない事を祈った。
それを聞いたスティードンは一世は機嫌よく宴で持て成してくれた。
俺は宴をそこそこにして、用意された部屋に入りベッドで横になった。
しかし、異世界エルディアスか。
まさか父さんが来た事がある異世界に召喚されるとは、面白い縁だなと思いつつも目を瞑り眠った。
宴の翌日。
俺達は朝食を食べるなり、ある部屋に案内された
其処は訓練場で詳しくは分からないが、其処の試合場では痛みを疑似再現されるそうだが、死ぬほどのダメージを喰らっても死なないそうだ。
少し前にそんな話の格闘技の深夜アニメがあったな。アニメのタイトルは忘れたけど。
俺は興味なかったが、友達がそのアニメにドハマりして漫画やらブルーレイやらをやたらと勧めて来た。無論、丁重に断った。
訓練で死ぬ事が無いと分かったからか、俺達はその訓練を行う事にした。
最初は自分が使いたい武器を選ぶ事だった。
それを見て思わず目を輝かせた。
蛇腹剣。鎌。槍。剣。斧。変わった所で魔弾銃という魔道具が大量にあった。
ふっ。普段は冷静な俺も異世界の武器を見てはしゃいでしまった。
しかし、魔弾銃か。父の話では死んだ友人が作ったと言っていたが、本当だろうか?
そこら辺を兵士に訊ねると、この国の近くにある大陸に滅んだ国に召喚された渡来人が開発した魔道具だそうだ。
ちなみに、その渡来人は魔人族との戦争で最後の戦いで死んだが、その国の王女と間に子供が出来ており、その子供の子孫は今では大陸にその名を知らぬ者は居ない公国の公王の一族だそうだ。
話の前半分は父さんから聞いていたが、後半の方は聞いて驚いた。
これは父さんへの土産話になるなと思いながら訓練を開始した。
死ぬ事が無いという事で、最初はおっかなビックリで選んだ武器を振るっていたが、終わる頃には武器に振り回される者は居なかった。
訓練が終ると、今度は美人と美男が歓待してくれた。
それを見て鼻の下を伸ばす馬鹿が多数いた。
訓練で疲れている所に美男美女で歓待させるか。これは所謂ハニートラップではと危機感を抱いた。
しかし、それを指摘すると危険人物扱い又は邪魔な存在として暗殺されると思い、俺はそのハニートラップに敢えて掛かる事にした。
けして、好みの女性が居て惚れた訳では無い!
だが、思わずその女性を目で追ってしまう。この気持ちは何だろうか?
そんな訓練と文字の通貨の勉強をしながら美男美女で歓待の歓待を受けながらそれなりの月日がたった。
訓練では魔物が出て来たが、俺達は躊躇しながらも倒した。
最初は小型だったが、俺達が問題と思ったのか段々と中型、大型と大きくなっていった。
中型になってくると連携を組みながら倒していった。
俺達の訓練を見た騎士は「この腕なら大型の魔獣でも倒せるでしょうね」と言って来た。
魔物と魔獣の違いは父さんから聞いて知っているが、知らない人達は違いを聞いた。
固体によって毛皮や身体の色が違う、大きさなど色々とあるが一番の違いは強い事だそうだ。
大型の魔獣になると部隊一つ全滅させる事が出来る程の力を持っている。
俺達もそれほどの力があると分かり、皆歓喜した。
そう喜んでいる所に、カンタベルが俺達の下の来た。
「先程、南部から報告が来た。南の地ではぐれ龍が暴れているらしい。これを倒してもらいたい」
そう言って来た。
龍と聞いて、俺はパッと思いついたのは蝙蝠の羽を持ち四足の蜥蜴みたいな物を連想した。
それだけでは情報不足なので俺は龍について生態を聞こうとしたが。
「おっしゃあああ、俺達の腕を見せる機会がきたぞっ」
「はぐれって事は群れから離れた弱い奴だぜ。きっと」
「でも、龍って事だから弱くても倒したら色々な素材が手に入るだろうぜ」
「ああ、ゲームでもそうだよな!」
「よし。俺、牙もらうぜ」
「じゃあ、俺は角と鱗と皮」
