第43話 まさか両方で来るとは
馬車に揺られながら進んでいると、丁度『柱雷』から左程離れていない町にて。
「後数時間で『柱雷』に着くから、此処で少し休憩を取りましょう」
セクシャーナトさんにそう言われて少し考えた。
この馬車は揺れは激しくはないのだが、長時間馬車に乗っていたからな。
皆それなりに疲労している。此処は休憩を挟むか。
「そうですね。休憩しますか」
「ええ、そうしましょうね」
笑顔を浮かべるセクシャーナトさん。
その時の笑顔を見て不思議であった。どうして、罠に掛かった獲物を見る目で笑っているのだろうと。
何故そんな笑顔を浮かべるのか直ぐに分かった。
町に着くなり。セクシャーナトさんが僕の手を握って。
「この町は『八獄の郷』の内でも交通の要の一つでもあるから、各地から色々な物が集まるわ。商売になる物があると思うから見に行きましょう」
と言って市場に行く事になった。
セクシャーナトさんの護衛が着くので、二コラは他の人達の護衛をして貰う事にした。
僕はセクシャーナトさんに連れられ市場に向かった。
「おお、これは」
活気がある市場で色々な種族の人達が行き来していた。
これはかなり面白そうだな。
市場にある露店を覗き込んで色々な物を見た。
そして、ある店の商品を見ていると横から視線を感じた。
セクシャーナトさんは僕の後ろに居るので違う。
では、誰だと思いながら横目で視線の主を探した。
そうして、僕から少し離れた所にいる女性が僕を見ている事が分かった。
一つ結びにした銀色の髪。額に二本の角を生やしていた。薄紫色の着物のような服を着ていた。
吊り上がった目に銀色の瞳に縦長の瞳孔を持っていた。
不思議な事に今か今かと獲物を襲う猫の様な雰囲気を出していた。初対面なんだけど。
何だろうと思いつつ、僕はその人から少し距離を取った。
女性はその分距離を詰める。
怖くなって距離を取るのだけど、その分女性は距離を縮める。
一体何なんだ?
此処は聞いてみるか? いや下手にそういう事を聞いたら余計に面倒な事になりそうな気がしてきた。
さて、どうしたものかと悩んでいると。
「あら、ミズホちゃんじゃない。こんな所で出会うなんて偶然ね」
セクシャーナトさんがその女性に声を掛ける。
「お久しぶりです。セクシャー様」
その女性はセクシャーナトさんに頭を下げた。
セクシャーナトさんの知り合いか?
「あの、誰ですか?」
僕がそう訊くとセクシャーナトさんはニコニコと笑いながら手を向ける。
「こちらは貴方の叔母さんのミズホちゃんよ」
「えっ⁈ オバさん?」
僕は思わずその女性を見る。
何処をどう見ても母さんに似てないぞ。本当に叔母さんなのか?
そう思い僕はセクシャーナトさんを見たら、嘘ではないという意味を込めてかニコニコと笑う。
「え、えっと初めまして……叔母さん?」
母さんの妹なのでそう言うべきなのだろう。
「っ⁉」
ミズホ叔母さん?は一瞬驚いた顔をして直ぐに嬉しそうな顔をした。
「やだ。この子、可愛いいっ」
そう言って僕を抱きしめて来た。
「わぷっ」
「顔はバキ姉さんそっくりだけど、こんなに可愛いなんて。う~ん、バキ姉さんも子供が出来たのなら教えてくれればい良いのにっ」
僕を抱き締めながらマーキングするかのように自分の身体を押し付ける。どうやら、この人は母と同じでかなりぶっ飛んだ事をする人と見た。
うっ。かなり大きい胸が僕の顔に当たる。
このままでは呼吸困難になると思われたが。
「姉さん。落ち着いて、そんなに抱き締めたらリウイ君が窒息するわ」
「あら、そう」
そう言ってミズホ叔母さんは僕から離れて行った。
ふぅ、助かったけどちょっと寂しいと思ってしまうのは男の性だな。
仕方がないと思いつつも、僕はミズホ叔母さんに声を掛けた人を見る。
黒い髪を腰まで伸ばしており、こちらは珍しい事に角が無かった。
切れ長の目に金色の瞳を持っていた。
こちらは白を基調とした着物の様な服を着ていた。
「えっと、誰ですか?」
「ああ、自己紹介が遅れてごめんなさいね。わたしは貴方のお母さんの妹のレイアと言うの。よろしくね。リウイ君」
優しそうな笑顔を浮かべながら僕の頭を撫でる。
この人が末妹か。どうやら、こちらの人は冷静な人の様だ。




