第58話 何と言えば良いのか言葉に出来ない
「んぐっ⁉」
御菓子を食べていると突然、背筋が粟立った。
何だ。この感じは?
例えで言うのなら爆薬にニトログリセリンを掛けて火種が傍にあって今にも火が着きそうな位な感じだ。
何が言いたいのかと言うと、顔を合わせてはいけない人達が出会ったという気分だ。
おかしいな。リッシュモンドには何があっても椎名さん達を姉さん達に会わせるなと厳命しておいたんだけどな。
もしかして、僕が攫われた事で対応を誤った?
そんな事・・・・・・無いとは言い切れないな。
もし、そうなったら。
前世で見た映画で〇ジラとキン〇ギド〇が戦っているシーンが頭に思い浮かんだ。
そんな事になったら副都は大丈夫だろうか。
何か不安になって来たな。
そんな時にドアがノックされた。
僕が誰なのか訊ねる前にドアが開き、入って来たのはリリアンさん達であった。
先程まで着ていた質素な服とはうって変わって綺麗なドレスを着ていた。
三人共、型は同じだが色違いであった。
リリアンさんは白。ニコルさんは黄色。ジェシカは藍色。
う~ん。何と言うかこうして見ると、三人共王族と言われても通じる気品と美しさがあるな。
「リウイさん。どう? 似合っている?」
「うん。とってもまるで御姫様みたいだよ」
「えへへ」
嬉しそうに笑うジェシカ。
何かその笑顔を見ていると癒されるな。
「二人共。ほのぼのするのは後にしなさい」
とニコルさんに言われてはっとした。
そして、三人は僕の対面の所に座る。すると、何処からか執事が現れて三人を給仕した。
「リウイ君。此処に来るまで何かされた?」
「いえ、特には」
精々身体を洗われたぐらいだな。
「そう。う~ん」
リリアンさんとニコルさんは頭を捻った。
まぁ、その理由は分かる。
恐らく僕が攫われた理由が分からないのだろう。
犯人を特定させない為であればぞんざいに扱われる筈だ。しかし、そんな様子はない。
では、どうして僕はジェシカ達と一緒に攫われたんだ?
不思議に思っていると、またドアがノックされた。
『失礼します』
ドアをノックした人はドア越しに声を掛けてから部屋に入って来た。
着ている服が執事服ではなく官服のようなので宮臣だと思われる。その宮臣は部屋に入るなリリアンさん達に向かって一礼した。
「陛下がお会いになるとの事でお出迎えに参りました」
「そう。分かったわ」
リリアンさんはそう言って立ち上がったので僕達も立ち上がった。
案内役の宮臣は手で付いて来る様に促したので僕達はその人の後に付いて行った。
部屋を出てそれなりに歩いたけど、廊下の壁の装飾や置かれている花瓶などには金が掛かっていると言わんばかりの物が置かれていた。
周りの調和など考えない金銀で作られて目が痛くなりそうな位に光っていた。
何処かの成金みたいだなと思いながら歩いてると、衛兵が立っている扉の前まで来た。
衛兵が宮臣を見ると、誰を連れて来たのか分かったのかリリアンさん達に一礼する。
そして、持っている槍の石突で床を数度叩いた。
「ブリィンザ公爵様。参りました‼」
そう言うと扉が開いた。
宮臣が部屋に入ったので、僕達もその後に続いた。
先程までの金が掛かった廊下も凄かったが、こちらの方も負けない位に派手だった。
顏が映りそうな位に磨かれた金色の床と天井。その道の真ん中に毛足が長いは真っ赤な絨毯が敷かれていた。その絨毯の先には衛兵が槍を持って立っていた。
更にその奥には床と同じ色の石段がありその段の先には王冠を被った人がいた。
その人の後ろにはこの国の旗が掲げられていた。
宮臣は何も言わず進んでいくので、僕達もその後に付いて行った。
石段から数十歩離れた所でリリアンさんが止まったので僕達も足を止めた。
宮臣は石段の傍まで来ると跪いた。
「スティードン一世陛下。御妹君であられるリリアン様と娘二人をお連れいたしました」
「うむ」
この人がリリアンさんのお兄さんでジェシカ達の伯父さんであるハノヴァンザ王国現国王スティードン一世陛下か。
僕はマジマジと見た。
年齢は三十代くらいだな。
ブロンドの短髪。年齢相応の皺がある顔。
平凡そうな顔立ちで身体も中肉中背といった感じだな。
でも、王冠は宝石が沢山付けられて羽織っているマントも金糸や銀糸がふんだんに使われている。
極めつけに両手の指には宝石が着いた指環が幾つも嵌められていた。
これは何と言うか、ここまでゲームで見る王様っぽい王様は初めて見るな。
前世で見た王様はもっと武人然としていたな。
「御機嫌よう。兄上」
「久しぶりだな。我が妹よ。お前が国を出てからだから、かれこれ十五年ぶりか」
「そうなりますね」
挨拶を交わす兄妹。
それを見てここまで案内して来た宮臣が口を挟む。
「王妹殿下。陛下の前で跪かないとは無礼であろうっ」
と叱責するがスティードン一世はジロリと宮臣を睨む。
「無礼なのは貴様だっ。妹の会話に口を挟むなっ」
「し、失礼しましたっ」
「衛兵‼」
「「はっ」」
「この者を外に連れ出せ。棒叩き二十回だ」
「「はっ」」
そう答えた衛兵はその宮臣の両脇に手を入れる。
「へ、陛下。どうかお許しをっっっ」
ドップラー効果で遠ざかっていく声を聞きながらその宮臣は引き摺られて行った。
それを見てこれは確かに暗君だわと思った。