「それは貰い過ぎだろう。どれか一つにしろよ」
「せめて、俺達全員に何か一つ手に入るぐらいの大きさだと嬉しいな」
皆、笑いながら話しながら南に向かう準備をしだした
これは危険だと思った。確かに俺達は大型の魔物を倒せるぐらいの強さを手に入れた。
とは言え、その龍がどれぐらい強いか分からない。
そんな相手に戦いを挑むなんて無謀だ。
俺は皆を止めた。まずは情報を手に入れてそれで作戦を立てようと、だが。
「龍如きに俺達が負ける訳ないだろうっ」
「そうだ。俺達は無敵の渡来人なんだらなっ」
皆は俺の話など考慮すらしなかった。
それどころか、俺を臆病者とか腰抜けと罵倒する始末。
それでも俺は皆に付いて行く事にした。此処に居る皆を一人でも助ける為に。
俺達がカンタベルに言われて南部に着いた。
地図を見るとこのまま進めば龍が居ると思われるポイントに着く頃であった。
皆、ピクニックに来た気分なのか校歌を歌っていた。
呑気を通り越して迂闊だ。此処はいつ戦場になるか分からないと言うのに。
そんな事を思いながら歩いていると。丘の向こうから黒い煙が上がっていた。
恐らく其処に龍が居る。それが分かると、皆持っている武器を構えてその煙が上がっている所へと駆け出した。
駆け出した先で見たものは地獄だった。
「う、うわぁ・・・・・・」
「何だよ。これ・・・・・・」
「あ、あり得ない・・・・・・」
丘を越えると、其処は地面が燃えていた。
元は都市かもしくは城か何かだったのか分からないが、本来は敵の攻撃を受け止める壁がその役割を果たさず黒く焦げていた。
壁の至る所は焦げ、壁の中にある建物は全て燃えていた。
熱気で住人が居るのかどうかは見えないが、平城でかなり広く作られているので相当の人が居た筈だ。
だが、俺達が来た道には人は来なかった。という事は、この炎で逃げ出す事が出来ず焼け死んだのだろうと簡単に予想できた。
何もかも燃えている廃墟の中で、一際デカい存在が居た。
『GAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaa』
その存在は二本の足で燃えている廃墟の中を悠然と歩き、時折背中に生えている翼をはためかせていた。
それはあまりに巨大で、雄々しく、強大で、抗う意思すらかなぐり捨てる存在感を放つ存在であった。
神すら殺せそうな威風。畏怖と畏敬すら抱かせる圧倒的なオーラ。
この存在を言葉で表すとしたら、ただ一言。
破壊神と言えた。
「う、うわああああああああっ」
「やべえよ、まじでやべえよ⁉」
「あんなのかなうわけがねええええっ⁉」
「にげろ、じゃないと、みんなころされるぞ‼」
皆は龍を見た瞬間、足が竦んでいたが一人が叫びながら逃げ出すと、殆どの人がその後に追う。
「こら、逃げるなっ」
俺よりも年長の奴で、ネクタイが緑色だったから三年生だと思う奴が皆を止めようと声を上げるが、誰もその声を聞かなかった。
「くそっ。なら、俺だけでも」
そう言うなり、そいつは持っている武器を構えて駈け出した。
俺は止めようとしたが遅かった。
そいつが駈け出して、後少しで龍の足元に着くと言う所で、龍が口を開いた。
その口から黒い光が見えた。次の瞬間、龍の口から黒い光線が発射された。
黒い光線をもろに受けた三年生は蒸発した。
「「「う、うわあああああああああっっっ⁉」」」
「逃げろ。皆、逃げるんだっ」
俺が声を張り上げながら逃げる様に促すと、皆背を向けて逃げ出した。
俺は皆が完全に逃げ出すのを見送るまで、その場に留まった。
幸いなのは龍は俺達の存在など気に留める程の存在ではないようで、こちらを攻撃する様子はなかった。
「西園寺っ。もう全員、逃げる事が出来たぜっ」
「分かった」
俺と一緒に逃げるのを支援した友人と共に俺達は一目散に王都に逃げ出した。




