第55話 驚きのあまり言葉を失う
「ハノヴァンザ王国現国王スティードン一世の唯一の妹でブリィンザ公爵リリアン。それがわたしの本当の名前と身分よ」
「という事はわたしは王族の子なの? 母様」
「そうよ。それとシャル、二コラ、ジェシーと言うのは偽名で。本当はシャルはシャロン。二コラはニコル。ジェシーはジェシカなのよ」
「偽名を名乗るなんてそんなに国に戻りたくないのですか?」
「国を出る時にもう戻らないと決めたから偽名を名乗る事にしたのよ」
リリーいやこの場合はリリアンさんだな。リリアンさん達の身分は分かった。其処で気になるのは。
「どうして国を出る事にしたんですか?」
「……自分の幸せの為に国を出たという所かしら」
「自分の幸せの為に?」
僕が尋ねるとリリアンさんは頷いた。
「わたしの父で前国王ヘンリード二世は名君と言われる人だったの。戦に赴けば百戦百勝。政を行えば公平無私にして文句が出ない内政を行い、多くの人に慕われる程の人望と大抵の事は受け入れる度量を持った人格者だったわ」
何処のチートキャラだよ。
そんな人間。普通に居ないだろう。
「でも、子に恵まれなかったのよ。出来たのは兄二人ととわたしだけ。他は生まれても夭折したそうよ」
ふむ。だとしたら家督争いに負けたから国を出たと考えるべきかな。
「父はもう一人の兄でジョアンに王位を継がせようとしたのよ」
「そのジョアンという人はどんな人何ですか?」
「一言で言えば軍事に関しては天才だけど内政に関しては箸にも棒にも掛からぬ人という感じね。でも隣国との戦で戦死してね。子供も居なかったから弟のステード今のスティードン一世が王位を継ぐ事になったの」
「そうなんだ。そのスティードン一世ってどんな人なの?」
「兄は身内贔屓目に見ても暗君なのよね。唯一の取柄が絵画だからね。絵だけは見事なのよ。生まれる家を間違えたと言っても良いわね」
残念そうな溜め息を吐くリリアンさん。
「性格もそれほど悪くないわ。故郷に居た頃は可愛がってくれたわ。王位を継いだ後もわたしを邪険に扱わないで公爵の爵位を与えたわ」
王位を継いだら身内を邪険に扱う王もいると言うのにその点は評価できるかな?
「でも、いざ王位に就いた途端、遊興三昧よ。まぁ、同時に軍備にも金を回していたから領土を攻め込まれる事はなかったわね」
「へぇ、普通は軍備費も遊興に使われると思うけどな」
「国が強くないと遊ぶ事も出来ないと分かっていたのでしょうね。本当にギリギリのラインで税を取り立てていたわ。これ以上取れば重税、これ以上軽ければ普通の税という感じで」
「そうい絶妙なラインを見極めるのが得意だったようで」
「ええ、わたしも領地を貰ったからそれなりに税を軽くしたわ。でも、それが家臣達には気に入らなかったのか事あるごとに、わたしを陥れようとしたわ。まぁ、兄は聞き流していたようだけどね。あまりに煩いからそう言ってくる家臣の首を斬ったりしたそうよ」
それだけで殺すなよ。これじゃあ暗君と言われても仕方が無いな。
「はぁ、それは大変でしたね」
「本当にね。そんな時にあったのが今の夫のクリストフよ」
「へぇ。そうなんだ」
「其処から紆余曲折あって、爵位と領地を返上して国をでたのよ。そして、今に至るわ」
はぁ、なかなかない貴種流離譚だな。しかし、どうして僕も一緒に攫われたんだ?
ジェシー達と一緒に行動していたから攫われた?




