第63話 うわぁ、懐かしい人に会えた
この手紙に書かれてる内容の事は別にして、とりあえずこの手紙を隠滅の為に燃やさないと駄目だ。
席を立ち、僕は何処かに火がないかと歩き出した。
そうして歩ていると、廊下の角から話し声が聞こえて来た。
「予想以上に強いな。あの姫は」
「ああ、二十人抜きする女性なんて初めて見たな」
「兄者。感心している場合ではないぞ」
会話から察するに、どうやら今回の婚約者のエントリーしている人達だと思う。
気持は分かる。僕もあれだけ強いとは思わなかった。
「我らが三人同時に相手をしても敵うかどうか?」
「そうだよな。兄者、何か良い案はないか?」
「あるぞ」
何か気になる会話をしているので気になり耳を傾けた。
「まずは俺達三人で一人ずつ当たるんだ」
「おいおい。それじゃあ負けちまうだろう」
「話は最後まで聞け。戦う前にあの姫さんの飲み物に薬を仕込むんだ」
「薬を?」
「ああ、既に決闘の世話役を金で買収した。明日の決闘で飲み物に痺れ薬を入れるそうだ」
「その後は?」
「時間をめいいっぱい掛けて決闘するんだ。後半には薬の効果で」
「成程。あの姫様には悪いとは思うが」
「これもお家の再興の為だ」
「作戦は決まったな。じゃあ、当たる順番を考えるか」
男の人達は何処かに歩いて行った。
角からそっと顔を出すと、男の人達の姿は無かったので何処かに行ったようだ。
「う~ん。これは凄い話を聞いちゃったな」
その内、裏工作をする人が居るのではと思ったけど出て来るのが早かったな。
証拠も無しにこの話をしても誰も信じてもらえないだろうな。さて、どうしたものか。
そう考え込んでいると。
「・・・・・・何をしている?」
後ろからボソリとテノールボイスが聞こえて来た。
思わず身体をビクッと震わせた。
その弾みで手に持っていた手紙を落してしまった。
あっと思っている間に、後ろに居た人がその手紙を取った。
「・・・・・・これは」
日本語で書かれているので、暗号みたいなものだから誰にも読まれる事は無い。
手紙に関しては廊下を歩いていると拾っけど読めないと言えば通じるだろう。
そう考えて振り返ると、ギョッとした。
そこに居たのは竜人族だった。
黄色い鱗を持った竜人で、爬虫類特有の縦長の瞳孔に鳶色の瞳。
鱗と同じ色で口から生やしている髭からパチパチと電気が走っている。乾燥している所だと目に見える位に静電気を発すると聞いた事がある。
何でそんな事を知っているのかと言うと、目の前の竜の事を知っているからだ。
前世の僕に仕えていた『十傑衆』の一人で『雷電』の異名を持つリュウショであった。
「・・・・・・ノブ? リリム?」
手紙を見て呟くリュウショ。
そう言えば『十傑衆』の皆には日本語を教えていたんだ。
こっちの世界の言葉よりも書きやすいし、誰かに見られて大丈夫な秘密の手紙を出す時を考えて。
あっははは、今事思い出すとは。




